WEC富士を前にプジョーのL.デュバルとM.ヤコブセンを直撃。革新的マシン9X8の開発秘話、日本への特別な想い、そして表彰台を狙うための緻密なレース戦略を、二人の言葉で詳述する。
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2022年、世界耐久選手権(WEC)の最高峰、ハイパーカークラスに衝撃が走った。フランスの獅子、プジョーが革新的なマシン「9X8」を引っ提げて帰還したのだ。その最大の特徴は、レーシングカーの常識を覆す「リアウィングレス」という大胆なコンセプトにあった。
あれから2年。熟成を重ね、今季からはリアウィングを備える進化を遂げた9X8は、前戦オースティンで3位、4位フィニッシュを飾るなど、着実にその戦闘力を高めている。決戦の地、富士スピードウェイを前に、我々はプジョー・トタルエナジーズ・チームのキーマンである二人のドライバーに話を聞く機会を得た。
一人は、日本で8年間暮らし、フォーミュラ・ニッポンとSUPER GTのダブルチャンピオンに輝いた経験を持つ、日本を愛し、日本に愛されるベテラン、ロイック デュバル選手。もう一人は、昨年まで工場で部品の組み立て作業をしていたという驚きの経歴を持ち、今年レギュラードライバーの座を掴んだ21歳の新星、マルテ ヤコブセン選手だ。
経験豊富な師と、急成長を遂げる若き弟子。対照的なキャリアを持つ二人が、富士への意気込み、革新的なマシンの秘密、そしてチーム内の固い絆まで、その全てを語ってくれた。
テーマ1:週末の富士、そして日本という特別な場所
Q. まずは今週末に迫った富士6時間レースへの意気込みからお聞かせください。前戦オースティンでは素晴らしい結果でしたが、チームの雰囲気はいかがですか?
ロイック デュバル選手(以下、LD): ええ、最高の気分ですよ。オースティンではチームとして3位と4位を獲得できましたし、我々94号車もダブルフィニッシュを飾ることができ、富士に向けてのモチベーションは非常に高い状態です。今週末の目標は、もちろん表彰台に上がること。そのために、ファクトリーに戻ってシミュレーターでの準備もしっかりと行ってきました。
マルテ ヤコブセン選手(以下、MJ): 僕もロイックと同じ気持ちです。ファクトリードライバーとしてハイパーカーでレースができること、そのものに大きな喜びと興奮を感じています。どんな状況でも、新しい挑戦を楽しみたいと思っています。
Q. デュバル選手は日本でのレース経験が非常に豊富ですが、改めて日本に戻ってくるというのは、どのようなお気持ちですか?
LD: いつだって日本に帰ってくるのは嬉しいものです。ご存知の通り、僕は2006年から2014年までの8年間、日本に住んでいましたからね。友人もたくさんいますし、この国の雰囲気も、そして何より熱心なファンに会えるのが楽しみでなりません。昔、僕が乗っていた古いマシンのモデルを持ってきてくれるファンがいると、本当に長く応援してくれているんだなと感動します。
日本で一番忘れられない思い出があります。まだ日本に来たばかりの頃、鈴鹿でのフォーミュラ・ニっぽンのレースが冬で、すごく寒かったんです。その時、一人のファンの方が、自動販売機で買った温かい缶コーヒーを僕に差し出してくれたんです。当時のヨーロッパには飲み物が温かい状態で出てくる自販機なんてありませんでしたから、まずそのことに驚きましたし、その優しさに心から感動しました。今でも鮮明に覚えています。
Q. 日本の食文化はいかがですか?好きなもの、苦手なものはありますか?
LD: 日本食は大好きですよ!特にお寿司としゃぶしゃぶは最高ですね。ただ……一つだけ、どうしてもダメなものがあります。それは納豆です。匂いからしてもう……(苦笑)。あれだけは受け入れられません。
