アルファ ロメオはいつの時代も我々を虜にする存在だ。最新SUV「トナーレ」が掲げる「ウェルビーイング」という言葉の裏には、退屈な日常を打ち破る、純粋で熱狂的なドライビングの歓びが隠されていた。
マイナーチェンジ版であるアルファ ロメオトナーレの発表会でのプレゼンは、旧来からのアルフィスタだけでなく「クルマは走らせてこそ」と考えているクルマ好きにとって、久々に共感を得ることができたのではないだろうか。二酸化炭素排出量や航続可能距離、乗車可能定員数、ラゲッジスペースの容量、取り回しのしやすさ……といった、SUVの新車発表会で取り上げられる情報や数値はほぼ取り上げられず、「ドライバーを世界の中心に置く」ことがアルファ ロメオの哲学であるというサント・フィチリCEOのビデオメッセージから発表会はスタート。そしてStellantisジャパン イタリアンブランド事業部 事業部長 黒川進一氏は、「徹底したアンチ・コモディティ」こそがアルファ ロメオであるというスピーチを続けた。じつはこれらは真新しいアルファ ロメオ像ではなく、昔から語られるアルファ ロメオに本来備わっている魅力にほかならない。しかし、EV化でどこに向かうのかわかりづらくなったブランドがあるなかで、アルファ ロメオがはっきりと、自社のブランドフィロソフィーを改めて宣言してくれるのは、やはりクルマ好きとしては嬉しくもあり、アルファ ロメオというブランドの購入を意識している者にとっては背中を押してくれるきっかけになったはずだ。
ただ、発表会のプレゼンを素直に受け取る一方で、「技術や性能面でアピールするポイントがなかったのでは?」という、穿った見方をする人もいるだろう。果たして真意はどこにあるのか、それを確かめるべく箱根で開催された試乗会に赴くことにした。
伝統を今に受け継ぐアルファ ロメオのデザイン
トナーレの試乗会で用意されたステージは、湯河原パークウェイと箱根ターンパイク。つまり存分にワインディングロードを堪能してください、というアルファ ロメのメッセージであり、また自信の表れである。
ドライバーズシートに乗り込む前に、まずはブレラレッドのボディカラーをまとったトナーレ イブリダ ヴェローチェの佇まいを検分する。ボディサイドは滑らかな曲面で凹凸が彫り込まれており、メタリックのブレラレッドの細かなフレークが直射日光を反射して、美しい陰影を生みだしていた。かつてのSZ/RZの波打っていたボディパネルはファイバー製ボディだから仕方ないと、あたたかい目で見ることもできた。それ以降のアルファ ロメオのボディパネルもそれなりに波打っているモデルもあったが、それこそがイタリアの手作業と半ば自虐的に笑って済ますこともできた。しかし、現在のようなグローバルでの展開ともなると、それらを「職人の手作り」という一言では済ますことはできなくなった。トナーレでは、360度スキャンしてボディ塗装の状態を検知するイーグルアイという設備を生産工程で採用したという。これによりパネル間の段差やチリもさらに厳しい基準で外観の品質の向上が図られているというわけだ。
佇むアルファ ロメオに求められるのは、ひとめで「アルファ ロメオ」とわかる出で立ちと官能的な美しさであろう。現在、ボディシルエットだけでなくヘッドライトやテールライトといったディテールまでもが似通ったクルマが巷には溢れている。個性の演出やブランディングに力を注いでいるメーカーの思惑とは裏腹に、グローバル化した自動車産業におけるカーデザインのコモディティ化は、ある意味において当然の帰結とも言えるだろう。こうした現象は大衆車だけでなく、ハイパーカーやスーパーカーという少数生産のクルマでも見受けられるのだが、トナーレはクルマに詳しい人であればひと目でアルファ ロメオであることが認識でき、クルマに疎い人でも他車とは異なるまるで意志をもつ生命体のような印象をトナーレから受けるだろう。週末、郊外の大規模ショッピングモールのパーキングに駐車しても、まわりのクルマと同化してしまわない個性をもったデザインであることは間違いない。まずは見た目のアンチ・コモディティは成功しているようだ。
