2025年12月、富士スピードウェイで開催された「ロータス77周年トラックデイ」。新旧51台の競演と、そこで語られた「PHEV開発」の可能性とは。英国の名門が模索する、内燃機関と電動化の狭間にある真実を現地からレポートする。
2025年も残すところあとわずかとなった12月14日、日本のモータースポーツの聖地、富士スピードウェイに「特別な香り」を放つ一団が集結した。それは、オイルとガソリン、そして熱せられたブレーキパッドが混じり合う、我々が愛してやまない「アナログな機械」の匂いと、静寂の中で強烈なトルクを発生させる「次世代の電気」の気配である。
今回は、創業77周年を迎えた英国の至宝、ロータスが開催した「ロータス 77周年アニヴァーサリー トラックデイ」の模様を、現地で感じた熱気、そしてそこで語られた「ブランドの未来」と共にお届けする。これは単なる走行会レポートではない。自動車史におけるもっとも純粋な血統が、いまどのように変貌し、そして何を守ろうとしているのか。そのドキュメンタリーである。
霧の富士に舞い降りた「軽量化」の亡霊たち
当日の富士スピードウェイは、英国ノーフォークのへセルを彷彿とさせるような、あるいはロータスの歴史そのもののように神秘的な霧に包まれていた。しかし、その白い帳(とばり)を切り裂いたのは、現代の電子音ではなく、かつてサーキットを支配した往年のフォーミュラ・サウンドであった。
エントリーリストを見て思わず唸らされる。「LOTUS 41(1966年)」「LOTUS 51FF(1968年)」「LOTUS 59B(1969年)」、そして「LOTUS 69FF(1971年)」。博物館の展示室で眠っているべき個体ではない。これらは、オープニングデモラップのために、その心臓を再び高鳴らせていたのである。
ロータスの創業者、コーリン チャップマンが遺した哲学はあまりにも有名だ。「パワーの増大はストレートでの速さを生むが、軽量化はあらゆる局面での速さをもたらす」という概念である。
この日集まったヘリテージモデルたち――「エリート レーシング」「セブン S2」「エラン」「ヨーロッパ SP」――は、まさにその思想の結晶だ。現代の車が安全性や快適装備という贅肉を纏うなか、これらの車は「走る」という機能以外をすべて削ぎ落としている。霧の中を疾走するその姿は、物理法則に対するロータスの回答がいかに正しかったかを、半世紀以上経った今も我々に突きつけてくる。特に注目を集めたのは、ワンオフボート「LOTUS EUROPA RUNABOAT SPECIAL」の展示だろう。ロータスのエンジニアリング精神が、陸の上だけでなく水上へも向けられていたという事実は、彼らの飽くなき好奇心を象徴している。
「最後」の内燃機関と、「最初」の電気たち
今回のイベントの象徴的なシーンは、過去と現在の交錯であった。エントリーリストに目をやると、最も多くの台数を占めていたのは、やはり現代のロータスを支えるモデルたちである。「エリーゼ」「エキシージ」、そして「エヴォーラ」。これらは、チャップマンの哲学を現代の技術で解釈し直した、いわば「アナログスポーツカーの完成形」だ。
特に「エキシージ 410」や「2-イレブン」といったハードコアなモデルがサーキット走行枠(Hot Laps)に名を連ねているのを見ると、ロータスオーナーたちが車を「飾るため」ではなく「走らせるため」に所有していることがよく分かる。トップギア読者ならば同意するだろうが、ロータスはガレージの肥やしにする車ではない。タイヤカスを浴びてこそ輝くのである。
そして、その中心にいたのが、ロータス最後の内燃機関車と言われる「エミーラ」だ。今回は「エミーラ V6」や「2.0 ターボ」など、多数のエミーラがエントリーし、10台による「エクスクルーシブラップ」も披露された。トヨタ製V6エンジンのスーパーチャージャーが奏でる咆哮と、AMG製ターボエンジンの鋭い吹け上がり。それは、去りゆく内燃機関時代への惜別であると同時に、ロータスが到達したハンドリングマシンの極致を見せつけるものであった。
一方で、会場には異質な存在感を放つ巨体もあった。オールエレクトリックハイパーSUV「エレトレ」と、ハイパーGT「エメヤ」である。
往年のファンにとって、2トンを超える巨体のEVを「ロータス」と呼ぶには、心の整理が必要かもしれない。しかし、実際にサーキットを走るその姿を見ると、物理法則をねじ伏せるような制御技術には、形を変えた「ロータス・テクノロジー」が息づいていることを認めざるを得ない。51台の新旧ロータスが一堂に会したパレードランは、まさにブランドの過渡期を象徴する、複雑で、しかし美しい光景であった。
衝撃のプレゼンテーション:ロータスは「現実」を見据えている
