東京・表参道。ハイブランドとスイーツの聖地に、突如としてスリーポインテッド・スターの巨大な「交差点」が出現した。140年前の「世界初の自動車」からアンディ・ウォーホルのアート、そして行列必至のドーナツまで。約1年限定の「Mercedes-Benz
Studio Tokyo」内覧会で我々が見た、時空を超えた自動車ブランドの底力をお届けする。
英国人が自動車に対して抱く愛情は、時として風変わりなものだ。我々は、雨漏りする幌や、電装系の気まぐれなトラブル、あるいはオイルの染みさえも「個性」と呼んで愛でる傾向がある。バックヤードで油まみれになりながらスパナを握る休日こそが、真のジェントルマンの嗜みだと信じている節があるのだ。しかし、そんな我々でさえ、ドーバー海峡の向こう側、ドイツ・シュトゥットガルトから生み出される冷徹なまでに完璧なエンジニアリングには、常に敬意を払わずにはいられない。
2026年4月。東京のファッションの中心地、表参道クロッシングパークに、そのドイツの巨人が新たな拠点を構えた。「Mercedes-Benz Studio
Tokyo」である。オープンに先立って行われた報道関係者向けの内覧会に、我々トップギア・ジャパンの取材班も足を運んだ。
ハイブランドのブティックや流行のカフェが立ち並ぶ表参道は、普段、泥だらけのオフローダーや大排気量V8の咆哮を愛する我々のような人間にとっては、少々敷居が高く、気恥ずかしさを覚える場所だ。ロンドンで言えば、チェルシーやナイツブリッジのど真ん中に放り込まれたような感覚に近い。しかし、メルセデス・ベンツ日本がこの目立つ場所に白羽の矢を立てたのには、極めて明確かつ知的な理由がある。
この施設は、メルセデス・ベンツ社がグローバルに展開するプロジェクト「Mercedes-Benz
Studio」の一環であり、ドイツのミュンヘン、デンマークのコペンハーゲンに続く、アジア初となる都市型ブランド体験拠点なのだ。テーマはずばり、「メルセデスの交差点」。過去、現在、未来、そしてファッション、アート、カフェといった多様なカルチャーが、自動車という軸をめぐって交差する場所としてデザインされている。ディーラーの重いガラス戸を開けて営業マンの視線を浴びるプレッシャーとは無縁の、あらゆる人々に対して開かれた空間なのだ。
内覧会に足を踏み入れた我々を待っていたのは、最新のEVやきらびやかなスポーツカーばかりではなかった。この日、我々の目を最も釘付けにしたのは、ステージ上でゆっくりと、しかし確かな鼓動を響かせて「動く」三輪の機械だった。カール・ベンツが1886年に特許を取得した世界初の自動車、「パテント・モトールヴァーゲン」である。
本年、2026年はメルセデス・ベンツにとって「140 Years of
Innovation」という記念すべきアニバーサリーイヤーにあたる。140年前、カール・ベンツがこの三輪車の特許を取得し、そのすぐ後にゴットリープ・ダイムラーが4輪のモトキャリッジを完成させた。そこから、自動車の歴史が始まったのだ。
ステージ上でモトールヴァーゲンが動く様子を目の当たりにした瞬間、私の脳裏には1886年のドイツの風景が浮かんだ。馬が牽いていない馬車が、単気筒エンジンの音を響かせながら道を走る光景。当時の人々にとっては、まさに魔法か悪魔の仕業に見えたことだろう。現代の我々からすれば、最高出力わずか0.75馬力、最高時速16km/hというスペックは、最新の電動キックボードにも劣るかもしれない。しかし、このむき出しの歯車とフライホイールの回転にこそ、人類が「モビリティ」という翼を手に入れた瞬間の圧倒的なロマンが詰まっている。これが動く姿を見られただけでも、表参道まで足を運んだ価値は十二分にあったと断言できる。
この140年にわたるイノベーションの軌跡は、単なる技術の進歩だけを意味するのではない。現在、自動車誕生140周年を記念して、3台の新型Sクラスが世界140カ所を巡る壮大な旅に出ているという。卓越したパフォーマンスとパイオニア精神、そして顧客への揺るぎないコミットメント。それらが「世界で最も魅力的なクルマ」をつくるという情熱を支え続けてきたのだ。
さて、「交差点」を名乗るからには、自動車以外のカルチャーとの融合も不可欠だ。アートを愛する読者諸兄にとって見逃せないのが、アンディ・ウォーホルによる「Cars」シリーズの展示である。1986年、ブランド創業100周年を記念してウォーホルが制作したこのシリーズから、世界初の自動車であるパテント・モトールヴァーゲンと、ブランドの象徴である流麗な300
