ケータハム カップ ジャパン西日本シリーズ開幕:完全防水など無粋の極み。全身ずぶ濡れでニヤつく英国的アナログ至上主義の狂宴

現代の自動車が失った「狂気」がここにある。電子制御という名の過保護なゆりかごからドライバーを引きずり出し、純粋な機械との対話を強要する英国の変態的傑作、ケータハム セブン。梅雨空の岡山国際サーキットで開催されたワンメイク レースは、全身ずぶ濡れになりながらアナログの極致を味わう愛すべき変態たちの祭典だった。


退屈な優等生たちを置き去りにする、半世紀に及ぶ英国の狂気

昨今の自動車業界は、まるで巨大なスマートフォンを作る競争に熱中しているようだ。2トンを超える車重を隠すために1000馬力のモーターを積み、AIがミリ秒単位で姿勢を制御する。そんな退屈な優等生たちを、バックミラーの彼方へ置き去りにする異端児が存在する。1973年、ロータスの創業者コーリン チャップマンから「セブン」の製造設備や独占権を受け継いだケータハムだ 。

彼らは半世紀以上にわたり、「走る楽しさ」という哲学だけを燃料に、屋根すら持たない軽量スポーツカーを英国ダートフォードの工場で頑なに作り続けている 。その狂気的とも言えるアナログへの偏愛を心ゆくまで堪能できるのが、今シーズンからスタートした「CATERHAM CUP JAPAN」である 。世界中で開催されるレースをモチーフに、日本の公道も走れるナンバー付き車両で争われるこの新カテゴリーは、軽自動車規格のエンジンを積む「セブン 170」をベースにFIA基準の安全装備を施した「SEVEN 170 CUP」によるワンメイク レースだ 。

視界不良、全身ずぶ濡れ。これぞ究極の「ドライビング」だ

西日本を舞台とするOBERON Seriesの初戦が6月7日、岡山国際サーキットで開催された 。ただでさえドライバーの腕が丸裸にされるマシンであるにもかかわらず、天候は梅雨前線の影響による容赦のない雨 。ヨコハマ製ワンメイク タイヤ「ADVAN dB V553」の排水性を信じ、10台の純粋なレーサーたちが水しぶきを上げてコースインした 。

予選では、このマシンの挙動を知り尽くす14 HIROBON選手が2分19秒241でポールポジションを獲得 。決勝のスタンディングスタートでも確実にホールショットを奪い、そのままトップチェッカーを受けたが、彼は賞典外のエキスパート枠である 。実質的なトップ争いを制し、見事開幕戦の勝者となったのは、3番グリッドから好発進を決めた9 安達選手だ 。

安達選手は過酷なレースをこう振り返る。「先頭のHIROBON 選手をスタートから追いかけていきましたが、シフトミスなどのペースダウンで後方の佐藤選手に追いつかれそうになったので、中盤からはノーミスを意識した安定ペースに切り替えました。次戦は天候に期待したいですが、シミュレーターでたくさん練習してきます!」

シフトミス。なんと甘美な響きだろう。現代のスーパーカーなら、ステアリング裏のプラスチック製パドルを指先で弾くだけで、AIが勝手にブリッピングまで済ませて完璧な変速を決めてくれる。しかし、この狂気に満ちた鉄パイプの集合体では、ドライバー自身が左足でクラッチを蹴り、金属のレバーを操作しなければならないのだ。視界ゼロに等しいヘビーウェットの中、背後に迫るライバルの気配を感じながらHパターンのギアと格闘する恐怖と快感は、決してシミュレーターの画面上だけで味わいきれる代物ではない 。

さらに、2位に入った80 佐藤選手のコメントも痛快極まりない。「想定外だったのは、全身がずぶ濡れになったことですね。それもまた楽しみましたけれど!」

全身ずぶ濡れ。これこそがケータハムに乗るという行為の真髄である 。加えて3位の5 中里選手も「視界を確保するためにラインを外した」と嬉々として語る 。そう、この車にはセンサー連動の自動ワイパーも、高性能なデフォッガーも存在しない。あるのは、容赦なく吹き付ける風圧と雨粒をヘルメット越しに受け止めながら、右足のミリ単位の動きでリヤタイヤの滑りを探る、ヒリヒリするような機械との対話だけなのだ。

快適性を捨てて得る、痛みを伴うほどの快楽

ABSもトラクションコントロールもない雨のサーキットで、接触や深刻なトラブルもなく全10台が完走を果たしたという事実は、現代のドライバーが忘れかけている「センサーに頼らない本当の運転技術」がそこにあったことを証明している 。

空調の効いたレザーシートでマッサージを受けながら、レーンキープアシストに命を預けるのも結構だ。だが、もしあなたが真の車好きを自称するなら、一度くらいは雨のサーキットでずぶ濡れになりながら、この英国産のアナログ兵器と格闘してみてはいかがだろうか。そこには間違いなく、最新のスーパーカーが束になっても敵わない、痛みを伴うほどの強烈な快楽が待っている。

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