さて、今回のイベントで筆者が最も重要だと感じたのは、エンジンの音ではなく、Lotus Cars Asia Pacificのオペレーション責任者(Japan/Taiwan)、寺嶋正一氏によるプレゼンテーションの内容であった。
多くの自動車メーカーが「完全電動化」というスローガンを盲目的に掲げる中、寺嶋氏が示した見解は驚くほど率直で、エンスージアストにとって一筋の光明となるものであった。
彼はまず、1948年のガレージ創業からF1での栄光、そして「For the driver(運転する人のために)」という不変の哲学について言及した。ここまでは予想通りである。しかし、その後の内容が会場の空気を変えた。
ロータスは早期から電動化に挑戦してきたものの、世界的、特に日本市場においては困難な課題に直面しているという認識が示されたのである。
トップギア読者諸兄、これこそが「真実」だ。充電インフラの問題、そして何より、内燃機関がもたらす官能性を愛するファン心理。ロータスはそれを無視していなかったのである。さらに寺嶋氏は、今後はオーナーの意見を汲み取りながら、柔軟な車づくりを模索していく姿勢を示した。その中で、具体的にはPHEV(プラグインハイブリッド)などの開発も進行中であり、将来的にオーナーへ最適なプロダクトを提供する意向が明かされた。
これは重大なニュースである。「PHEV」の可能性への言及。
ロータスが、単にバッテリーEV(BEV)へ一直線に進むのではなく、内燃機関と電気のハイブリッドという、ある意味で「現在もっとも実用的かつ高パフォーマンス」な解への揺り戻し、あるいは多様化を示唆したのである。
「軽量化」を至上命題とするロータスにとって、バッテリー重量は敵だ。しかし、内燃機関を残しつつ電動化の恩恵を受けるPHEVという選択肢は、次世代の「ライトウェイト・スポーツ」への新たなアプローチになるかもしれない。これは、我々が愛する「音」と「振動」、そして「軽快感」が、まだしばらくは生き続けるかもしれないという希望のメッセージである。
オーナーこそが、ロータスの魂
イベント全体を通して感じたのは、ロータスというブランドが、いかにオーナーたちに愛され、支えられているかという事実だ。配布されたエントリーリストの「年式」の欄に注目したい。1966年の「Lotus 41」から、2024年の「Emira」まで、実に58年もの開きがある。しかし、パドックで交わされる会話にジェネレーションギャップはない。
「エスプリ・スポーツ300(1993年)」のオーナーが「ヨーロッパ(1974年)」のエンジンルームを覗き込み、「エリーゼ(2001年)」のドライバーが最新の「エメヤ」のコクピットに座ってみる。そこにあるのは、形やパワートレインがどう変わろうとも、根底に流れる「ドライビングプレジャーへの執着」への共感である。
寺嶋氏もプレゼンテーションの中で、77年の歴史を支えてきたオーナーこそが、ロータスの哲学を深く理解している真の主役であると評していた。メーカーが一方的に車を作るのではなく、オーナーがそれを育て、伝説にしていく。ロータス・コミュニティの強さは、まさにここにある。霧の中で色とりどりのロータスが整列した姿は、単なる工業製品の集まりではなく、一つの文化、一つの「トライブ(部族)」の集会のように見えた。
次なるステージへ:東京オートサロン2026への期待
イベントの最後には、来年1月の「東京オートサロン」への出展も告知された。詳細は追って発表されるとのことだが、今回示唆された「柔軟な車づくり」や「PHEV開発」に関連する何らかの具体的な展示、あるいはメッセージがあるのか、期待が高まる。
77周年を迎えたロータス。コーリン チャップマンが今の2トン級のSUVを見たら、最初は眉をひそめるかもしれない。しかし、その加速力と、巧みに制御されたハンドリングを体験した後には、もっと軽くできるはずだとの評価を下すのではないだろうか。
ロータスは今、大きな変革の嵐の中にいる。しかし、富士スピードウェイに集まった51台の熱気と、メーカー側の「オーナーの声を聞く」という姿勢がある限り、その魂が失われることはないだろう。BEVであれ、PHEVであれ、あるいは最後のICEであれ、ロータスのステアリングを握るということは、依然として特別な体験であり続けるはずだ。
我々トップギア・ジャパンは、この英国の名門が模索する「新しい時代のライトウェイト」の行方を、今後も厳しく、そして愛情を持って追い続けていく。
ロータスが「PHEV開発」を示唆? 77周年トラックデイで語られたブランドの現実的な未来
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