ハーレーダビッドソンというブランドが提供するものは、単なるモーターサイクルではない。それは“生き方”であり、“コミュニティ”であり、そして“自由”である。そんな彼らが、自らの哲学をさらに色濃く継承するため、先日「RIDE」という新たなグローバルブランドプラットフォームを発表した。これはハーレーの原点である「走る楽しさ」を再び追求する活動であり、公式プロモーションビデオでは、ウィリー ネルソンの名曲「On the Road Again」の軽やかなサウンドに乗せ、自由にライディングを楽しむ老若男女の姿が描かれている。
この“原点回帰”の鍵を握る人物こそ、創業家4代目のビル ダビッドソン氏だ。13年ぶりに来日した彼に、「RIDE」にかける想い、そしてブランドの未来について話を聞いた。
"Life, liberty, and the pursuit of happiness"
ハーレーダビッドソンは誰もが知るモーターサイクルブランドだが、その創業は1903年まで遡る。まだオートバイという概念すら定まっていなかった時代に、若きウィリアム S ハーレーと、ダビッドソン3兄弟(アーサー、ウォルター、ウィリアム)の4人がミルウォーキーの作業小屋に集まり、原動機付き自転車を作ったことがすべての始まりだ。最初の試作機はパワー不足で坂を登れなかったというが、彼らは諦めず改良を重ね、ついに“本物のハーレー”と呼べる405ccエンジンを完成させた。アーサーが設計し、ウォルターが組み立て、ウィリアムが走らせ、そしてハーレーが未来を描く──。そんな家族の情熱が、123年の時を経た現在にも脈々と息づいている。
今回来日したビル ダビッドソン氏は、創業メンバーで設計を担当したアーサー ダビッドソンのひ孫にあたる人物だ。1984年にハーレーダビッドソン社に入社して以来、マーケティング、ブランド戦略、コミュニティ活動など様々な要職を歴任し、現在はCEOへのアドバイザー、そしてブランドアンバサダーの役割を果たしている。まずは、今回発表されたプラットフォーム「RIDE」導入の真の目的を尋ねてみた。
ビル ダビッドソン氏(以下、BD):「これまでハーレーでは、マーケティング的、あるいはセールス的なキャッチフレーズがいくつも使われてきましたが、短期的なもの、ブランドとしての統一感に欠けたものも、少なくありませんでした。そこで私たちは、ハーレーが追求する恒久的な価値、そして『私たちが何者であるのか』を明確にし、改めてブランドの方向性を定める必要がありました。
ハーレーダビッドソンが最も大事にしてきたのは『ライディングの楽しさ』です。これからもその姿勢は決して変わりません。そこから生まれたのが、短くて力強い『RIDE』という言葉でした。この旗印の下に、バイクに乗ることの楽しさやカッコよさ、そして人とのつながりを生み出すような環境を作っていきたいのです」
インタビュールームに掲げられた「RIDE」のポスターには、"Life, liberty, and the pursuit of happiness" というサブタイトルが添えられている。1776年にトーマス ジェファーソンが起草したアメリカ独立宣言に登場する有名な一節だ。一般的には「生命、自由、そして幸福の追求」と訳されるが、ハーレーダビッドソンはこの「Life」を、「人生」や「生き方」と解釈している。
BD:「『ハーレーに乗って人生が変わった』『これこそ私の人生だ』と言ってくれるライダーに多く出会います。中には、ハーレーのタトゥーを全身に入れている人もいるくらいです(笑)。私たちのモーターサイクルが人々の人生にこれほどの喜びを与えているのだとすれば、それは本当に素晴らしいことです。『自由』には、前輪の赴くままに旅に出ようという意味が込められています。そして『幸福の追求』は、ただバイクに乗る時間だけでなく、カスタムを楽しんだり、アパレルを選んだり、ディーラーに立ち寄って仲間と語らったり……そんな幸せな時間を過ごしてほしいという願いです。『RIDE』の最終的な目的は、人々にハーレーの素晴らしい世界を体験してもらうこと。その第一歩は、ショールームに足を運ぶことから始まるのです」
"We ride with you" ── 顧客の夢と望みを実現する会社
ビル氏の父親であり、伝説的なデザイナーとして知られるウィリー G ダビッドソンの発した、ハーレー乗りなら誰もが知る有名な言葉がある。それは、「We ride with you」。直訳すれば「私たちはあなたと共に走る」だが、その真意は物理的に「走る」こと以上に、「いつでもあなたのそばにいる」というニュアンスに近い。つまり、ハーレーダビッドソンは常に人々に寄り添い、その人の生活の一部であり続けたいという深い願いが込められているのだ。
123年もの長い歴史を築き上げてきた最大の要因と、これからハーレーが進むべき未来についてビル氏に問うた。
BD:「ハーレーがこれほど長い歴史を刻んでこられた大きな要因は、製品の『Look(見た目)』『Sound(サウンド)』『Feel(感覚)』を徹底して大切にするモノづくりを行ってきたことだと思います。そして、常に顧客の声に耳を傾け、彼らの夢と望みに真摯に向き合い続けてきたからでしょう。