このトナーレのひと目でアルファ ロメオだとわかるエクステリアデザインは、一朝一夕に生まれたものではない。1910年に創業したアルファ ロメオには脈々と受け継がれてきたデザイン言語がいくつもある。まず代表的なもののひとつがスクデット(盾形グリル)であろう。トナーレのスクデットは、33ストラダーレのクラシックなスクデットを現代的にアレンジしたものだ。そのスクデットの両脇には、アゾレと呼ばれる4つの小さな開口部が採用されている。公式には1930年代のグランプリカー「P3(Tipo3)」に通じる意匠と説明されているが、この意匠を見て1990年代に日本のマーケットを大きく広げた156を思い出した人は多いのではないだろうか。そしてトナーレの特徴的なヘッドライトの意匠は、SZ/RZからの流れを汲んだもの。ここで取り上げたトナーレの至る所に受け継がれたアルファ ロメオのDNAは、ほんの一部である。
気持ちよく走る、これこそがアルファ ロメオの真髄
新緑が眩しい湯河原パークウェイを海岸沿いへと下っていく。今回のマイナーチェンジでトナーレは、全長を10mm短縮し、トレッドを左右4mmずつ拡大している。取り回しやすさと安定感の向上のためとアナウンスされているが、要はコーナリング性能の向上を狙ったセッティングと言っていい。同じくエンジンとモーターの制御バランスも見直されて、可変バルブタイミングの調整やシフトタイミングを早めて高いギアに変速するなど、加速が滑らかになるように調律されている。
アルファ ロメオらしいピンッと張った硬めのシートに着座すると、スピードメーターとタコメーターを液晶でアナログ表示したメーターパネルと、ダッシュボードの左右両脇にある円形のエアコン吹き出し口などから、アルファ ロメオらしさが伝わってくる。センターコンソールにはシフトレバーではなくロータリーセレクターが収まっているが、アルファDNAドライブモードシステムの切り替えスイッチと同じく円形になっているのは、むしろデザイン的には統一感がとれて好ましい。個人的にジャガーやランドローバーのロータリーシフトに馴染みがあることもあって、操作にも違和感はまったくない。
走行モードは街中での試乗ではないので、今回敢えて「A(アドバンストエフィシェンシー)」は選択せず、「D(ダイナミック)」と「N(ノーマル)」モードを切り替えながら試すことにした。試乗したヴェローチェには、電子制御ダンパーが装備されているので、「D(ダイナミック)」では「N(ノーマル)」に比べてハードなセッティングとなる。
コーナーの手前でSUVにしては大きいパドルシフトでシフトダウンして、コーナーをひとつひとつ抜けていく。ステアリングコラムに固定されているパドルシフトは、トナーレの性格を物語っている象徴のひとつだ。ステアリングを切った状態でシフトチェンジが必要なとき、ステアリング側に取り付けられたパドルだと咄嗟のシフトチェンジに対応することができない。そのため、リアルスポーツカーのパドルは、コラムに固定されているのがセオリーだ。もっとも、サーキット走行やジムカーナのようなシーンでしかその恩恵を受けることはないだろうが、アルファ ロメオがトナーレに想定しているのは、つまりはスポーツカーのように積極的にドライバーが運転に関わるという姿勢──「ドライバーを世界の中心に置く」というアルファ ロメオのフィロソフィーがパドルシフトからだけでも伺えるのである。
走行モードを「N(ノーマル)」から「D(ダイナミック)」に切り替えてみる。エキゾーストノートのトーンがあからさまに派手に変わるわけでも、乗り心地が劇的に変化するほど電子制御ダンパーが締め上げられるわけでもない。ステアリングの操作感も同じだ。スイッチひとつで走行モードが折れ線グラフ的に変化するのではなく、スムージングされた滑らかな曲線を描いたような変化といえばわかってもらえるだろうか。そもそもの「N(ノーマル)」モードも、相応にスポーティ寄りに設定されているのだろう。別の言い方をすれば、限界域に近づけば近づくほど違いが現れる、玄人好みな切替えだともいえる。たとえばそれは、ボロネーゼにタバスコを振りかけるようなイタリア人が眉を顰めるような行為ではなく、正統の手間ひまをかけたピカンテオイル(唐辛子オイル)をたらすようなもの。もとあるテイストに違う味を塗り重ねるような味変ではなく、味に奥行きと深みを加える味変こそがアルファ ロメオ流なのだ。
資料によると、0−100km/h加速は8.8秒から8.5秒へと短縮されたという。前述のように滑らかな加速を求めてエンジン制御を見直した結果の0.3秒の短縮と聞けば、瞠目に値するほどの数値ではないのにわざわざリリースに加えた意図が見えてきそうだ。