SL
Coupéをモチーフにした2作品が期間限定(5月〜7月下旬予定)でやってくる。メルセデス・ベンツ・アート・コレクションは、1977年の設立以来、約3,000点もの作品を所蔵するヨーロッパ屈指の企業アートコレクションだ。ドイツの冷徹な工学と、アメリカのポップアートの極致。この二つが表参道で交差する様は、極めて知的で刺激的な体験となるだろう。
さらに、映画とファッションの交差点として用意されているのが、「プラダを着た悪魔 2」とのコラボレーション展示だ。かの有名な冷酷非情なファッション誌の編集長、ミランダ・プリーストリー。彼女の厳しい要求に応えるためには、運転手は一瞬の遅れも、わずかな揺れも許されないはずだ。そんな彼女が劇中で使用する車両と同型の「メルセデス・マイバッハ
Sクラス」が鎮座している。至高の静粛性とV12エンジンの滑らかさ、そして極上のレザーに包まれた後部座席に座れたとすれば、思わず「That's
all(以上よ)」と呟き、目の前のスタッフを震え上がらせたくなる誘惑に駆られること請け合いである。
ファッションとの融合は展示にとどまらない。会場で我々を出迎えるスタッフたちのユニフォームには、スポーツとファッションを高度に融合させたブランド「Y-3」のアイテムが採用されている。ヨウジヤマモトの美学とアディダスの機能性が同居するこのブランドは、メルセデス・ベンツの哲学とも見事に呼応する。会場内には、メルセデスAMG
PETRONAS
F1チームとY-3のコラボレーションコレクションの世界観を表現した特別なラッピングカーも展示されており、日本の「和」とストリート文化、そして最高峰のモータースポーツの熱気が、見事な調和を見せている。
そして、この施設が表参道という土地で「新たな顧客層」を呼び込むための最大の仕掛けが、カフェの併設である。ただのカフェではない。株式会社peace
putのオーナーシェフ、平子良太氏が手掛ける5つのブランドが初めて一斉に集う「Mercedes cafe by I'm
donut?」なのだ。「I'm
donut?」といえば、その生ドーナツを求めて若者たちが長蛇の列を作ることで知られる、現代のスイーツ界の覇者である。
英国人ならば「美味しい紅茶とスコーンのセットはないのか」と不満を漏らすところかもしれないが、ここは東京だ。甘くてとろけるようなドーナツを目当てに表参道を訪れた若者たちが、ふらりとこの施設に立ち寄る。彼らはドーナツを頬張りながら、アンディ・ウォーホルのアートを眺め、F1のラッピングカーの写真を撮り、マイバッハの威容に圧倒される。そして、いつしかスリーポインテッド・スターの魔力に魅入られていくのだ。自動車離れが叫ばれて久しい現代において、これほど巧妙で、かつ洗練された新規顧客へのアプローチの手法があるだろうか。
もちろん、見るだけでは終わらないのがメルセデスの流儀だ。有効な運転免許証を持つジェントルマンであれば、誰でも気軽に最新モデルの試乗ができるようになっている。重厚なカタログを前に商談テーブルにつく必要はない。「Mercedes-Benz
Studio
Tokyo」の公式LINEから、スマートに予約を入れるだけだ。しかも、オープン記念として、試乗を予約した先着500名には、その場で好きなマークを刻印できるオリジナルラゲッジタグがプレゼントされるという。この細部まで行き届いたホスピタリティには、ただただ感服するほかない。
「Mercedes-Benz Studio
Tokyo」は、約1年間の期間限定となるオープンだ。過去の偉大な発明から、現在のアートやファッション、そして未来のモビリティまで、時空を超えたメルセデスの魅力がこの一つの交差点に凝縮されている。
もしあなたが、純粋な内燃機関の咆哮を愛する生粋のクルマ好きであったとしても、あるいは最新のファッションやアートにしか興味のない都会の住人であったとしても、ここを訪れて損はない。140年前にカール・ベンツが火をつけたイノベーションの炎は、形を変えながら、今もなおこの表参道の地で静かに、しかし力強く燃え続けているのだから。今度の週末は、極上のドーナツを片手に、自動車の歴史と未来が交差する瞬間を目撃しに行こうではないか。
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