退屈なディーラーでの車選びはもう終わりにしよう。東京・足立区の環七沿いに誕生した「ジープ / プジョー / シトロエン / フィアット / アバルト足立」は、同一施設で日本最多の5ブランドを取り扱う「Stellantis Brand House」店舗だ。トップギア ジャパンが、米仏伊のクセ強クルマたちが一つ屋根の下で火花を散らす、狂気と情熱の巨大実験場の深淵に迫る。
排気ガスとカフェオレが交錯する、美しくも野蛮な「クルマのコロシアム」
控えめに言っても、狂気の沙汰である。
通常、日本の自動車ディーラーといえば、白く無機質なタイルの上に単一ブランドの車が上品(あるいは退屈)に並べられ、愛想笑いを浮かべたセールスマンが、暗記したカタログの数値を朗読するだけの空間だ。そこには、タイヤの焦げる匂いも、内臓を揺さぶるエキゾーストノートの余韻もない。しかし、2026年7月25日、トラックや営業車がひしめく東京都足立区の主要幹線道路・環状7号線(東京都道318号)沿いにグランドオープンを迎えた「ジープ / プジョー / シトロエン / フィアット / アバルト足立」は、そんな業界の常識に牙を向き、完膚なきまでに破壊してみせた。
この店舗は、Stellantisが日本国内で展開する8ブランドのうち、なんと日本最多となる5ブランドを同一敷地内で取り扱う。「Stellantis Brand House(ステランティス・ブランド・ハウス)」のコンセプトのもと、およそ交わるはずのない哲学を持つクルマたちが、文字通り肩を寄せ合っているのだ。
空力特性などという軟弱な概念を無視したレンガのようなジープが、泥まみれの渓谷へ飛び込む日を待ちわびている横で、無防備なドイツ製セダンに今にも飛びかからんとする猫科のしなやかさを持つプジョーが爪を研いでいる。地雷を踏んでもカフェオレを一滴もこぼさないだろうと思わせるシトロエンの魔法の絨毯の向こうには、砂利でうがいをする不機嫌なイタリア人テノール歌手のような凶暴な排気音を響かせるアバルトが鎮座している。
それはまるで、上品なイブニングドレスを着た貴婦人と、泥だらけのコンバットブーツを履いた傭兵が、同じテーブルでフルコースを囲んでいるような、美しくも野蛮な異種格闘技戦である。黒を基調とした外観に、内照式サインと各ブランドロゴが燦然と輝くファサードは、激戦区の環七沿いにおいて圧倒的な存在感を放っている。我々トップギア ジャパンは、オープン直前の7月23日に行われた熱狂的なレセプションパーティに参加し、この規格外のメガ店舗がいかにして産声を上げたのか、そのガソリンの匂い漂う深淵を覗き込んできた。

バンコクの熱帯夜と、インポーター社長を動かした一杯のグラス
この巨大な自動車のコロシアムは、緻密な数カ年計画や、エアコンの効いた退屈な会議室でのパワーポイントから生まれたわけではない。すべては、熱気に包まれたバンコクの夜、一杯のグラスと血の通った直談判から始まったのだ。
時計の針を少し戻そう。主催者であり、店舗を運営するシリウス株式会社の代表取締役、荒井賢CEO。彼は元々アメ車のトップセールスからキャリアをスタートさせ、自身もジープ グランドチェロキーを愛する男だが、その実、イタリアの洋服や食事をこよなく愛する「イタリアン・カルチャーの信奉者」でもあった。
荒井氏が運営する「ジープみなとみらい」がStellantisのインターナショナルエリアで第1位の栄冠に輝き、バンコクで表彰のディナーが開かれた夜のこと。奇しくも彼の隣には、Stellantis ジャパン株式会社の代表取締役社長、成田仁氏が座っていた。当初、足立の新店舗はジープとプジョーの2ブランドのみでスタートする予定だったのである。しかし、V8エンジン並みに高回転で回る荒井氏の情熱は抑えきれなかった。彼は成田社長にこう切り出したのだ。
「せっかく敷地が広いんです。僕はアメリカ車もフランス車も好きですが、イタリア車も好きなんです。ほかのブランドもやらせてくれませんか?」
普通の大企業なら、「持ち帰って社内で検討します」と答えて数ヶ月の稟議に回され、最終的に角の取れた無難な結論に着地するところだ。しかし、成田社長は違った。エリア1位の圧倒的な実績を持つ荒井氏の熱意と実力を誰よりも買っていた成田社長は、その場で「わかりました。なんとかしましょう」と即答。なんとそのディナーの席からすぐさま会社へショートメッセージを送り、事態を動かしてしまったのである。
インポーターのトップと、販社のトップ。二人のクルマへの愛とビジネスの嗅覚がレッドゾーンでスパークした瞬間だ。7月23日のレセプションパーティにおいて、17時15分から祝辞に立ったStellantis APAC パシフィック ビジネス ユニット COOのニルマル ネイヤー氏も、この日本初の試みを「荒井氏のビジョンと決意の証明」と最大級の賛辞で称えた。大企業の官僚主義を置き去りにするこの異常なスピード感こそが、狂気の5ブランド店舗を現実のものとした最大のターボチャージャーなのだ。