もう一つ付け加えるなら、我々のエンジニアたちが『顧客の声をいかに具現化するか』という難題にチャレンジし続けてきたことです。一例を挙げれば、1990年に登場した『ファットボーイ(Fat Boy)』。このモデルは顧客の要望に応え、『Look』『Sound』『Feel』にフォーカスして開発されましたが、今やハーレーを象徴するアイコニックな存在になりました。このように、世界中のライダーからのインプットが非常に重要なのです。
将来についても同じことが言えます。20年後のことはわかりませんが、10年後に向かうべき方向はすでに明確に描けています。具体的な将来のモデルラインナップをここで話してしまうと、私がクビになってしまうので言えませんが(笑)。各国の環境規制など制度の変更には常に細心の注意を払い、技術的な開発を行っています。二輪業界も水冷化や電動化の時代に突入していますが、『ハーレーらしい、お客様の夢や望みを叶える製品を送り続ける』という私たちの使命が揺らぐことはありません」
インタビューの最後に、ビル氏自身が一番好きなハーレーのモデルを聞いてみた。
BD:「それが一番難しい質問ですね。なぜなら、すべてのモデルを愛しているからです。私たちはお客様が乗るすべてのモデルに、ありったけの愛情とエネルギーを注いで作ってきました。ですから、どれが一番とは決められません。しかし、強いて言うのであれば……1903年に作られた『シリアルナンバー1番』のモデルでしょうか。あのモデルこそが私たち家族の象徴であり、今日までのブランド成長の絶対的な原点ですからね」
現在、日本のマーケットではどのようなモデルが注目されているのだろうか。
BD:「日本では『ローライダーST』と『ブレイクアウト』が人気ですね。これは世界的なトレンドとも合致しています。実は私も、次に乗るモデルの一つとして、ローライダーSTを検討しているんです。ただし、標準エンジンではなく、スクリーミンイーグルの131キュービックインチ(2,147cc)の巨大なクレートエンジンに載せ替えますけどね(笑)。
アメリカ本国では『ロードグライド』と『ストリートグライド』、そして『トライク』が安定した人気を誇っています。さらに最近では『パフォーマンスバガー』のカルチャーも熱を帯びてきました。重装備の大型ツアラーがサーキットを激走するロードレース『King of the Baggers(キング オブ ザ バガーズ)』も大人気となっており、ハーレーダビッドソンのレーシーでアグレッシブな新しい一面を見せられていると思います」
モーターサイクルを駆る楽しさを追求するコンセプト「RIDE」が始動し、今後はハーレーダビッドソン ジャパンも製品と触れ合う機会をより強化していくと明言している。
歴史あるバー&シールドロゴとオレンジのアクセントを前面に押し出し、バイクが一番輝いていた“あの時代”のピュアな楽しさを、現代のライダーとも分かち合おうとしているのだ。タイパやコスパといった経済効率ばかりが叫ばれ、AIやデジタルが当たり前となったポストデジタル時代の今、ハーレーダビッドソンは「RIDE」を通じて、再び“人間らしい生き方や喜び”を追求することを宣言した。これは単なるノスタルジーといった回顧主義などではない。次の時代を生きる新しい世代に対する、極めて挑戦的な提案なのである。
【編集後記】
ビル ダビッドソン氏の話から、2つの強烈なキーワードが浮かび上がった。「反抗心」と「家族」である。
「反抗心」とは、己の自由を守るために権威やシステムに抗うことを肯定する文化だ。60〜70年代、ベトナム戦争や経済格差など政治に対する若者のエネルギーが爆発し、社会へのアンチテーゼとしてロックやパンクが台頭した。80年代後半には、貧困や差別に対する“声なき者の叫び”としてヒップホップが生まれた。ハーレーダビッドソンは、いつの時代もそんなエネルギッシュな人々の象徴として、共に時代を駆け抜けてきたブランドである。「RIDE」という新しいコンセプトも、「きみたちはそんな快適で合理的なだけのぬるま湯で過ごしていて本当に良いのか?」という、我々に対する挑発的な呼びかけに聞こえる。その殻を打ち破った先にこそ、内燃機関の鼓動とともに味わう本当の喜びがあるのではないかと。
もう一つのキーワードは「家族」だ。1903年の第1号車を最も愛していると語る姿勢からは、ビル氏が自らのルーツと家族を深くリスペクトしていることが痛いほど伝わってくる。そして「顧客からのフィードバックこそが最も重要」と言い切るその姿は、ディーラーや顧客をも含めた巨大な共同体を、共に成長していく「一つの家族」として捉えている証左だ。事実、彼はこのインタビューの直前までディーラーに足を運び、多くの顧客と直接言葉を交わしてきたという。
こうしたアメリカンブランドらしいボトムアップの泥臭い姿勢こそが熱狂的なファンを生み出し、120年を超えてなお愛され続ける最大の理由なのだろう。機械の向こう側には血の通った“人”がいる──そんな当たり前でいて揺るぎない事実を、世界で一番理解しているのがハーレーダビッドソンというブランドなのだ。
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