【試乗】新型シトロエン C5 エアクロス:ニュルブルクリンクを鼻で笑う、極上の「魔法の絨毯」

「スポーティなSUV」という現代の矛盾したトレンドに疲れ果てた大人たちへ。シトロエン C5 AIRCROSS MAXは、ラップタイムを捨て、ひたすら家族の快適性を追求した「誠実な魔法の絨毯」である。

ニュルブルクリンクのラップタイムなど知ったことか
現代の自動車業界は、奇妙な強迫観念に囚われている。背の高い重量級のSUVに、サーキットを攻められるような硬いサスペンションと巨大なブレーキを押し込み、「スポーティ」というラベルを貼って売ろうとするのだ。家族を乗せてニュルブルクリンク北コースを攻める予定でもあるのだろうか? そんな滑稽なトレンドに対し、フランスから痛烈なアンチテーゼが叩きつけられた。

それが今回試乗する、シトロエンのフラッグシップ「C5 AIRCROSS MAX」(5,700,000円)である 。

この車は、スポーツカーの真似事など一切しない。自らが「家族のための快適で便利な移動手段」であることを完璧に理解しており、その役割にひたすら徹している。ドイツ車のように無理にスポーティさを装わない、この「好感が持てるほどの誠実さ」こそが、シトロエン最大の魅力なのだ。

川崎から横浜へ。現代の「魔法の絨毯」を検証する
今回の試乗ルートは、川崎から横浜方面へと向かう一般道と高速道路を選んだ。日本の典型的なストップ&ゴーと、首都高の意地悪な段差が連続するシビアな環境だ。ここで新型C5 AIRCROSSの真価を問う。

走り出して数分、首都高の継ぎ目を越えた瞬間に、私は思わず笑みをこぼしてしまった。極上だ。シトロエン独自のサスペンション技術「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」が、路面の荒れた段差や不快な突き上げをことごとくフラットにいなしていく 。公式が「魔法の絨毯」と呼ぶのも決して大袈裟ではない。

ステランティスグループの最新プラットフォーム「STLA-Medium」をシトロエンとして初採用し 、1.2Lの3気筒ターボエンジンにモーターを組み合わせた48Vマイルドハイブリッドシステム(最高出力145ps)を搭載している。低速域でのモーターアシストは極めて滑らかで、ボディの姿勢制御も見事だ。うねりのある道でも、不快なピッチングを見事に抑え込んでいる。

ただし、である。素晴らしいシステムだが、オールドスクールな車好きの悪い癖で、合流地点などでフルスロットルを強要すると、1.2Lエンジンは突如として「ちょっと、急がせないでくれ!」とばかりに、いささか耳障りな音を立てて抗議してくる。さらに、燃費を稼ごうと走行モードを「エコモード」に切り替えた途端、アクセルペダルの反応は「ミルクに浸した、ふやけたクロワッサン」のように鈍くなる。

だが、不思議と腹は立たない。「この車で急ぐ必要などないのだ」と、車側から優しく諭されている気分になるのだ。

動くラウンジと「全部乗せ」ソファーの誘惑
プレゼンテーションにおいて、開発担当者は誇らしげに語っていた。 「新型C5 AIRCROSSは、これまでのシトロエンで最も広々として、快適で、ハイテクなSUVです。C-Zen Loungeというコンセプトのもと、まるで家のリビングルームにいるような安心感を提供します」と。

その言葉に嘘はない。運転席のドアを開けると、昨今の「ドライバーオリエンテッド(運転手中心)」という窮屈な設計思想を鼻で笑うかのように、直線的でフラットなダッシュボードが広がっている。ドライバーだけでなく、助手席の妻や恋人にも等しく優しい造形だ。

ダッシュボードやドアトリムには「ソファータッチ」と呼ばれる柔らかなファブリック素材があしらわれ 、体を預けるアドバンストコンフォートシートには15mm厚の専用パッドが仕込まれている 。座り心地はひどく柔らかいが、適度な反発力があり長距離でも見事に体をサポートしてくれる。しかも最上級のMAXグレードには、シートヒーター、ベンチレーション、さらにはマッサージ機能まで、まさに「今できる全部乗せ」の状態で装備されているのだ。

ダッシュボード中央には、ステランティスグループ最大級となる13インチの縦型「ウォーターフォールスクリーン」が鎮座する 。一見すると奇抜だが、ナビゲーションを表示させた際、横長スクリーンのように無駄な左右の地図が表示されず、進行方向が遠くまで長く表示される。結果として視界の移動が減り、実用性は圧倒的に高い。これもまた、フランス流の合理主義である。

完璧ではない。だからこそ愛おしい
もちろん、完璧な車などこの世には存在しない。特にフランス車ともなれば、愛すべきツッコミどころの数々が用意されているものだ。

例えば、エアコンの吹き出し口のルーバーなどを調整しようと触れた際、指先に安っぽくもろいプラスチックの感触が伝わってくる瞬間がある。だが、最も私が声を大にして嘆きたいのは、先代モデルでファミリー層から絶大な支持を集めていた「後席3座独立スライド&リクライニングシート」が、明らかにコスト削減のために捨て去られてしまったことだ 。3人の子供を持つ親や、チャイルドシートをパズルのように配置していたユーザーにとっては、悲劇と言わざるを得ない。

しかし、車を降りてエクステリアを眺めると、そんな不満も少しばかり相殺されてしまう。リアのテールランプ横に張り出した「Citroën Light Wings(シトロエン ライト ウイングス)」の美しい造形は 、単なる奇抜なデザインではなく、空気を切り裂き空気抵抗を低減する実用的な空力パーツだ 。このおかげで、旧型と比較して空力係数は劇的に向上し、高速走行時の静粛性と効率が見事に高められている。テールゲートを開ければ565Lという巨大なトランク容量が待ち構えており 、実用面でのリカバリーは十分に果たしている。

日常という名の荒野を優雅に乗り切るためのカプセル
駐車場に溢れかえる、どれも似たような顔つきの凡庸なクロスオーバー車たち。彼らは皆、ニュルブルクリンクのタイムや、不必要なスポーティさを競い合って疲弊している。シトロエン C5 AIRCROSS MAXは、そんな不毛な争いから完全に降りた車だ。

コーナーの頂点をミリ単位で狙うための車ではない。日々の退屈な通勤や、週末の川崎の酷い渋滞すらも、極上のリラックスタイムへと変えてしまう。外の喧騒から切り離されたカプセルの中で、マッサージシートに身を委ねながら「魔法の絨毯」で滑るように進む 。これこそが、現代における「真のラグジュアリー」の体現ではないだろうか。

無意味な硬さに耐えるのをやめて、この誠実でふやけたクロワッサンを味わってみてほしい。きっと、日常という名の荒野を優雅に乗り切ることができるはずだ。
写真:上野和秀

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