新型トヨタ GR GTは決して控えめな車などではない。モータリングジャーナリストのジェスロ ボヴィンドンは、この車の650馬力という絶妙なスペックを高く評価し、現代のハイパフォーマンスカーが抱える「行きすぎた馬力競争」という大きな問題に鋭く切り込む。

世界中が新型トヨタ GR GTに夢中のようだ。私も大好きである。フロントエンジン、後輪駆動、V8ツインターボエンジンを搭載するスーパーカーであり、レクサス LFAの系譜を受け継ぎつつ、あの素晴らしいメルセデス AMG SLS ブラックシリーズ(※1)を彷彿とさせる。私がこのコラムを書いている今も、見事に毛深い同僚のトム フォード(※2)がプレゼンターを務めたTop Gearの動画は350万回以上再生されており、その勢いは止まる気配がない。個性的(レフトフィールド)で、モータースポーツの血統が注入され、今大人気のJDM(※3)のクールさをすべて兼ね備えたGR GTは、魅力のジャックポットを引き当てたのだ。
私にとって、この車のすべてが「ちょうどいい」と感じられる。これは「ほめ殺し」のように聞こえるかもしれないが、決してそうではない。どういうことかというと、GT3レースへの参戦計画から、フロントミッドシップエンジンとトランスアクスルレイアウト(※4)、そして641bhp(650馬力)という出力に至るまで、すべてのディテールが完璧に計算されており、実に魅力的に感じられるのだ。だからこそ、発表直後に何人かの人から「少し遅いかもしれない」というメッセージをもらって驚いた。この人たちは皆、潜在的な顧客であり、コンセプトや美学には全面的に賛同しつつも、「たったの」650馬力では少し控えめだと感じたのだ。
そして、彼らは正しい。あくまでカタログスペック上は、だが。ポルシェ タイカンの最上級モデルが1,020bhp(1,034馬力)を誇り、新型シボレー コルベット ZR1が1,064bhp(1,079馬力)、AMGの最上級スポーツクーペであるGT 63 S Eパフォーマンスが805bhp(816馬力)と1,419Nmを叩き出すこの世界では、トヨタがGR GTを2014年にタイムスリップして発表したかのように感じてしまう。世界は先に進んでしまったのだ。なんせ、数週間前に私は1,025bhp(1,039馬力)もある市販のピックアップトラックを運転したくらいなのだから。
もしかすると、世界は先に進みすぎたのではないだろうか? まず断っておくが、GR GTは公道でもサーキットでも間違いなく十分な速さを感じさせてくれるはずだ。しかし、それらのメッセージを読んだことで、トヨタの母国にインスピレーションを求め、1989年に日本自動車工業会(JAMA)がすべての市販車の出力を280馬力に制限する「紳士協定(280馬力自主規制)」を提出・承認した戦術を再考する時期が来たのではないかと考えさせられた。スカイラインからスープラ、インプレッサ STIからランサーエボリューションに至るまで、本格的な馬力戦争を防ぐために、日本国内市場の車はすべてこの協定(実際には法的拘束力はなかったが)を遵守することになったのだ。
当時はまだ、洗練されたブレーキやトラクションコントロール、スタビリティコントロール(横滑り防止装置)などがなかった時代だ、とあなたは反論するかもしれない。それは事実だ。だが一方で、当時の車は今より軽く、コントロールを失ったときに小さな町を吹き飛ばしてしまうような運動エネルギーを抱えてはいなかった。さらに、パフォーマンスカーの多くはマニュアルトランスミッションだったため、その性能を最大限に引き出すのはずっと難しかった。それでも、日本の自動車メーカーたちはすぐそこまで迫り来る潜在的な危険性を予見していたのだ…。
私は、政府がさらに規制を強め、私たちがみな32km/hでの生活に閉じ込められるべきだと提案しているわけではない(どのみち彼らはそうしようとしているが)。280馬力のポルシェ 911ターボやランボルギーニ レヴエルトを熱望しているわけでもない。しかし、私がGR GTの650馬力が「ちょうどいい」と感じたと言ったのを覚えているだろうか? おそらく、そういうことなのだ。そこが適切なレベルなのだ。議員たちが介入してきて、もっとずっと厳格な措置を講じる前に、新たな「協定」を結ぶ時期に来ているのかもしれない。中国はすでに、デフォルトのモードでは0-96km/h加速が5秒を切る車を禁止するという新たな規制を提案している。合理的だろうか? 確かに。しかし、政治家の忍び寄る影響力によってアジェンダを決められるよりも、業界が自主規制するほうがマシではないだろうか?
