【アルファ ロメオ】白物家電に成り下がるな。アルゴリズムに反旗を翻す新星「ジュニア&トナーレ スポーツ スペチアーレ」

TRUNK (HOTEL)の静寂を切り裂くように、真紅のアルファ ロメオがその美しい牙を剥いた。アルゴリズムが弾き出した退屈な「正解」で埋め尽くされた現代の路上に、彼らは「アンチ コモディティ」という名の鮮烈な宣戦布告を叩きつけたのだ。これは、血の通った機械と人間が織りなす、官能に満ちた夜の目撃証言である。


静寂と白の結界を破る、真紅の衝撃

渋谷のキャットストリートに佇むTRUNK (HOTEL)。都会の喧騒から隔絶されたその空間には、妙な緊張感が張り詰めていた。指定された「白」のドレスコードに身を包んだプレス陣は、まるでこれから始まる怪しげな儀式を待つ教団員のように口数を減らし、会場の中央に鎮座するベールに覆われた“何か”を見つめている。

グラスの中で氷が溶ける微かな音すら鼓膜を叩くほどの静寂。それは、獰猛な猛獣が檻から解き放たれる直前の、あのヒリヒリとした渇望感に似ていた。

そして、ベールが剥がされた瞬間、我々の網膜は鮮烈な「ブレラ レッド」に焼き尽くされた。現れたのは、アルファ ロメオが放つ新型限定車「ジュニア スポーツ スペチアーレ」と「トナーレ スポーツ スペチアーレ」だ。

純白の結界を容赦なく切り裂く、深紅のボディワーク。計算し尽くされた照明が、豊かな面構成の上を滑るように反射し、静止しているのに今にもアスファルトを蹴り上げそうな生命感を放っている。タキシードを着込んだ乱闘騒ぎとでも言うべきか。エレガントでありながら、その奥底には隠しきれない暴力的なまでの美しさが息づいているのだ。

「正解」という名の退屈への反逆(アンチ コモディティ宣言)

現代の自動車産業は、退屈な病に冒されている。「星4.5以上」のレビューと、アルゴリズムが弾き出した「失敗しないための合理的な正解」に支配され、どのクルマも似たようなツラ構えの無機質な白物家電へと成り下がってしまった。エコで、静かで、燃費が良くて、誰が乗っても安全。素晴らしい。拍手喝采だ。だが、ステアリングを握っても少しも胸が躍らないのはなぜだろう?

そんな息が詰まりそうな効率至上主義のド真ん中で、アルファ ロメオは鮮やかに反旗を翻してみせた。Stellantis ジャパンのアルファ ロメオ ブランドヘッドである黒川進一氏は、マイクを握りしめ、静かだが確かな熱を帯びた声でこう語りかけた。

「私たちの毎日は今、アルゴリズムと『失敗しないための合理的な正解』で埋め尽くされています。もちろん、それはとても便利で快適です。そして世の中のクルマもまた、同じように進化してきました。(中略)でも、その合理性を突き詰めた結果、街の景色はどうなっているでしょうか。どれも似たような顔つきで、効率的だけどどこか無機質な、便利な白物家電やただの移動のツール、つまり『コモディティ』ばかりになっていないでしょうか」

コモディティ。なんとも無味乾燥な響きだ。続けて放たれた彼の言葉は、トップギア ジャパンの魂を激しく揺さぶるものだった。

「もちろん、それもひとつの素晴らしい正解です。ただ、私たちアルファ ロメオは、『正解よりも感動を選びたい』」

これぞ、110年以上にわたって貫かれてきたアルファ ロメオの生き様、「アンチ コモディティ」の痛快なマニフェストである。他人がつけた星の数や、カタログ上のつまらない数字なんてクソ食らえだ。コーナーの頂点(クリッピングポイント)をかすめた瞬間、理屈抜きで心拍数が跳ね上がるか。自身の感性だけを信じる狂おしいまでの情熱こそが、クルマを単なる移動の道具から「生き物」へと昇華させるのだ。

