V8の暴力か、ハイブリッドの理性か。ジープが放つ「究極の2極化」ラングラーMOAB 392と新型コンパスが示す新たな自由

ジープが掲げた新たなテーマは「究極の二極化」だ。富士スピードウェイで初披露されたのは、新制度により日本上陸を果たした6.4L V8搭載のバケモノ「ラングラーMOAB 392」。そして1.2Lハイブリッドで都会を制する「新型コンパス」。ジープが描く新しい“自由”の全貌に迫る。


エコだ、サステナビリティだ、カーボンニュートラルだ。現代の自動車業界を取り巻くキーワードは、どれもこれも地球には優しいかもしれないが、我々クルマ好きの心拍数を上げるにはいささか刺激が足りない。そんな「優等生コンプレックス」に陥りつつある我々に対し、ジープがとんでもない劇薬を2つ同時に処方してくれた。

2026年11月3日、富士スピードウェイを埋め尽くした1,400台のステランティス車と3,000人のファン。その巨大フェス「STELLANTIS ALL BRANDS DAY -JAPAN 2026-」のメインステージにおいて、ジープが高らかに宣言した新戦略。それが『A NEW CHAPTER OF FREEDOM(自由の新たな扉)』である。

要するに、「道なき道を征く狂気(オフロード)」と「都会をスマートに走る理性(アーバンアドベンチャー)」という、ジープブランドにおける究極の二極化宣言だ。そして、その両極端を完璧なまでに体現する2台の強烈なニューモデルが、日本のファンの前でベールを脱いだ。片や環境活動家が卒倒しそうなV8搭載のバケモノ、片や都会を涼しい顔で駆け抜ける最新鋭のハイブリッド。この対比こそが、今のジープの異常なまでの懐の深さを物語っている。

オフロード界のスーパーカー。6.4L V8をねじ込んだ「Wrangler MOAB 392」

まずは「狂気」の方から紹介しよう。秋晴れの富士スピードウェイに、地響きのような重低音のエキゾーストノートを轟かせながら登場したそのクルマの名は、「Jeep Wrangler MOAB 392(ラングラー モアブ 392)」だ。

スペックを聞いて、どうか耳を疑わないでほしい。このご時世に、なんと6.4リッターのV8 SRT HEMIエンジンを、あのラングラーの狭いエンジンベイに無理やりねじ込んだ、紛れもないバケモノである。ボンネットの巨大なバルジ(膨らみ)と、そこから発せられる暴力的なV8サウンドは、これがただのオフローダーではないことを周囲に知らしめる。

そもそも、なぜこんな大排気量の自然吸気エンジンを搭載したアメリカン・モンスターが、日本で正規販売できるのか? その裏には、同じステージでサプライズ発表された「RAM 1500 Limited」と同様、国土交通省が新たに施行した「米国製乗用車に関する新たな認定制度(特別認定制度)」の存在がある。貿易摩擦の解消などを目的としたこの新制度により、アメリカ本国のピュアなV8サウンドと法外なパワーが、日本向けに厳しい規制で牙を抜かれることなく、合法的に公道を走れるようになったのである。

この日、ステージに登壇したモータージャーナリストの五味康隆(ごみ やすたか)氏は、このモアブ392を「オフロード界のスーパーカーであり、影の頂点」と表現した。五味氏いわく、「たとえば海辺でジェットスキーを砂浜から引き揚げるようなタフな場面。重いトレーラーを牽引しながら柔らかい砂地を走れば、他の名立たる四輪駆動車でさえスタックして泣きを見るような過酷な状況下でも、この392だけはビクともしない。圧倒的なトルクで何事もなかったかのように引っ張り上げる最強の強さを持っている」という。

足元には標準で35インチという極太の巨大マッドテレーンタイヤを履き、サスペンションは3.5インチのリフトアップが施されている。さらに、岩場での下回りのダメージを防ぐ強固なロックガードまで標準装備。つまり、納車されたその足で、そのまま地球の果てまで、あるいは月面のクレーターまで走り出せるような究極のファクトリーカスタムなのだ。

他社がこぞってダウンサイジングターボやEV化、マイルドハイブリッド化へと舵を切る中、絶滅危惧種である大排気量のV8 NA(自然吸気)がそのまま新車で買える。五味氏も「他社や同じグループのダッジでさえターボ化が進んでいる今、この素晴らしい官能的なV8サウンドがそのまま日本で手に入るのは奇跡的だ」と語っていたが、まさに自動車史におけるバグのような、あるいは最後の打ち上げ花火のような存在だ。

