袖ヶ浦フォレストレースウェイに解き放たれたマセラティの最新鋭、MCPURAとGT2ストラダーレ。電動化の波に抗い、F1由来のエンジンが高らかに咆哮する今、我々はイタリアの美学と狂気が交錯する現場を目撃した。
袖ヶ浦フォレストレースウェイの空は、まるでイタリアの伊達男が着るシャツのように澄み渡っていたが、風は英国の荒野のように冷たかった。だが、ピットレーンに並べられた彫刻のようなマシンたち、マセラティ「MCPURA Cielo(エムシー プーラ チェロ)」と「GT2 Stradale(ストラダーレ)」が発する熱気の前では、気温のことなど些末な問題に過ぎない。
今、あなたが読んでいるここはトップギア・ジャパンだ。我々はカタログの数値を読み上げるために来たのではない。このイタリアの名門が、電動化という津波が押し寄せる自動車業界の岸辺で、どのように踏ん張っているのか、あるいは華麗にステップを踏んでいるのかを確かめに来たのだ。
始まりは、マセラティ ジャパンの木村隆之代表取締役によるプレゼンテーションだった。彼は自信に満ちた表情でこう切り出した。
「2025年は750台を販売しました。2026年は、さらにその上、800台を目指します」
木村氏は、今年がマセラティにとって特別な年であることを強調する。
「今年はレース参戦100周年、そしてブランド創立111周年という記念すべき年です。ギブリやレヴァンテが完売した今、我々は『GT2ストラダーレ』や『MCPURA』といったフラッグシップで、ブランドの純度を高めていきます」
さらに彼は、思わず紅茶を吹き出しそうになるほどユニークな「おもてなし」を披露した。なんと、新車をオーダーして納車を待つ間、認定中古車のMC20を無金利で貸してくれるというのだ(「MC20 CPO Bridge Finance」)。
なんという贅沢。レストランでメインディッシュを待つ間に、シェフが前菜としてフルコースを振る舞うようなものである。
「スーパーカーをガレージに飾るだけでなく、実際にたくさん距離を乗って楽しんでほしいのです」と木村氏は語る。その言葉は、投機目的で車を買う輩ではなく、ここを読んでいるみなさんのような“走り屋”の心に深く刺さる。
さて、本題の車だ。まずは「MCPURA」からいこう。
MC20のフェイスリフト版にあたるこのモデル。「Pura(プーラ)」とはイタリア語で「純粋」を意味する。マセラティはMC20という記号的な名前を捨て、より情緒的な名前を選んだわけだ。
外観で目を引くのは、フロントの「シャークノーズ」だ。以前のモデルよりも鋭く、攻撃的になった。まるで獲物を狙うサメのように、あるいはスピード違反の切符を切ろうとする警察官を見つけた時の私の表情のように、鋭い。
「チェロ(空)」の名を冠するスパイダーモデルに乗り込み、コースインする。
特筆すべきは、その洗練されたマナーだ。ダラーラと共同開発したカーボンタブ・シャシーは、路面の不整を魔法のように消し去る。英国の同僚たちが「アルピーヌA110を巨大化させたような優雅さ」と評していたが、まさにその通りだ。
袖ヶ浦のテクニカルなコーナーを、MCPURAは舞うようにクリアしていく。ステアリングは、新たに採用されたフラットトップ&ボトム形状のおかげか、あるいはエンジニアの執念か、9時15分の位置で完璧なホールド感を提供する。
ネットゥーノ・エンジンのサウンドは、以前よりもクリアで、抜けが良い。「ドッカンターボ」のような無粋な振る舞いは一切なく、右足の動きに忠実にパワーが湧き上がる。これは、スーパーカーでありながら、毎日コンビニに乗っていけるほどの懐の深さを持っている。ガラスルーフを開ければ、わずか12秒で頭上はイタリアの空(Cielo)と繋がるのだから。
だが、今日の真の主役は、その隣で異様なオーラを放っているGT2ストラダーレだ。
見てほしい、この巨大なリアウイングを。調整可能なこのウイングは、高速域で500kgものダウンフォースを生み出すという。これは、相撲取り数人がトランクに乗っているのと同じ効果だ(もちろん、空気抵抗はずっと少ないが)。
この車は、レーシングカーである「GT2」と、公道モデルの「MCPURA」を強制結婚させて生まれた子供だ。最高出力は631bhpから640bhp(日本仕様)へと引き上げられ、車重は59kg削ぎ落とされた。価格は4,394万円から。安くはないが、プライベートジェットを買うよりはマシだ。
シートに身を沈めて、GT2ストラダーレのコクピットに収まる。内装はスパルタンだ。余計な装飾は剥ぎ取られ、カーボンがむき出しになっている。「快適性? なにそれ、おいしいの?」と車が問いかけてくるようだ。
エンジンを始動すると、MCPURAとは別種の咆哮が轟く。コースへ出ると、その違いは明白だ。
「CORSA(コルサ)」モードに入れると、この車は狂気を孕んだ猛獣へと変貌する。スロットルを開けた瞬間、背中を蹴飛ばされたような加速。0-100km/h加速2.8秒という数字は、脳の処理速度を超えている。
英国のトップギアでは、この車について「ブレーキの熱ダレ」や「シフトチェンジの人工的なショック」について少々辛辣な指摘があった。確かに、パドルを弾いた瞬間の「ガツン!」という衝撃は、演出過剰かもしれない。ポルシェのPDKが外科手術のように正確無比だとすれば、マセラティのそれは、オペラのクライマックスでティンパニを叩くようなドラマチックさがある。
しかし、袖ヶ浦のコーナーでのトラクションは圧巻だ。タイヤがアスファルトに食らいつき、物理法則を嘲笑うかのように旋回する。フェラーリのような神経質な鋭さはないが、その分、ドライバーに「俺に任せろ」と言わんばかりの安心感を与える。これこそが、マセラティの流儀なのだろう。
ブレーキに関しては、確かにサーキットを攻め続けるとペダルのタッチに変化が現れるかもしれない。だが、忘れてはならない。これはナンバープレートのついた車なのだ。木村氏が言うように「カップルで2泊3日の旅行に行ける」トランクスペースも確保されている。
911 GT3 RSのように、コンマ1秒を削るために生活の全てを犠牲にするようなストイックさは、ここにはない。あるのは、圧倒的な速さと、それと同居するイタリアンラグジュアリーの香りだ。
試乗を終え、ピットに戻ると、マシンの熱気と共に独特のオイルの匂いが漂ってきた。
電動化へと舵を切る世界の中で、マセラティはあえて「純粋な内燃機関」の快楽を突きつけてきた。ネットゥーノ・エンジンは、プレチャンバー(副室燃焼)というF1技術を使い、一滴のガソリンから最後の一馬力まで絞り出そうとしている。それはまるで、消えゆく炎が最後に放つ、最も眩い輝きのようだ。
GT2ストラダーレは完璧な車か? いや、そうではないかもしれない。ポルシェほど理路整然としておらず、マクラーレンほど未来的でもない。
だが、そこには「愛すべき欠点」と「魂を震わせるドラマ」がある。
理屈や偏差値で車を選ぶならドイツ車を買えばいい。だが、人生に彩りと情熱、そして少しの狂気を求めるなら、答えは目の前にある。
マセラティは、111年経ってもなお、我々を退屈させることを知らない。それこそが、何よりのエンジニアリングの結晶なのだ。
写真:上野和秀
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