秋の気配が漂う表参道の洒落た空気の中、メルセデス最量販SUV「GLC」がついに心臓をバッテリーへと挿げ替えた。「electric GLC」——それは単なるエコで退屈な移動手段などではない。1メートル超の巨大スクリーンにサメを泳がせ、無音のまま内臓を押し潰すほどの強烈なGを引き出す、極めて悪趣味で最高に魅力的な宇宙船だ。トップギア ジャパンが、この「未体験SUV」のベールを剥がす。
電動化の波に抗うのではなく、波そのものを飲み込む王者の流儀
電気自動車(EV)という言葉を聞くと、我々トップギア ジャパンの読者は思わずあくびを噛み殺すかもしれない。「どうせまた、冷蔵庫のように白くて退屈な、感情を持たない白物家電の親戚だろう」と。だが、表参道の特設会場に鎮座していたメルセデス・ベンツ新型「electric GLC」は、そんな薄っぺらい先入観を、見えない巨大なハンマーで粉砕してくれた。
週末のF1アメリカGPで、メルセデスAMGペトロナスのキミ・アントネッリが魅せた栄光の余韻が冷めやらぬ中、メルセデス日本法人のトップであるゲルティンガー剛 社長は、誇らしげにこの新たな巨獣をアンベールした。GLCといえば、2016年の上陸以来、日本の富裕層や意識の高いエグゼクティブたちに「最も選ばれているメルセデス」である。その心臓部から内燃機関を引っこ抜き、巨大なリチウムイオンバッテリーと狂気じみた自社製モーターをねじ込んだ意欲作だ。
電動化の波に対し、メルセデスは妥協という言葉をドイツの辞書から消し去ったらしい。エコノミーであることを言い訳にせず、むしろ「タキシードを着た乱闘」とでも呼ぶべき、プレミアムと暴力的なパフォーマンスの融合を果たしている。これはもはや車ではない。我々の知るSUVの概念を過去のものにする、路上のスペースシャトルである。
デザインとキャビン:ガラスとLEDが支配する、狂気の「走る水族館」
エクステリアに対面してまず目を奪われるのは、300SELなど往年の名車にインスパイアされながらも、完全に未来へと振り切ったフロントグリルだ。942個ものポリカーボネート製バックライトドットが配置され、ピクセルグラフィックがアニメーションする。夜の高速道路でルームミラーにこの光る幾何学模様が迫ってきたら、思わず道を譲るか、UFOの飛来を覚悟するだろう。
そして、スリーポインテッドスターのエンブレムに指で軽くタッチするだけで、ウィーンという静かなモーター音とともにフランク(フロントトランク)が開く。そこには128Lの空間があり、機内持ち込みサイズのキャリーケースが2つ飲み込める。ジェームズ・ボンドならここに秘密兵器を隠すだろう。
しかし、真の狂気はキャビンにある。ドアを開けると、横幅約1メートル(39.1インチ)という、正気の沙汰とは思えない「MBUXハイパースクリーン」がダッシュボード全体を覆い尽くしているのだ。8Kの水平解像度を持つこの巨大なガラスの向こうでは、「エモーショナルモード」なる機能によって、燃え盛る焚火の映像(しかもシートヒーターと連動して尻まで熱くなる)や、サメや魚が悠々と泳ぐ「水族館モード」が展開される。「一体誰が、時速100kmで走りながらダッシュボードでサメを飼いたいと思うんだ?」とツッコミを入れたくなるが、メルセデスのエンジニアは「できるからやった」と平然と答えるに違いない。
頭上には、9つのセグメントごとに透明度を電気的に変えられるSKY CONTROL パノラミックルーフが備わり、夜になればガラス面に印刷された162個のスターモチーフが64色のアンビエントライトと共に浮かび上がる。シートに身を沈めると、革靴から着想を得たという熟練職人手縫いの「モカシンステッチ」が、最高級のレザーの匂いと共にドライバーを包み込む。これは車内の加飾というより、走る現代美術館だ。
狂気の自社開発モーターとシャシー工学:物理法則を嘲笑うエンジニアリング
見た目がどれほど宇宙船でも、我々トップギア ジャパンが最も気にするのは「走りの血統」だ。この巨大な質量を持つ鉄とバッテリーの塊が、コーナーでどう振る舞うのか。結論から言えば、物理法則への見事な反逆である。
心臓部には、ゼロから開発されたEV専用プラットフォーム「MB.EA-M」が奢られ、リアアクスルには自社開発の永久磁石式同期モーター(PSM)が搭載されている。驚くべきは、バッテリーから車輪へのエネルギー変換効率が「最大93%」に達していることだ。内燃機関が熱エネルギーの半分以上をマフラーから無駄に吐き出していることを考えれば、これは驚異的な魔法である。モーター内部のダブルV配置ローター磁石とコードコイルが生み出すのは、振動を一切伴わない完全なる「無音の暴力」。
さらにリアには2速トランスミッションが備わる。1速(ギア比11:1)で発進した瞬間、内臓がシートにめり込むような強力なGを発生させ、高速域では2速(5:1)へ切り替わり、底なしのパワーで長距離を巡航する。上位グレードの「300 4MATIC electric」に至っては、最高出力421PS、最大トルクはなんと800N・mだ。地球の自転を逆回しにする気か?