このモアブ392を所有するということは、単にクルマを買うという行為を超えている。あなたが所有するどんなピュアスポーツカーよりも、休日の行動範囲とアドレナリンの分泌量を劇的に広げてくれる、人生の起爆剤となるはずだ。

都会のジャングルを生き抜くクレバーな相棒「新型コンパス」

しかし、ここで少し深呼吸をして、冷静になって現実世界に目を向けてみよう。

我々は毎日砂浜でジェットスキーを引き揚げているわけではないし、週末ごとに切り立った岩山をロッククローリングで登るわけでもない。月曜から金曜まではコンクリートのジャングルを這い回り、休日はお洒落なカフェやショッピングモールへ出かけるのが、現代人のリアルな生活の99%だ。

そんな「アーバンアドベンチャー(都市の冒険)」のための最も合理的かつクレバーなアンサーとして披露されたのが、もうひとつの主役である「新型コンパス(ファーストエディション)」である。ラングラーMOAB 392が道なき道を征く「オフロードの狂気」なら、こちらは都会の喧騒を涼しい顔で制する「洗練された理性」だ。

新型コンパスは、その中身からして全く新しい。ステランティスの最新鋭アーキテクチャである「STLA Medium」プラットフォームを採用し、パワートレインには実用性と燃費に優れる1.2Lのe-Hybrid(マイルドハイブリッド)を搭載している。駆動方式はあえて2WD(前輪駆動)を中心としたラインナップとなる予定だ。

「ジープなのに2WD? 四駆じゃないの?」と眉をひそめる古参ファンもいるかもしれない。だが、よく考えてみてほしい。都市部や整備されたハイウェイを走る上で、無駄に重いプロペラシャフトやデフケースを引きずって走る必要がどこにあるだろうか。ストリートでの軽快なフットワーク、優れた燃費性能、そして日常の使い勝手を極限まで高めるための、ジープなりの極めてクレバーな決断なのだ。

インテリアに目を移せば、そこはもはや泥臭いジープの面影はない。ダッシュボードの中央には、クラスの常識を覆す16インチの巨大な横長モニターが鎮座している。最新のデジタルデバイスに囲まれたコクピットは、最先端のプレミアムSUVそのものであり、スマートフォンを駆使してスマートに街をナビゲートしてくれる。

五味康隆氏も、この新型コンパスの進化には舌を巻いていた。「1.9mを超える全幅が生み出す圧倒的なトレッド幅によって、走りの安定感が桁違いに進化している」と、そのオンロードでの高いポテンシャルを絶賛。コンパクトSUVのセグメントでありながら、ワンランク上のドッシリとした乗り味と、路面に吸い付くようなコーナリング性能を手に入れているのだ。都会の狭い路地をスイスイと駆け抜け、休日のちょっとした遠出も1.2L e-Hybridの優れた燃費で難なくこなす。新型コンパスは、現代の多様化するライフスタイルに最も寄り添う「もうひとつのジープの完成形」と言えるだろう。

ジープが描く「自由」のスケール感

『A NEW CHAPTER OF FREEDOM(自由の新たな扉)』。この言葉の通り、現在のジープはもはや単なる「オフロード専門の泥んこブランド」という古い枠組みには収まらない。

6.4L V8という時代錯誤なまでの巨大エンジンを搭載したモアブ392で、地球の果てまで突き進む「圧倒的な非日常の自由」を提供する一方で、新型コンパスの最新ハイブリッドシステムで都市のジャングルをスマートにサバイブする「洗練された日常の自由」をも、ジープは完璧にカバーしてみせたのだ。

ステランティス ジャパンの成田 仁社長は、開会の挨拶で「ステランティスは、ワクワクするおもちゃが詰まったおもちゃ箱だ」と語った。その巨大なおもちゃ箱の中で、ジープは今、最も振り幅の大きい、最高にエキサイティングなブランドへと進化を遂げている。

泥にまみれてV8の咆哮に酔いしれるか、巨大なモニターとハイブリッドでクールに街を流すか。対極にあるこの2台のニューモデルを見れば、ジープが我々に突きつけている「新しい自由」のスケール感が、嫌でも理解できるだろう。どちらを選ぶにせよ、ジープのステアリングを握るということは、日常という名の退屈な檻から抜け出すための、最も確実なパスポートを手にするということなのだ。

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