湯河原パークウェイの急坂を登ってくると、トナーレの160psの4気筒エンジンでは非力さを感じてしまうシーンに度々遭遇する。しっかりとパドルでシフトダウンしてエンジンを回してやらねばスピードはのってこない。しかし、思いどおりの速度で狙ったラインでコーナーを抜けた時の爽快感は格別だ。アルファ ロメオのクイックなハンドリングもこの爽快感におおいに貢献している。湯河原パークウェイを一往復して料金所を抜けると、そのままトナーレのステアリングを箱根ターンパイクの方へと向けていた。
アルファ ロメオを走らせることがウェルビーイングにつながる
試乗を終えた後、黒川進一氏に試乗前のカンファレンスで取り上げていた「ウェルビーイング」について、もう少し突っ込んだお話を伺うことができた。ラグジュアリーカーメーカーのなかには、ブランド価値のひとつにウェルビーイングを取り入れているところもある。ウェルビーイングを簡単に説明すると、身体的・精神的・社会的に持続的に満たされている状態を指す幸せの概念、である。高級車では、移動の際の車室空間をいかに身体的・精神的にストレスなく過ごすことができるのかに焦点が当てられていることが多い。移動時間を心身の癒しの空間と時間と捉えているわけだ。また、高級車を所有し続けることは、経済的にも安定していることにほかならず、社会的に満たされていることの象徴でもあろう。
黒川氏が説明してくれたウェルビーイングは、少し意味合いが違う。アルファ ロメオは運転するだけで、というより運転することがそのままウェルビーイングにつながるという。トナーレに限らず、アルファ ロメオは運転を通じてドライバーに語りかけてくるクルマだ。アルファ ロメオには歴史に裏打ちされた走りの哲学が貫かれており、ドライバーはクルマをねじ伏せ支配下に置くのではなく、クルマの望む方へとリズムを合わせることで、実は気持ちの良い走りが見えてくる。クルマの声をステアリングやペダル、シート、そしてエキゾーストサウンドなどから感じ取り、その声の誘いに応えながら走らせていると、ステアリングを握っているアルファ ロメオと一体化しているような感覚さえ生まれてくる。湯河原パークウェイを一往復したにも関わらず、さらに箱根ターンパイクへと向かったとき、確かにそんな感覚があった。「もっと先へ……」と、トナーレが囁いているようでもあった。
高級車を走らせて享受できるウェルビーイングは、リラックスすることを前提とした快適志向である。いっぽうのアルファ ロメオは適度な緊張感を伴う。クルマの声に心を傾け、知らぬ間に気持ちよくクルマを走らせることに意識しながら運転している。運転している間はドライビングに集中するあまり不思議と雑念が生じることもなく、クルマを降りたあとはスポーツで汗を流したあとのようなマインドがリセットされた爽快感に包まれている。気持ちが前向きにリフレッシュされているのだ。スポーツやトレーニングでは、筋肉や身体の動きを意識して行ったほうが効果が高い。日常生活での歩行も、姿勢や歩き方を意識したほうが身体が整う。これと同じように、漫然と運転するより意識して運転することのほうがマインドによい影響を及ぼすと考えても不思議ではない。
高級車のウェルビーイングを受動的と捉えるなら、アルファ ロメオのそれは能動的とでも言おうか。日々の目的地までの移動の手段としてクルマを運転することが、小さな感動の積み重ねとなり心身ともに満たしてくれるとしたら、これほど素晴らしいことはないだろう。現代社会を生きるわれわれは、常に膨大な情報や時間に追われる生活を送っている。そうした日常のなかで、ドライブする時間が頭の中を切り替えるコーピングの役割を担うというのは、アルファ ロメオの新たな価値といっていい。アルファ ロメオが常に大切に受け継いできた「ドライバー中心主義」=「純粋に走らせることが愉しいクルマ」であることが、じつはドライバーにとってどのような作用をもたらすのかを図らずも証明したようなものである。クオリティ オブ ライフが重視される現代において、アルファ ロメオを日常の足として選ぶことは、じつは時代にあった賢者の選択と言ってもいいだろう。
文・写真:西山佳比古
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