そして、2トンを超える巨体をまるでホットハッチのように踊らせる秘密が、最大4.5度操舵される「リア・アクスルステアリング」である。低速域では前輪と逆方向に切れ、最小回転半径を5.2mというコンパクトカー並みに縮小。スーパーの狭い駐車場でも、ショッピングカートのようにスルスルと曲がる。しかしひとたび高速道路のランプを駆け上がれば、前輪と同方向に操舵され、レールの上を走る新幹線のような圧倒的な直進安定性を見せつけるのだ。
日常のリアリティとスペック:長距離クルーザーとしての真価
カタログスペックの数字を並べるのは退屈だが、electric GLCがもたらす日常のドラマを語るには避けて通れない。フロア中央に敷き詰められた85.5kWhの巨大なリチウムイオンバッテリーは、「GLC 250」で最長642km(欧州WLTC参考値)という、東京から京都まで無充電で駆け抜けられる航続距離を叩き出した。
充電性能も抜かりない。日本仕様はCHAdeMO(最大100kW)にしっかり対応し、残量10%から80%まで約45分で回復する。コーヒーを飲み、スマートフォンのメールを数件処理している間に、この巨獣は再び数百キロを走るエネルギーを飲み込んでいる計算だ。さらに給電機能(V2L)も備えており、キャンプ場に行けば、この車そのものが巨大なモバイルバッテリーとなり、エスプレッソマシンからプロジェクターまで、あらゆる家電に電力を供給できる。
荷室容量も520Lから最大1,690Lのフラット空間を確保。5人フル乗車でも標準的なゴルフバッグが3個余裕で飲み込める。つまり、平日には一切の排気ガスを出さず静寂の中で役員を運び、週末には仲間とのゴルフや、満天の星空の下でのグランピングを完璧にこなす、究極のスイスアーミーナイフなのだ。
登壇者が語った「メルセデスの覚悟」:800万年の計算を1秒でこなす頭脳
発表会の熱気は、登壇者たちの言葉の端々から伝わってきた。メルセデス・ベンツ日本のゲルティンガー社長は、マイクを握りしめながら力強くこう言い放った。
『この車は、単にパワートレインを電動化したモデルではない。EVならではの魅力を引き出した、未体験の価値と体験をお届けするSUV(未体験SUV)だ』
彼らは一切の予断を持たず、見えないBピラーに一般鋼材の4〜5倍の強度を誇る2,000MPa級の超高張力鋼板を採用した。「安全への予断なき姿勢」——これこそが140年間変わらないメルセデスのDNAである。
そして、ドイツから駆けつけたプロダクトマネージャーのダニエル ノルテは、英語でこう熱弁した。
『It makes me extremely proud today. ドアを開けた瞬間、我が家に帰ってきたかのような安心感(Welcome home)を感じてもらえるはずだ』
彼の言葉を裏付けるのが、新型GLCの神経網である「MB.OS」の驚異的な処理能力だ。ノルテは不敵な笑みを浮かべ、こう例えた。
『人間が1秒間に1回の計算を行った場合、約800万年(8 million years)かかる作業量を、このシステムは一瞬(毎秒254兆回)で処理する』
ゲームエンジン「Unity」を駆使したぬるぬると動くグラフィックや、「Fractal Fusion」と名付けられた未来感溢れる電子の走行音は、このバケモノじみた演算能力の上で成り立っている。彼らは車を作ったのではなく、タイヤの生えたスーパーコンピューターを作り上げたのだ。
ガレージに迎えるべきは誰か? そしてトップギア的最終判定
では、この「electric GLC」をガレージに迎えるべきはどんな人物か。それは、ただエコな車が欲しいと願う環境至上主義者ではない。静寂の中に隠された暴力的なトルクを愛し、ステアリングを握るたびに最高のクラフトマンシップと最先端のデジタル技術に浸りたいと願う、成功したエグゼクティブたちだ。
週末の早朝、家族がまだ眠りについている時間に、誰にも気づかれることなく静かにガレージを出発する。しかし、高速道路の合流地点に差し掛かった瞬間、アクセルを深く踏み込めば、効率93%の自社製モーターが爆発的なエネルギーを路面に叩きつけ、タキシードを着たサイボーグが本性を現す。
価格帯は実質800万円台から(補助金適用後)。このパッケージングと圧倒的なテクノロジーを考えれば、バーゲンセールにすら思えてくる。内燃機関の咆哮やガソリンの匂いが消えゆくのは、我々エンスージアストにとって確かに寂しいことだ。しかし、メルセデス・ベンツ electric GLCのステアリングを握れば、誰もがこう認めざるを得ないだろう。
「エンジンがないことも、悪くない」と。
これがトップギア ジャパンの最終判定だ。
最後に一つだけ、あなたにお聞きしたい。
この驚異的な「未体験SUV」、もしあなたのガレージの鍵を渡されたら、最初の週末は誰を乗せて、どこへドライブに行きたい?