数字(スペック)では測れない、指先が暴く官能性

今回お披露目された2台の「スポーツ スペチアーレ」。その真価は、決して0-100km/h加速や燃費効率といった野暮なスペックシートからは読み取れない。

エクステリアに目を向ければ、引き締まったグロスブラックの専用ボディキットに、精緻に計算されたシルバーのアクセントが施されている。これはイタリア美術における明暗法(キアロスクーロ)のクルマ版だ。ただ派手さをひけらかすチンピラのようなチューニングカーとは次元が違う。高級ホテルのエントランスや静けさに包まれた美術館の車寄せに滑り込んでも、周囲の空気を乱すことなく、洗練された大人のエレガンスを漂わせる完璧な仕立てである。

足元には、1960年代後半に世界を熱狂させた伝説のミッドシップレーサー「ティーポ33ストラダーレ」の系譜を色濃く継ぐアイコニックなデザインのホイールが装着され、アルファ ロメオの濃密な歴史を無言で物語っている。

そして、ドアを開け、コクピットに身を沈めれば、そこはもう完全にドライバーの感性を挑発する劇場だ。上質なアルカンターラが身体を包み込み、繊細なステッチワークと真っ赤なロゴ刺繍が視覚を突き刺す。ステアリングホイールを握りしめ、指先でそのマテリアルの官能的な感触を確かめた瞬間、脳よりも先に身体が「これこそがクルマだ」と叫び出すはずだ。

黒川氏は、このクルマがもたらす極上の体験をこう表現した。

「クルマとは単なる移動の道具ではなく、その人の美意識や生き方を雄弁に語る『映画の舞台装置』のようなものだと僕は思っています」

まさにその通りだ。他人に自慢するための数字など要らない。イグニッションを入れるたびに日常がドラマチックなワンシーンへと反転し、ドライバーを物語の主役へと引きずり込む。それが、アルファ ロメオが仕立て上げた「スポーツ スペチアーレ」という名の舞台装置なのである。

齊藤工が紐解く、美しい「矛盾と業」

会場の熱気が一段と高まる中、スペシャルゲストとして俳優でありフィルムメイカーの齊藤工氏がステージへと歩を進めた。完璧に調律され、まるで効率よく人間を運ぶだけの移動カプセルと化した現代のクルマたちが失ってしまった「何か」について、彼はスクリーンを見つめるような深く鋭い眼差しで語り始めた。

「(展示車を見て)車というより『生き物』として描かれていることが多いのではないかなと感じました。その中に鼓動というか、現代に必要なアルファ ロメオの『体温』という感覚を受け、興奮しました」

まさに彼の言う通りだ。イタリア映画の歴史において、アルファ ロメオは決して主役を引き立てるだけの従順で無機質な小道具ではない。例えば1967年の名作『卒業』でダスティン ホフマンが駆るスパイダー デュエットは、親から与えられたエリートコースという敷かれたレールから逸脱していく青年の、唯一の理解者たる相棒であった。

また、『さらば恋の日』の埃っぽいシチリアの風景の中に突如として現れるガルウィングのティーポ33ストラダーレはどうだ。あれは少年の内に秘めた禁断の欲望や暴力的な衝動そのものを体現する、圧倒的でエロティックな異物として描かれていた。さらに『女性上位時代』でカトリーヌ スパークが颯爽と駆るジュリア スプリントGT(段付き)は、男性の情けなさを軽妙に笑い飛ばす、自立した女性の美しき武器としてスクリーンを彩ったのである。

映画の中の人間たちは皆、醜さや欲望、そして拭いきれない自己矛盾を隠そうとしない。正義の反対は悪ではなく「もうひとつの正義」であるように、善悪を安易に決めつけないイタリア特有の豊かさがある。そして、アルファ ロメオのステアリングもまた、ドライバーの完璧ではない「業」にどこまでも寄り添うのだ。齊藤氏は力を込めて続ける。

「僕らの世代はマニュアルで免許を取って、車に個性があって厄介であればあるほど対話をして更生していく世代でした。効率性を追求する先にはない『はみ出た部分』に、人間はアナログの感覚や思い当たる何かを宿す気がします」

