ディーラー探訪でブランドの今が見えてくる:MUTT福岡

英国バーミンガム発祥の「MUTT」というバイクブランドをご存知だろうか。このレトロなスタイリングを持つ小排気量のカスタムバイクは、気軽に乗れて、維持が簡単、価格が手頃で、しかも大型の旧車と同じようなスタイルとサウンドを感じながら無限のカスタマイズの可能性を持つユニークなバイクである。
ベテランライダーはこの完成されたスタイルに懐かしさを感じ、ファーストライダーには新鮮に映るこのバイクを取り扱うMUTT福岡の原田將弘代表取締役に、ブランドの魅力とバイクのエキスパートならではの視点からの店舗へのこだわりを伺ってきた。

併売店ならではの発想

MUTT福岡は糸島市にほど近い福岡市西区丸川に位置する。近くには九州大学の伊都キャンパスがあり、きれいに整備された学園通りを走ると「MUTT Motorcycle」と壁に書かれた大きな黒い建物が目に飛び込んでくる。そこが株式会社スピードの運営するMUTT福岡である。

糸島の海岸沿いをツーリングする人は必ず通る道なので、この建物が気になっているライダーも多いのではないだろうか。

店舗に入るとまず驚くのが、各モデルが実に美しく並んでいることだ。いや美しいのレベルを越えて芸術的と言って良い。MUTTは入口正面に展示されているが、すべてのモデルの目がこちらを向いている。原田代表に話を聞くと「自分は日本一展示にうるさいバイク屋」だという。

バイクはそもそも理屈ではなくエモーショナルな動機で買う商品なので、そのモデルの最もカッコいい姿でお客様に見てもらいたいという願いから、1cm単位で展示車両の調整を行っている。「百貨店でもブランドショップでも当たり前にやっていることでしょう?バイク業界はまだそこを理解していない」と微笑む。

長年の経験から複数台数の展示で最もキレイに見える法則も編み出し、自分も説明をしてもらったが、手の内を簡単に明かしてしまうのは原田代表に失礼だと思うので、ここでは割愛させていただく。しかしながら、そんな細かいこだわりからも原田代表のバイクへの愛を感じることができる。

原田代表のバイクとの出会いは30年以上前のことである。一番好きなバイクは仕事にしたくないという想いから自動車整備士になったが、行きつけのバイクショップの店舗拡大をきっかけにこの業界に飛び込んできた。

後にハクスバーナとの出会いが現在の輸入バイク専門店を始めるきっかけとなる。最初の1台は販売するのに苦労したが、馴染みの床屋さんから「自分で乗ればいいんじゃない?」とのアドバイスを素直に受け入れ、自分で乗ってプロモーションすることで道が開けた。「自分は国産派だったのですが、輸入バイクは乗ると楽しくて、感性的にも合っていたので輸入車に興味を持つようになりました」と語る。商売的にも競合が少なかったこともこの輸入バイクビジネスを始めるきっかけになったという。

ショールームにはMUTTだけではなくタイのGPXやイタリアのベネリ、フランスのプジョーなどの珍しいバイクが並ぶ。原田代表は「セカンドライン」と称する、希少性が高く比較的安価なモデルを専門に取り扱う戦略を立てた。これは1つのブランドを取り扱うよりも様々なモデルからお客様に合ったモデルを提案してあげたいという、バイクのエキスパートとしての考えからである。多様な選択肢のある中で比較して説明し、お客様にとっての最善を見つけ出す作業を大事にしている。

「納車する前にその次のバイクを提案することもあるのですが、結構そのアドバイス通りに買っていただけることもありますね」いまではお客様のバイクライフを支えるアドバイザーとしての手腕が認められ、インポーターを始め、同業者、そして取引先からも九州では一目置かれる存在となっている。

