ランボルギーニがモントレー・カー・ウィークで初公開したビスポーク仕様の「テメラリオ トリコローレ」。ガヤルド以来15年ぶりに伝統の名を冠した本作は、10,000rpmまで吹け上がる920CVのV8ツインターボハイブリッドに、アドペルソナム20周年の職人技を融合した唯一無二のワンオフだ。青と白の大胆なコントラストと三色旗が織りなす、イタリアン・エクセレンスの真髄を読み解く。
イタリア人が自国の三色旗(トリコローレ)を掲げるとき、それは単なる愛国心の発露ではない。世界に向けて「我々の美意識と情熱を見よ、そして平伏すがいい」という、極めてエレガントで傲慢な宣戦布告である。
カリフォルニア州のまばゆい陽光が降り注ぐ「ザ・クエイル、モータースポーツ・ギャザリング」。世界中の大富豪とコレクターたちがシャンパングラスを片手に集うモントレー・カー・ウィークの特設ステージで、サンタアガタの猛牛は息を呑むようなビスポーク仕様のワンオフを披露した。その名は「ランボルギーニ テメラリオ トリコローレ」。
ランボルギーニのファンなら、この名前に強烈な既視感を覚えるはずだ。そう、2011年にイタリア統一150周年を記念して送り出された名作「ガヤルド LP 550-2 トリコローレ」である。後輪駆動、自然吸気V10、そしてボディを縦断するアズーロと白・緑・赤のストライプ。あれから実に15年の歳月が流れた。
だが、時計の針は確実に進んでいる。今や自然吸気V10は歴史の棚に収まり、後を継いだのは3基の電気モーターと過給器で武装したハイテクの怪物、HPEV(ハイパフォーマンスEV/ハイブリッド)であるテメラリオだ。ランボルギーニは、自社のビスポークプログラム「アドペルソナム」が創設20周年を迎えるという祝祭のタイミングで、この最新鋭の兵器に再びイタリアの誇りを纏わせる決断を下した。
ステファン ヴィンケルマンCEOは「テメラリオ トリコローレは、先見的なデザイン、革新的な技術、妥協のないパフォーマンス、そしてイタリアン・クラフツマンシップの卓越性という、ランボルギーニを定義する価値を讃えるものだ」と胸を張る。
では、15年ぶりに復活したトリコローレは、ただボンネットに3色のデカールを貼っただけの安直な記念モデルなのだろうか? 答えはもちろんノーだ。もしそんな手抜きをすれば、ボローニャのデザイナーたちはランチのパスタを喉に詰まらせてしまう。
ランボルギーニのデザイン部門「チェントロ・スティーレ」とアドペルソナムが仕掛けたのは、視覚の錯視を利用した極めて手の込んだカラーブロックである。
ボディ下部を包み込むのは「ブルー・マリヌス・シャイニー(Blu Marinus Shiny)」。陽光を直接浴びることで深い海の底のような妖艶な輝きを放つメタリックブルーだ。一方で、ドア上部やフェンダーを含むボディ上側には、純白の「ビアンコ・モノセルス(Bianco Monocerus)」が大胆に配置されている。
この上下を切り分ける鮮明なツートンカラーの境界線が、フロントのホイールアーチからドアを抜け、筋肉質なリアショルダーへと駆け上がるテメラリオのボディラインを凶暴なまでに強調する。さらに、ドアミラー、ホイール、エンジンカバー、リアエンドには艶やかな「グロッシー・ネロ・ノクティス(Glossy Nero Noctis)」のブラックアクセントが奢られ、足元からは真っ赤な「ロッソ」のブレーキキャリパーが覗く。
そして肝心のトリコローレはどこにあるのかといえば、ボンネットの中央に、誇り高い緑・白・赤の意匠として堂々と描かれている。ガヤルドの控えめなセンターストライプとは異なり、全体のカラーコンビネーションそのものがひとつの巨大なイタリアン・アートとして機能しているのだ。シャープなフロントフェイスや六角形のDRL(デイタイム・ランニング・ライト)、むき出しのエンジンベイと相まって、もはや走る現代美術品と呼ぶほかない。
ドアを開けてキャビンに滑り込むと、そこにもアドペルソナムの職人たちが注ぎ込んだ偏執的なまでのこだわりが待っている。
インテリアのベースは漆黒の「ネロ・アデ(Nero Ade)」。そこに情熱的な「ロッソ・アララ(Rosso Alala)」のコントラストステッチが張り巡らされ、六角形のモチーフがエクステリアとの調和を生み出している。さらに視線を巡らせると、リアキャビンのトリムにはテメラリオ トリコローレの専用シルエットが刻まれ、ドアパネルには「Tricolore」の刺繍が誇らしげに鎮座する。
顧客のどんなわがままな要望(たとえそれがどれほど奇抜な配色であっても)をも形にしてきたアドペルソナムだが、彼ら自身が本気を出して「完璧なイタリア」をプロデュースすると、ここまで隙のない仕立てになるのかと感嘆せざるを得ない。
もちろん、この美しい仕立て服の下に眠っているのは、紛れもない狂気の心臓部だ。
パワートレインは標準のテメラリオと共通の先進ハイブリッド・アーキテクチャを採用する。新開発の4.0リッターV8ツインターボエンジンに3基の電気モーターを組み合わせ、システム総合出力は実に920CV(約907bhp)に達する。
何より恐ろしいのは、この内燃エンジンがレブリミット「10,000rpm」まで回るという事実だ。現代の市販過給エンジンにおいて、1万回転という領域は正気の沙汰ではない。ターボラグを3基のモーターが完全に消し去り、右足を踏み込んだ瞬間に弾丸のようなレスポンスがドライバーを襲う。
公称スペックによれば、0-100km/h加速はわずか2.7秒、最高速度は340km/hを突破する。15年前のガヤルド LP 550-2(550馬力、0-100km/h加速3.9秒)がまるで牧歌的なクラシックカーに思えてくるほどの進化である。
なお、今回のモントレー・カー・ウィークで展示された「テメラリオ トリコローレ」は、アドペルソナムの技術と可能性を世界に誇示するために製作されたワンオフ(1台限定)のビスポークスタディであり、車両本体価格やオプションパッケージとしての具体的なプライスタグは公表されていない。もっとも、アドペルソナムの特注プログラムでこれと同じ仕様を再現しようとオーダーシートにチェックを入れれば、標準のテメラリオにもう1台スーパーカーが買えるほどの数字が上乗せされることは想像に難くない。
電動化の波が押し寄せようと、過給器が取り付けられようと、サンタアガタの職人たちが持つ「美への異常な執着」と「スピードへの渇望」は1ミリも色褪せていない。15年の時を経て蘇ったトリコローレは、ランボルギーニが新たな時代においてもイタリアの頂点に君臨し続けることを証明する、極めて雄弁で美しいマニフェストである。