いま路上を埋め尽くすエコカーや自動運転車は、ドライバーの小さな操作ミスさえも許さず、即座に冷徹な電子制御の檻へと閉じ込める。しかし、アルファ ロメオは違う。路面のアンジュレーションをステアリングを通じて饒舌に語りかけ、コーナーの手前で加重を移すたびに「さあ、お前はどう切り込む?」と挑発的に問いかけてくるのだ。その「はみ出た部分」の余白こそが、横Gに耐えながらタイヤがアスファルトを掴み、焦げるような匂いを漂わせるあの瞬間に、人間と機械の濃密な対話を成立させるのである。

フロアを支配するFPMのビートと、アルファ ロメオの残響

齊藤氏のトークセッションが残した深い余韻が漂う中、会場は一転して極上のイタリアン ナイトクラブへとその姿を変えた。照明が落とされ、DJブースに立つのは、音楽プロデューサーであり世界的DJのFPM 田中知之氏だ。

彼の手によってスピンされるトラックが、洗練されたイタリアン アペリティーボと極上のワインを楽しむゲストたちの鼓動と次第にリンクしていく。田中氏によれば、イタリアの60〜70年代の映画音楽を世界で最初に再評価したのは日本の渋谷系DJたちだったという。ボサノヴァやソウルミュージックを貪欲に輸入し、独自の解釈でアウトプットしたイタリア独特のB級感と洒脱さ。TRUNK (HOTEL)の仄暗い空間の中、その躍動する重低音とエスプリの効いたメロディがフロアを完全に支配していた。

そのうねるような極彩色のビートに全身を委ね、赤ワインのグラスを傾けていると、私の脳内にはFPMの稀代の名曲『Why not?』の強烈なリフレインが突如として蘇り、たまらなくもう一度聴きたくなる衝動に駆られた。緻密でエッジの効いたサンプリングと、小賢しい理屈や常識を吹き飛ばすダンスビートの渦。それは、目の前で艶やかな光を放つ限定車「スポーツ スペチアーレ」のキアロスクーロ(明暗法)に彩られたボディワークと見事なまでに共鳴していたのだ。

完璧な計算の上に成り立ちながらも、決して理性を手放さない野性的なまでの躍動感。機械の冷たい金属感と、フロアを埋め尽くす人間たちの熱気(体温)が激しく交差するこの夜の空間は、まさにアルファ ロメオというブランドの抗いがたい魅力を凝縮した縮図であった。音楽もクルマも、究極のところは人間の情動を震わせるための装置なのだ。

タキシードを着た野獣を飼い慣らせ

エコだ、タイパ(タイムパフォーマンス)だ、アルゴリズムの最適化だと、現代社会は私たちを安全で退屈な「正解の箱」へとひたすらに押し込めようとする。移動時間すらも無駄と切り捨てられ、車内はただの動くリビングルームと化しつつある。だが、本当にそれで人生は充実していると言えるのか?

今回発表された「ジュニア スポーツ スペチアーレ」と「トナーレ スポーツ スペチアーレ」は、そんな息苦しいディストピアから我々を救い出すための、最高にエレガントで官能的な「逃走用ビークル」である。

ダッシュボードの燃費計の針を睨みながら、いかにモーターだけで走れるかに血道を上げるエコドライブに徹するのも、まあ個人の自由だ。だが、トップギア ジャパンの読者ならどうする? 時にはタキシードを着こなすようにこのイタリアの野獣をスマートに駆り出し、夜の交差点の立ち上がりで心臓が高鳴るままにアクセルを深く踏み込んでみるべきだろう。エキゾーストノートが背後で咆哮を上げ、ステアリングから伝わる確かな鼓動と体温が、あなたがまだ「生きている」という事実を暴力的なまでに証明してくれるはずだ。

合理性という名の退屈な呪縛から解き放たれろ。お前はまだ、アルゴリズムなんかじゃなく、自分自身の鋭利な直感と感性だけでこの世界を走っているか? 答えが「YES」なら、アルファ ロメオのシートがいつでもあなたを待っている。

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