【レース直系】キャデラック リリック V発表:0-96km/h加速3.3秒、646馬力のフル電動SUVは「Vシリーズ」の魂を受け継げるか

アメリカの高級車ブランド、キャデラックが放つ初のフル電動ハイパフォーマンスモデル「リリック V」。F1で培われた熱管理技術を駆使し、646PSを誇るこのEVは「Vシリーズ」の魂を体現しているのか?


静寂という名の暴力、あるいはアメリカンマッスルの新たな解釈。そう呼ぶべきかもしれない。

V8エンジンの暴力的な轟音を響かせ、リアタイヤを盛大に空転させながら白煙の彼方へ消え去る……それが、我々のよく知るキャデラックの高性能サブブランド「Vシリーズ」の姿だった。しかし、時代は変わる。英国の紳士が午後の紅茶の代わりにオーツミルクのフラペチーノを飲むようになったように、アメ車の象徴たるキャデラックもまた、ガソリンスタンドではなくコンセントからエネルギーを補給する時代を迎えたのだ。

だが、エンスージアスト諸君、落胆してガレージに引きこもるのはまだ早い。キャデラックは決して、エコで退屈なだけの「走る白物家電」を作ったわけではない。「キャデラック リリック V」、それはVシリーズのバッジを掲げる初めてのフル電動SUVである。最高出力は646PS、最大トルクは904Nm。0-96km/h加速はわずか3.3秒。この数字を聞いて、まだ「EVなんて退屈だ」と嘯く猛者がいるなら、ぜひ今すぐお目にかかりたいものだ。

F1日本戦を前にしたVIPの登場
2026年3月25日、東京都内のキャデラック品川ショールーム。日本上陸111周年という、いささか中途半端だが縁起の良さそうな節目を祝うこの発表会に、本国から大物ゲストが駆けつけた。GMパフォーマンス&モータースポーツ コマーシャルオペレーションズ バイスプレジデント、ジム キャンベル氏である。

週末に控えた鈴鹿サーキットでのF1日本グランプリを前に来日した彼は、生粋のレーシングマンだ。ご存知の通り、キャデラック(GM)は昨シーズンからF1のグリッドに堂々と名を連ねている。そのステアリングを握るのは、セルジオ “チェコ” ペレスとバルテリ ボッタスという、経験豊かな2人のウィナーだ。

キャンベル氏は彼らの起用についてこう語る。
「我々キャデラック・レーシングは、決して傲慢にならず、謙虚な精神でF1という世界最高峰の舞台に挑戦しています。非常に技術的で難易度の高いこのカテゴリーにおいて、チェコとバルテリという勝者の経験は、我々のチームの学習と進歩のプロセスを劇的に加速させてくれるのです」

F1での途方もない挑戦は、決してブランドのプロモーションだけが目的ではない。そこには、市販車への明確なフィードバックというミッションがある。その最たる証明が、今回ベールを脱いだ「リリック V」なのだ。

狂気を孕んだ静寂:キャデラック リリック Vとは何か
まずはこの電気仕掛けのモンスターの全貌を紹介しよう。
指定価格は1,890万円。テスラやポルシェの価格表を二度見する前に、このスペックを確認してほしい。全車両が右ハンドル仕様であり、予約注文による期間限定の受注生産方式(2026年3月25日〜6月21日)が取られる。デリバリーは2027年初頭の予定だ。

デュアルモーターAWDシステムが生み出す475kW(646PS)のパワーは、2,680kgの巨体を軽々と空間の彼方へ弾き飛ばす。この途方もない質量が3.3秒で96km/hに達する様は、物理法則に対するキャデラックなりの強烈なジョークかもしれない。

足元には22インチの専用大径リバースリムホイールが鎮座し、ダークカラーの仕上げがエクステリアの凄みを増幅させている。ローダウン化されたフォルムにブラックルーフ、そして専用のフロントフェイスとサイドロッカーが、道ゆく人々に「ただ者ではない」ことを無言で悟らせる。そしてホイールの奥には、ブレンボ製の6ピストン・パフォーマンスキャリパーが鈍く光る。指先で回生ブレーキをコントロールできる「バリアブル・リジェン・オンデマンド」も健在で、パドル操作のみで完全停止まで持ち込める。物理ブレーキのフェードを回避しつつ、この巨象を意のままに操るための必須装備だ。

ドライブモードには、電子制御の介入を抑え、ドライバーの腕を試す「コンペティティブ」モード(Vモードボタンを2度押し)や、ローンチコントロールを起動する「ヴェロシティマックス」モード(長押し)が用意されている。ただし、これらはクローズドコース専用だ。公道の信号待ちで試そうものなら、首の筋肉を痛めるだけでなく、翌日のタブロイド紙の一面を飾ることになるだろう。

インテリアに目を向ければ、そこはもはや高級オーディオの試聴室である。対角33インチの大型LEDディスプレイがドライバーを迎え、ノイズレスな空間には23個のスピーカーからなるAKGスタジオ・オーディオシステムが設えられている。Dolby Atmosによる極上の3D音響は「立体的に音が見える」ほどの解像度を誇るという。