Q. ヤコブセン選手は、日本のレース文化やコースについてどのような印象をお持ちですか?
MJ: 日本はモータースポーツの歴史において、本当に素晴らしい国だと思います。F1が開催される鈴鹿のような象徴的なサーキットもありますしね。天候、特に湿度が高かったり霧が出たりと、トリッキーで難しいコンディションになることが多いと聞いていますが、個人的にはそういったチャレンジングな状況は大好きなので、とても楽しみにしています。
テーマ2:常識を覆したマシン「プジョー 9X8」の秘密
Q. プジョー 9X8といえば、デビュー時の「リアウィングレス」というデザインが世界中を驚かせました。なぜ、あのような大胆なコンセプトを採用したのでしょうか?
LD: あれには二つの理由がありました。一つは純粋なパフォーマンス、もう一つはマーケティングです。開発当初、エンジニアたちはレギュレーションの範囲内で空気抵抗(ドラッグ)を最小限にしようと、できるだけ小さなリアウィングを設計しました。しかし、シミュレーションをしてみると、それでもドラッグが想定より大きかったのです。そこで彼らは「いっそ、完全に取り払ってみたらどうなる?」とテストをしました。すると驚いたことに、ウィングがなくてもルールで定められたダウンフォースを達成できることが分かったのです。
そしてもう一つの理由。レース活動はブランドの広報ツールでもあります。リアウィングのないハイパーカーというのは、デザイン的にもイメージ的にも、非常に強烈なインパクトを与えることができますからね。
Q. それほど画期的だったウィングレスですが、今シーズンからリアウィングを装着するデザインに変更されました。これはなぜでしょうか?
LD: ここで強調しておきたいのは、ウィングがあってもなくても、マシンが発生するダウンフォースの総量自体は変わらない、ということです。ウィングレスだからといって、運転できないほど不安定だったわけでは全くありません。むしろ、「目をつぶって運転できる」 と表現したいくらい、ごく普通の、速くて競争力のあるレーシングカーでした。コーナーでも地面にピタッと吸い付くような、素晴らしい感覚がありましたよ。
デザインを変更した最大の理由は、セブリングやオースティンのような、路面がバンピーな(凹凸の多い)サーキットへの対応のためです。そういったコースでは、マシンが細かく振動したり跳ねたりした後に、いかに素早く車体を安定させるかが重要になります。リアウィングがあることで、その安定性をより高めることができると判断したのです。
Q. ハイパーカーのAWD(四輪駆動)ハイブリッドシステムは非常に複雑だと聞きます。特にタイヤマネジメントへの影響は大きいですか?
LD: その通りです。我々の9X8は、フロントにモーターを搭載したAWDシステムで、その制御は高度にプログラミングが可能です。例えば、タイトなコーナーでは、フロントモーターを積極的に使うことで車体を安定させ、立ち上がりを鋭くすることができます。
しかし、富士の100Rのような高速で長いコーナーでフロントモーターを使い続けると、フロントタイヤに過剰なパワーがかかり、ひどく発熱してしまいます。耐久レースではタイヤの性能をいかに維持するかが勝敗を分けますから、これは致命的です。コーナーの特性に合わせてAWDの介入度合いを緻密にコントロールすることが、ドライバーには求められます。
テーマ3:富士スピードウェイ攻略の鍵
Q. 改めて、今週末の富士スピードウェイをどのように攻略していきますか?
LD: 富士は大きく3つのセクターに分かれています。長いストレート、高速コーナー区間、そしてテクニカルな低速コーナー区間です。最も重要なのは、最後の低速セクターですね。ストレートではドラッグを減らしたい、高速コーナーではダウンフォースが欲しい。ですが、低速コーナーで求められるのは、空力よりもメカニカルなグリップとトラクションです。
6時間の長丁場ですから、レースを通してリアタイヤの性能をいかに安定させるかが最大の鍵になります。我々3人のドライバーがそれぞれ2スティントずつ走る中で、タイヤのパフォーマンスを最後まで維持し、ドライバーもピットクルーもミスをしないこと。それができれば、必ず結果はついてくると信じています。