「クルマのセレクトショップ」という名の甘美な罠と、アベンジャーの衝撃
では、同一施設で日本最多の5ブランドを取り扱う「Stellantis Brand House」の空間とはどのようなものか。荒井氏自身が愛する洋服の「セレクトショップ」を体現したこの場所は、顧客にとって甘美にして危険な罠に満ちている。
クルマは洋服ほど頻繁に買い替えるものではない。そのため、興味のない単一ブランドのディーラーに足を踏み入れるのは、まるで場違いな高級ブティックに入るような強烈な心理的ハードルがある。しかし、ここは違う。休日の朝、ジープの無骨なラングラーを見に来たはずのアウトドア派の男が、見積もりを待っている間に、ふと隣に展示されたプジョーの官能的なボディラインに目を奪われる。あるいは、将来的に「もう少し取り回しの良い小さなクルマがいい」と考えた時、わざわざ他社へ流れることなく、同じ屋根の下で陽気で小粋なフィアットと出会うことができる。
これが、荒井氏と成田社長が仕掛けた「クロスセルの魔法」だ。特にジープ初のEVである「アベンジャー」の存在は、この店において極めて面白い化学反応を起こしている。これまでの泥臭いオフロード志向とは一線を画す流線型でオンロード寄りのデザインを持つアベンジャーは、フランス車やイタリア車の洗練されたデザインと比較検討する新しい客層を呼び込んでいるのだ。
泥を跳ね上げる強烈なトルクを愛する者と、EVのスムーズな静寂を求める者が交差する空間。ここのスタッフは単に馬力やトルクといったカタログの数値を暗唱するような無粋な真似はしない。「このモデルのサスペンションのストロークは、こういうライフスタイルを持つあなたの休日に完璧にフィットする」という、プロとしての独自の解釈をぶつけてくる。お客様の人生を深く知り、愛することで、ただの「鉄の塊」ではなく「新しい発見やチャンス」を売り込むのだ。

四国の雄が見抜いた、メガ店舗の「容赦なき合理性」と極限のタイパ
この華やかな熱狂を、極めて冷静かつ解像度の高い目で観察している人物がいた。愛媛を中心にステランティスブランドを展開する有力ディーラー、株式会社ロイヤルカーサービスの北村浩治社長だ。同業他社のトップである彼の目には、このメガ店舗が単なる東京の派手なショーケースではなく、生き残りをかけた「究極の生存戦略」として映っていた。
北村社長が指摘するのは、その裏側にある容赦なき「合理性」だ。5つのブランドを別々の場所に建てれば、土地代や高騰する建築コストはもちろん、事務や受付などのバックオフィススタッフも5拠点分必要になる。しかし、これを一つの巨大な「Stellantis Brand House」に集約すれば、メカニックやセールスはブランドごとに必要だとしても、裏方の業務はわずか1〜2名で回すことができる。さらに、店舗が分散していると「今メカニックが不在で対応できない」といった事態が起こり得るが、取り扱い全ブランドに対応可能な専用ワークショップを併設し人員を集約することで、新車販売からアフターサービスまで常に100%の戦力でお客様をもてなすことができるのだ。
そして何より、北村社長が絶賛したのは顧客側の「タイパ(タイムパフォーマンス)」の圧倒的な良さである。現代の消費者はとにかく忙しい。休日の貴重な時間を使い、都内の渋滞を抜けながら複数のディーラーをハシゴして、記憶やスマホの写真だけを頼りにクルマを比較するのは苦痛でしかない。
だが、「ジープ / プジョー / シトロエン / フィアット / アバルト足立」なら「移動時間ゼロ」だ。数歩歩くだけで、アメリカの荒野からパリのシャンゼリゼ通り、そしてローマの石畳へと瞬時にワープできる。SNS時代を生きるスピード感重視の顧客にとって、1箇所で好きなだけ、細部まで中身の濃い比較ができる空間は、何物にも代えがたい価値となる。北村社長はこのフォーマットが、東京だけでなく人口減少が進む地方都市においても強力な武器になると確信しているようだった。さらに北村社長は、このタイパと効率化がもたらす「真の価値」を見抜いていた。業務効率化によって店舗側に生み出されたリソースは、決してスタッフを休ませるためのものではない。その分、店舗スタッフが持つ高い能力とエネルギーのすべてを、来店されるお客様への接客に費やすことができるのだ。これこそが、メガ店舗が提供する究極のサービス向上に直結している。

ガラス張りの闘技場で戦う若きセールスマンと、シリウスの哲学
しかし、経営陣がいくら美しい青写真を描こうとも、現場で血を流し、タイヤの焦げる匂いを嗅ぐのは最前線のセールスマンたちだ。お国柄も整備特性も全く異なる5カ国のクルマを、若手スタッフがどうやって売り捌くのか?