さらに、EVSE(Electric Vehicle Sound Enhancement)が走行状況に応じたサウンドを生成し、車外の2基の専用スピーカーから発信する。静寂なEVでありながら、自らの存在を音で主張する。なんともアメリカらしいエンターテインメント性ではないか。

レーシングスピリッツとモータースポーツからのフィードバック
このリリック Vには、キャデラックがモータースポーツで培ってきた高度なエンジニアリングが惜しみなく注ぎ込まれている。
「レースの現場は、エンジニアを鍛え上げる最高のトレーニング場です」とキャンベル氏は胸を張る。「CFD(数値流体力学)によるエアロダイナミクス開発や、タイヤモデリングなどのシミュレーション技術、そしてAIを活用した迅速な開発サイクル。これらすべてが、リリック Vの設計に直接フィードバックされています」

とりわけ注目すべきは、「エクストラ・キャパシティ・クーリング」と呼ばれる強化された熱管理システムだ。646PSもの出力を発揮し、猛烈な加速を繰り返せば、モーターやインバーター、バッテリーはたちまち悲鳴を上げる。しかし、過酷な耐久レースやF1の現場で培われたサーマルマネジメント技術が、主要コンポーネントを最適な温度に保ち、パフォーマンスの低下を徹底的に防ぐのだ。

また、既存のガソリンモデルであるVシリーズのオーナーに対しても、キャンベル氏は強い自信を覗かせる。
「V8サウンドを持たないリリック Vが、これまでのVシリーズオーナーに受け入れられるか? その答えは『イエス』です。Vシリーズの真髄は、サーキット由来の圧倒的なパフォーマンスと、キャデラックならではの洗練されたラグジュアリーの融合にあります。ステアリングを握り、アクセルを踏み込んだ瞬間、彼らはこの車が間違いなく『V』の血統を受け継ぐマシンであると確信するはずです」

内燃機関の咆哮こそ失われたが、その代わりに得たのは、タイムラグの全くない圧倒的なトルクと、シームレスな加速。それは、新たな時代のレーシングスピリッツの表現なのだ。

なお、標準モデルの「リリック」には、3年間の残価保証型リースプログラム「LYRIQ フラットプラン(月々定額99,220円)」が用意されているが、このリリック Vは対象外だ。真のハイパフォーマンスを求めるなら、それ相応の覚悟と対価が必要ということである。

発表会で行われたQ&Aセッションでは、我々メディアから細部に切り込む質問が飛んだ。その一部を抜粋しよう。
Q. 驚異的な加速性能を実現する上で、バッテリーやモーターの熱対策はどうなっていますか?
「開発段階から熱管理には非常に注力しており、特に日本や欧州市場向けにはモニタリングと改善を重ねてきました。ベースモデルとは異なる『エクストラ・キャパシティ・クーリング』という強化された冷却システムを搭載しています。これにより、熱を帯びるモーター、インバーター、バッテリーのすべてを効率的に冷却し、過酷な状況下でもパフォーマンスを維持します」
Q. ベースモデルと比較して、航続距離はどの程度でしょうか?
「公式な数値は未公表ですが、欧州のWLTPモードでは471kmという数字が出ています。展示車両の実測データでも、充電98%で480kmと表示されており、実用上500km前後の走行が十分に期待できると考えています」
Q. 他のハイパフォーマンスEVと比較した際の、キャデラックならではのアドバンテージは何ですか?
「長年モータースポーツで培ってきた『Vシリーズ』の技術と、我々の伝統である『ラグジュアリー』の融合にあります。単に直線が速いだけの車ではありません。快適性を一切犠牲にしていない点が最大の特徴です。広い後部座席や、23個のスピーカーによる『音が見えるような』AKGサウンドシステムなどが、その証左です」
Q. ブレーキの強化以外に、リリック V専用の走りの特徴はありますか?
「電子制御サスペンションのCDC(コンティニュアス・ダンピング・コントロール)を新たに採用し、ジェントルな走りとスポーティな走りを高次元で両立させています。また、目に見えない部分ですが、フロントでプラス8mm、リアでプラス10mm、スタビライザーの径を太くすることで、ボディ剛性とコーナリングのパフォーマンスを高めています」
Q. Vモードの『コンペティティブ・モード』では、駆動配分がリア寄りになるのでしょうか?
「このモードの最大の目的は、ESC(横滑り防止装置)やトラクションコントロールといった電子制御の介入を低減させることにあります。それにより、ドライバーが自らの腕で車を操る余地を広げています。前後配分については、特定の比率に固定するのではなく、走行状況に応じて各タイヤに最適に駆動力を分配する仕組みとなっています」
Q. 充電の仕様について教えてください
「日本市場向けに独自開発を行い、国内で最も普及しているCHAdeMO(チャデモ)急速充電と、200Vの普通充電に対応しています。また、新車登録から8年間無料となる通信機能『Googleビルトイン』についても、グローバルローミングによって日本国内の5G通信エリアで快適にご利用いただけます」

時代は変われど、キャデラックが抱く速さへの執念と、ラグジュアリーへの飽くなき探求心は変わらない。内燃機関の終焉を嘆き、昔を懐かしむ前に、一度この電気の怪物と対峙してみるべきだ。きっと、新たな時代のモータースポーツの香りを、その無音の加速の中に感じ取ることができるはずである。
写真:上野和秀

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