※1 メルセデス AMG SLS ブラックシリーズ:AMGが開発した、公道走行可能なレーシングカーのような限定モデル。ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションが特徴。
※2 トム フォード:Top Gearなどの自動車メディアで活躍する著名なジャーナリスト。立派な髭がトレードマーク。
※3 JDM:Japanese Domestic Marketの略。日本国内市場向けの自動車や、日本独自の自動車カスタム文化を指す言葉として海外で大人気となっている。
※4 トランスアクスルレイアウト:エンジンをフロントに置きながら、トランスミッションをリアアクスル側(後輪軸)に配置することで前後重量配分を最適化する仕組み。
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新車にリースで乗る 【KINTO】
=海外の反応=
「500から600馬力を超えると、一般人をそんなパワーの車のハンドルを握らせたら、数秒アクセルを踏んだだけできっと恐怖で腰を抜かすよな。1000馬力超えのタイカンなんて正気の沙汰じゃないし、完全なオーバースペックだ。このトヨタみたいな車だと、完全に乾いた路面か、911 ターボSみたいなAWD(四輪駆動)じゃない限り、トラクションコントロールのランプがクリスマスツリーみたいに点滅しまくって、さらに恐怖を煽ることになる。
数年前に運転したBMW M340は、M3でさえないのに400馬力程度のAWDで、今回のトヨタより重かった。それでも数秒間ベタ踏みすれば、警察に見つかれば一発で免停になるスピードが出てた。
一般人にとって、このトヨタにさらに240馬力追加するなんてバカげてる。400馬力くらいが適正なパワーだよ。公道で数秒間右足をちょっと動かしただけで違法だし危険なのに、650馬力が適正だなんて本気で言えるのか?」
「パワーに関する指摘には反対しない。少し前に800馬力以上のスポーツカーを持っていたけど、2年間の所有期間中、どんな速度からでもアクセルを2秒以上踏み込んだことは一度もなかったな」
「これがちょうどいいパワーだと思う。車に何億馬力も必要ない。例えば、フェラーリ F80は1200馬力くらいあるけど、なぜか2025年のハイパーカーの中では一番馬力が低いって言われてた。この新型トヨタは本当にいいところを突いたと思うよ」
「大企業の自主規制か。過去20年間のテクノロジー業界から何も学んでないのか?」
「↑そもそも、日本のメーカー間の紳士協定が実際には守られていなかったのは悪名高い話だよね。最後の方なんて、多くの車がカタログスペックよりはるかに大きなパワーを公道で出していたのは公然の秘密だったし」
「誰かが実際に運転するまで判断は保留にしたほうがいい。これは『期待しすぎるな』っていう警告みたいなもんだ。だって、まあ、トヨタだからね。トヨタは一番がっかりしたくない時に必ずがっかりさせてくれるからな。
理解はできるけど」
↑「えーっと、GRヤリスは?」
「↑最初のやつは生産台数が極端に少なかったし、次のやつは内容の割にすごく高い。トヨタにフェアに言えば、出た時は異常に高かったけど、すぐに上のクラスのライバルが追いついてきて、今じゃ『ただすごく高い』だけになった。スーパーミニ(コンパクトカー)なのにゴルフ GTIが買える値段だからな」
「↑『生産台数が極端に少ない』って、イギリスのAutotrader(中古車サイト)をざっと見ただけで、第1世代と第2世代のGRヤリスが120台以上も中古で売りに出されてるぞ。だから手に入れるのは全然難しくない…。
ある報告じゃ、需要があったから第1世代だけで4万台以上生産されたらしい。『極端に少ない』とは到底言えないし、しかも生産台数に厳しい制限がない第2世代もまだ作られてる。
GRヤリスは両世代とも中古市場で驚くほど価値を維持してる。高かったのは、基本的にラリーのホモロゲーションモデル(競技規定を満たすための市販車)だったからだ。普通のハッチバックに高性能エンジンを載せただけの他のホットハッチとは違う。
1,278万円(6万ポンド)もするアウディ RS3やメルセデス AMG A45以外に、曲がりくねってバンピーな濡れた田舎道でGRヤリスについてこれるホットハッチがあるか? ゴルフ GTIだと? 勘弁してくれよ。GRヤリスはあっという間に視界から消えて、GTIを置き去りにするぞ。さあ、GRヤリスのどこががっかりなのか教えてくれよ」
「↑ゴルフ GTI クラブスポーツのほうがヤリスより安くてパワフルだろ。それに実用性も考えろよ。
ヤリスががっかりなのは、初代は値段が手頃だったのに、2代目は213万円(1万ポンド)以上も高くなったからだ」
「↑それでもGTI クラブスポーツじゃ、濡れたワインディングロードでGRヤリスのテールランプすら拝めないよ。だってGRには本格的なLSDとトルクベクタリングAWDがついてるし、パワーだってそこまで劣ってない。
それに、パワーの優位性はGTIが1350kgあるのに対して、GRヤリスが1100〜1200kg前後しかないことで相殺される。実用性については認めるけど、GRヤリスを買う人のほとんどは週末のオモチャとして買ってるんだよ。
初代ヤリスは約745万円(3万5000ポンド)で、さっきも言ったようにトルクベクタリング付きの高度なAWDを備えていた。本格的なLSD、標準のヤリスよりはるかに剛性の高いボディ、ずっと強力なブレーキ。実質的にまったく別の車だったんだ。
さあ、あの価格帯でそれだけのパフォーマンス装備を持っていたホットハッチが他にあったか? GTIにはそんな装備はないし、もっと安いフィエスタ STなんてなおさらだ。
あの価格で同レベルのパワーとパフォーマンス装備を提供していたのは、先代のプジョー 308 GTIくらいだ。あれにはアップグレードされた巨大なアルコン製ブレーキ、鍛造エンジン、LSDがついていた。でもゴルフ GTI? 頼むよ、あれはただの高価なゴルフだ。そのサイズのハッチバックを語るなら、308 GTIやメガーヌ RS 300のほうがずっと魅力的だね。
はっきり言っておくけど、現実的にGRヤリスと同じような装備のシビック タイプRやRS3、A45を手に入れようとしたら、1,065万円(5万ポンド)は払わなきゃならない。第2世代のGRヤリスは、この種のパッケージが本来いくらの価値があるかをより反映しているんだよ。
GRヤリスがどれほど絶賛されているかを見れば、それががっかりだなんて言うのがどれだけ馬鹿げた意見かわかるだろう」
「↑私が今まで運転したトヨタ車でがっかりしたことはないけど(むしろその逆)、GRヤリスは慎重ながらも楽観視できる理由になるかもしれないね。でもまあ、今のところは憶測にすぎないけど」
「絶対的な完璧。それだけだ」





