あのケータハムがEVを作る。古参ファンなら卒倒しかねないニュースだが、早まるな。東京オートサロン2026で公開された「プロジェクトV」は、日本の技術と英国の魂が融合した、恐ろしく真面目なライトウェイトへの挑戦状だ。
英国の“頑固親父”が電気に目覚めた日
東京オートサロンの会場は、相変わらず極彩色のウィングと、網膜を焼くほど眩しいLED、そしてエンジニアリングよりもインスタ映えを気にする連中で溢れかえっている。頭痛がしそうなほどの喧騒の中、一服の清涼剤のように静かで、しかし不気味なほど鋭い殺気を放つブースがあった。ケータハムだ。
そう、あの「ドアなど飾りだ」と言わんばかりのセブンを作り続けてきた、英国の頑固親父のようなメーカーである。彼らが「プロジェクトV」という名のEVプロトタイプを持ち込んだ。「ケータハムがEV? 世も末だ」と嘆くのは簡単だ。だが、この流麗なクーペの前に掲示されたスペック表を見ると、彼らが魂まで売り渡したわけではないことがわかる。彼らは物理法則という退屈な壁に対し、新たな武器で喧嘩を売ろうとしているのだ。
1,430kgという「痩せ我慢」の美学
まず、最も注目すべき数字から話をしよう。車両重量のターゲット値は「1,430kg」だ。
「おいおい、セブン(約500kg)の3倍じゃないか」と激昂する諸兄、落ち着いてほしい。現在のEV市場を見渡してくれ。2トン超えは当たり前、軽いと言われるモデルでも1.6トンや1.8トンだ。バッテリーという名の鉛の塊を積んで走る今の自動車業界において、1.4トン台という数字は、もはや「変態的」なダイエットの成果と言える。
全長4,350mm、全幅1,850mmという適度なサイズに、ダブルウィッシュボーンの足を前後に入れる。カーボンで安易に誤魔化すのではなく、伝統の鋼管スペースフレームとアルミ複合材で剛性を出しながらこの重量に収める。この執念こそ、我々が愛するケータハムだ。
技術のトリプルアクセル:ヤマハ、XING、そしてパナソニック
さて、この美しいボディの下には、日本の技術者たちの血と汗、そして良い意味での「狂気」が詰まっている。スペック表の行間を読み解くと、非常に興味深い「技術のサプライチェーン」が見えてくる。
まず、心臓部となるeアクスルは、ヤマハ発動機が供給する。最高出力200kW(272PS)。昨今の「1000馬力EV」のインフレ合戦からすれば控えめに見えるかもしれない。だが、1,430kgの車体に272PSだ。0-100km/h加速は5秒以下。十分すぎるほど速い。
何より、LFAのエンジンサウンドで世界を泣かせたヤマハが作るモーターだ。ただ静かなだけの「洗濯機」であるはずがない。鋭いレスポンスとリニアな出力特性で、EV特有の無機質な加速感を「ドライバーとの対話」に変えようとしている。
そして、このプロジェクトの核心、バッテリーシステムだ。ここに「日英同盟」の真骨頂がある。
バッテリー容量は47kWh。航続距離400km(WLTP)を狙うには最小限のサイズだ。なぜもっと積まないのか? 重くなるからだ。その代わり、彼らは質で勝負に出た。
採用されたのは、パナソニックエナジー製の車載用円筒形リチウムイオン電池だ。テスラなどが採用する信頼と実績の「円筒形」を、台湾のXING Mobility(シンモビリティ)が開発したモジュールに詰め込んだ。
さらに驚くべきは冷却方式だ。「IMMERSIO™ Cell-to-Pack」システム、すなわち液浸冷却である。パナソニック製のセルを、冷却液に直接「ドブ漬け」にするのだ。
空冷? 水冷ジャケット? 甘い。直接冷やすことで、熱暴走のリスクを封じ込めつつ、急速かつ均一な熱マネジメントを実現する。これにより、47kWhという比較的小さな容量でも、過酷な充放電に耐えうるのだ。サーキットで全開走行をしてもタレないバッテリー。これこそ、スポーツカーに必要な資質だ。
この冷却システムを支えているのが、日本のENEOSだ。彼らが開発した「EV FLUID BATTERY COOL」は、電気を通さず、熱だけを奪う魔法の液体である。
「東京R&D」が描く、和製ブリティッシュ・スポーツ
特筆すべきは、このプロジェクトの開発主導が、日本のレーシングコンストラクターの雄、「東京アールアンドデー」だということだ。
英国でコンセプトを描き、日本の職人が形にし、ヤマハの心臓とパナソニックのセルを積み、XINGの技術で冷やし、ENEOSの血液を流す。2021年に日本のVTホールディングスがケータハムを傘下に収めたとき、多くのファンが不安視したが、結果として最強の布陣が完成した。
充電時間は20-80%まで20分(100kW充電器使用時)。休憩中にコーヒーを飲んでいる間に、次のスティントの準備は整う。
単なる「移動手段」に成り下がった肥満気味のEVに絶望している諸兄にとって、このプロジェクトVは、唯一の「ドライバーのための避難所」になるかもしれない。
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インタビュー
「英国の介入はほぼゼロ」——開発の舞台裏
この野心的なプロジェクトの現在地について、ケータハムカーズ・ジャパン(エスシーアイ株式会社)広報の森田恭平氏に、伺った。
— まず、SCI(エスシーアイ)の役割について明確にしておきましょう。単なる輸入代理店というわけではありませんよね?
森田氏: 私たちはケータハムとモーガンの正規輸入代理店、つまりインポーターです。特にモーガンに関しては、並行輸入車を見かけることもありますが、正規で両ブランドを扱っているのは我々だけです。これまではケータハムがメインでしたが、今後はモーガンの認知度強化にも力を入れていきます。
— 展示されている「プロジェクトV」、以前見たものとは雰囲気が違います。これは単なる張りぼてのショーカーですか?
森田氏: いえ、違います(笑)。今回の車両は、以前のコンセプトモデルとは異なり、量産化を前提とした「走るための」プロトタイプです。実際、すでに日本国内でテスト走行を開始しています。開発主体の「東京アールアンドデー」さんと共に、大きなトラブルもなく順調にプロジェクトが動いていますよ。
— 「東京アールアンドデー」の名が出ましたが、開発チームの構成は? まさか英国のエンジニアがリモートで指示を出しているわけではないでしょう?
森田氏: そこが面白い点です。東京アールアンドデーさんが全般的な開発やボディを担当し、そこにヤマハさん、シンモビリティさん、そしてVTホールディングスが加わってチームを組んでいます。実は、開発に関して英国側はほとんど関わっていません。ほぼ「日本主導」で進めているのが、このプロジェクトVの大きな特徴なんです。
— 日本の技術で英国車を作る、と。では、我々がこのステアリングを握れるのはいつになりますか?
森田氏: 2028年にはお客様の元へお届けしたいと考えています。そのために、2027年中には車両を完成させ、予約受付や少額のお申込金をいただけるような環境を整えるスケジュールで動いています。もう少しだけ、お待ちください。
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