納得するモデル選びの法則

福岡のお客様もMUTT購入の最大の動機はそのスタイリングのカッコ良さだという。主には新規のファーストバイクとして購入される方となり、ゆえに最終的なモデル決定に迷われる方も多くいる。そんなときの原田代表のアドバイスは実にシンプル。バイクをタンク・シート・ホイール・タイヤ・ハンドル・マフラーと切り分けて考え、それぞれの好みを聞く。その中で絶対に譲れないスタイルのパーツを決めてもらい軸とすることで、最良のモデルが出来上がる。色などは後から変えられるが、変えられない部品から選ぶことで後々お客様は自分の選択が間違っていなかったという「確信」に変わるという。そして「良い所も悪い所も包み隠さず話す」という姿勢がお客様からの信頼をさらに高めている。

原田代表によるとMUTTの最大の魅力はすでにバランスよくカスタムしてあること価格が適正なことで、人とは違う何かを求めるお客様にオススメしたいという。

一番のオススメモデルは、乗りやすさと機械的な新しさからDRK-01だという。メカニカルな信頼性の高さや、スタイリッシュな姿、そしてどんなシーンでも使える多様性が魅力だという。チューブレスホイールを採用し、スポークの付け根の細工やホイールに入ったロゴマークなどはいかにもカスタムビルダーが作ったこだわりを感じることができる。水冷エンジンを搭載したこのモデルは初めてバイクに乗る人も、ベテランライダーも納得できる乗り味だという。そう原田代表が言うのであれば、DKR-01は間違えない選択肢だろう。

もう一つのこだわりは写真

原田代表のもう一つのこだわりはバイクの写真である。専属のカメラマンも雇っているが、自身のスマホの中は数え切れないほどのバイクの写真で溢れている。カメラのことはわからないが、そのバイクが一番セクシーに見える構図をいつも探しているという。一度原田代表のSNSを覗いてほしい。きっとそのモデルの魅力にフォーカスが当たっているはずである。

そしてときにはお客様の写真撮影の手伝いもする。バイクを美しく撮影する方法を教えることで、そのお客様が後に「発信者」となったときにブランドの魅力をインポーターやディーラーに成り代わって伝えてもらえることに期待しているからだそうだ。「長い目で見てブランドのためになるといいですね」と語る。

この9月から若い古藤店長が店舗の運営を任されている。原田代表の今後の目標は、この古藤店長にこれまでの経験を伝え、輸入バイクの販売のノウハウを継承し、楽しさを伝えていくことだと言う。

古藤店長は、MUTTは乗って楽しいモデルばかりなのでぜひ試乗をしにショールームに足を運んでほしいと語る。そしてまだあまり知られていないこのブランドの魅力を積極的に発信し、またお客様自身もMUTTの楽しさを伝える「皆から憧れられる存在」になってほしいと言う。

MUTTは長年バイクのカスタムビルダーとして活躍したベニーと、デザイナーのウィルという、違う個性が融合してできたブランドである。MUTT福岡も経験豊かなエキスパートに若い感性が加わり新たな章が始まる予感がする。

マルチブランドのディーラーだからこそ明らかになるMUTTの魅力を発見しにMUTT福岡に立ち寄ってみてはいかがだろうか。

MUTT 福岡
819-0370 福岡県福岡市西区丸川二丁目1558-6-3
TEL:092-834-9003
営業時間:12:00-17:00
定休日:日曜日、月曜日
Instagram:https://www.instagram.com/speed.motor.garage.2nd/

【編集後記】
MUTT福岡の原田代表に話を伺ってまず感じたのは、プロフェッショナルと話しているという安心感である。実際の取材ではMUTTだけの話に留まらず、同じショールームで取り扱うGPXやベネリ、ロイヤルエンフィールドの話を多くしていただいた。その笑顔からの語り口も軽妙であり、そして深く、予定していた時間は楽しいままにあっという間に過ぎてしまった。

原田代表は30年以上のバイク業界での経験を有するが、その戦略は実に巧みである。「ランチェスター戦略」とでもいうべきであろうか、希少ブランドを束ね、人と違う何かを求める個性豊かなお客様に喜んでいただくことに注力することで株式会社スピードの価値を高める。

そして顧客はブランドを跨いでそれぞれのモデルの良さや弱点を正直に話していただけるプロセスの中で自分の求めているバイクへの価値観を再認識することができるような気がした。

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