そこには、シリウス流の緻密な「フレーム化(型化)」のシステムがあった。彼らは完全歩合制(コミッション制)という、血で血を洗うハングリーな弱肉強食の世界を良しとしない。代わりに安定した環境を用意し、約3年をかけて独自の育成プログラムを叩き込む。すべてのブランドの狂気じみたスペックや歴史を完璧に記憶するのは不可能に近い。だからこそ、誰でも案内できるようにバイヤーズガイドをラミネート加工し、実車の周りを歩きながら説明するウォークアラウンド用のトークスクリプト(マニュアル)を徹底的に作り込んでいる。
そして、この前代未聞の多国籍軍を最前線で指揮するのが、シリウス株式会社 事業部長の天倉敏幸氏である。7月23日のレセプションパーティでは、歓談を経てスタッフ紹介と中締めの挨拶に立った天倉氏の背中には、この巨大なカオスをまとめ上げる現場トップとしての誇りと、途方もないプレッシャーが滲んでいた。
現場では国別で4人のブランドマネージャーが同じフロアに配置されている。ガラス張りの闘技場のごとく、誰がどうマネジメントしているかが筒抜けだ。部下からの比較の目、隣のチームの熱気。それがコーナリング中の強烈な横G(重力)のようなプレッシャーとなり、店舗全体に猛烈な競争意識と切磋琢磨を生み出している。彼らは自身の「メインブランド」に深い愛情を持ちながらも、いざとなればラミネートを片手に他ブランドの魅力をも雄弁に語る。天倉氏の指揮の下、若きセールスマンたちは着実に「多国籍軍の特殊部隊」へと成長しつつあるのだ。
レセプションパーティの熱狂、そして足立区から始まる「ドルチェヴィータ」
7月23日のレセプションパーティ。オープニングムービー上映に続き、マイクを握った荒井CEOの口から出たのは、計算高いビジネスの数字ではなく、極めて個人的で泥臭い「地元への想い」だった。
実は荒井氏にとって、ここ足立区は大学を卒業するまで過ごした故郷である。子供の頃と比べて人口も外国人も増え、急速に発展していくこのエリアに、日本初となるStellantis5ブランドの巨大店舗を構えることができた。その喜びを語る彼の声には、確かな熱が帯び、感極まって声をつまらせるシーンもあり、招待客の心を打つものであった。「今日のパーティを、母に見せたいなと思いました」育ててくれた母への想い、故郷への恩返し。鉄と油の匂いがするビジネスの裏側にある、この生々しい人間ドラマこそが、シリウスという会社の心臓部で鼓動する最大のエンジントルクなのかもしれない。
そして、成田社長による乾杯のショートスピーチが会場を湧かせた。成田社長は、この足立の店舗を「東京市場のアンテナ」として機能させるつもりだ。手厚い補助金によりEV化が進み、トヨタをはじめとする国産メーカーが本腰を入れ始めたこの日本市場において、輸入車が生き残る道は単なる「燃費やスペックの競争」ではない。日本の道路事情において、究極の白物家電として完成された国産車に勝負を挑むには、別の武器が必要だ。
それが「ライフスタイルの提案」である。「冒険」を約束するジープ、「フレンチデザインと至高の足回り」を持つプジョー / シトロエン、そして「ドルチェヴィータ(甘い生活)」を体現するフィアット / アバルト。クルマというただの移動手段に、人生を彩る強烈な「個性」と「価値観」を添えて提供すること。
「ジープ / プジョー / シトロエン / フィアット / アバルト足立」は、単なるクルマの売り場ではない。5つのブランドが背負う国の各文化が激突し、交わり、新たな自動車愛好家を生み出すための巨大な実験場だ。もしあなたが、白物家電のような退屈なクルマ選びに飽き飽きしているのなら、環七沿いのこの「美しくも野蛮な異種格闘技戦」に飛び込んでみるべきだ。きっと、あなたの人生の歯車を狂わせる最高の一台が、そこで牙を研いで待っているはずだ。
ジープ / プジョー / シトロエン / フィアット / アバルト足立
■所在地
〒123-0872東京都足立区江北7-6-2
■電話番号(ブランド別)
ジープ足立:03-6803-1947
プジョー足立:03-6803-1856
シトロエン足立:03-5647-6557
フィアット/アバルト足立:03-6803-1718
■営業時間
10:00~18:00
■定休日
毎週火曜日・水曜日