テーマ4:師弟の絆とチームの力
Q. レースでは、時に順位を大きく落とすなど、苦しい状況に陥ることもあります。そうした中で、どのようにモチベーションを維持しているのでしょうか?
LD: 正直に言って、難しい時もあります。特に自分のミスで順位を落とした時は、精神的に堪えますね。ですが、僕には一つのルーティンがあります。「乗り込む時にヘルメットをつけます。で、車に乗り込みます。この時に、もうバチンとスイッチが入るんです」。ひとたびスイッチが入れば、個人的な感情は消え去ります。「もうこうなった以上はベストを尽くす。勝てないとしても自分はベストを尽くす。これしかない」 と、常に自分に言い聞かせています。
Q. ヤコブセン選手は今年、初めてファクトリーチームのレギュラードライバーとなりました。その心境はいかがですか?
MJ: 長い間、この日を夢見て努力してきたので、シートが決まった時は本当に嬉しかったです。しかし、それと同時に大きなプレッシャーも感じています。実は、「去年の11月まで、小さな部品を組み立てる仕事でフルタイムで働いていた」んです。ですから、このファクトリードライバーという仕事は、僕にとって本当の意味での最初のプロフェッショナルなキャリアなんです。
Q. お二人は師弟のような関係にも見えますが、お互いをどのように見ていらっしゃいますか?
MJ: 僕がロイックから学びたいのは、ドライビングスキルだけではありません。むしろ、「レースをしている時以外のドライバーとして、どう振る舞ったらいいか」 ということです。エンジニアとの対話の仕方、メディアやマーケティング活動への対応など、彼が見せるプロフェッショナルな姿勢の全てを尊敬していますし、それを吸収したいと思っています。チーム内にこれほど良い雰囲気が流れているのは、間違いなくロイックのおかげです。
LD: マルテはもう十分に速いドライバーですから、僕が運転の仕方を教える必要なんてありません。僕の役割は、彼のような若く才能あるドライバーが、最高のパフォーマンスを発揮できるよう、快適でサポートされていると感じられる環境を整えることです。彼は非常にプロフェッショナルですよ。特に感心したのは、スパでのレースで他車との接触によりリタイアしてしまった後の彼の振る舞いです。若いドライバーがあのような不運に見舞われると、精神的に落ち込んでしまうことも多いのですが、彼はすぐに気持ちを切り替え、何事もなかったかのように次の仕事に取り組んでいました。21歳であの精神的な成熟度は、本当に素晴らしいと思います。
Q. そのプロフェッショナリズムは、彼の北欧(デンマーク)という出自も関係しているのでしょうか?
LD: それはあるかもしれませんね(笑)。我々ラテン系(フランス人)のドライバーとは少し違うかもしれません。モータースポーツの世界では、時にルールのグレーゾーンを探すことが勝利に繋がることもあります。冗談めかして言えば、「最高のエンジニアは、最高のチーター(ズルが上手い人)」 なんて言われるくらいですからね。しかし、彼はルールやシステムを厳格に尊重する。その規律正しさは、彼の大きな強みだと思います。
Q. 最後に、プジョーチームはフェラーリなど強力なライバルと戦っています。チームの現状と今後の展望についてお聞かせください。
LD: 我々プジョーは、過去のレースプログラムを一度終了させていたため、このWECプロジェクトを本当にゼロから立ち上げなければなりませんでした。一方、我々より後に参戦を表明したフェラーリは、F1やGTなど既存のプログラムから優秀な人材を異動させるだけでチームを組織できた。そのスタートラインの違いは、正直言って大きかったと感じています。しかし、オペレーションの質やチームとしての結束力では、我々が上だと信じています。前戦の結果がそれを示していますし、2025年に向けて開発中のマシンも、マルテが言ってくれたように、僕の貢献もあって(笑)、非常に良い仕上がりになっています。まずは今週末の富士で、我々の進化を日本のファンの皆さんにお見せしたいと思います。
インタビューを終えて、我々の前には、絶対的な自信と互いへの深いリスペクトで結ばれた二人のレーシングドライバーの姿があった。日本のファンとの心温まる思い出を語るデュバル選手の優しい眼差し。そして、ファクトリードライバーという夢を掴んだばかりのヤコブセン選手の、未来を見据える力強い眼差し。
経験と若さ、二つの才能が融合するプジョーチームが、聖地・富士でどんな戦いを見せてくれるのか。フランスの獅子の逆襲が、今、始まろうとしている。
400号記念:UK400マイルロードトリップ/フェラーリ F80/フェラーリハイパーカー:トップギア・ジャパン 069
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