2026年1月23日。東京・青山に、時代錯誤も甚だしい(褒め言葉だ)聖地がオープンした。ケータハムとモーガン。エコとAIが支配するこの街で、ガソリンの匂いと木のぬくもりを売る彼らの企みを、現地で目撃してきた。
親愛なる読者諸君。
私は今、東京・青山のド真ん中に立っている。
周りを見渡せば、音もなく滑るように走る電気自動車や、ショーウィンドウに飾られた季節外れのハイファッションばかり。そんな、ある意味で「正しく、退屈な」2026年の風景の中に、明らかに異質な空間が誕生した。
本日、1月23日にグランドオープンを迎えた「ケータハム東京 青山ショールーム / モーガンカーズ東京 青山ショールーム」だ。先日の記事でも伝えた通り、ここは英国が誇るライトウェイトの狂気・ケータハムと、走る重要文化財・モーガンが同居する旗艦店である。
オープニングの熱気が冷めやらぬ中、私はこの素晴らしい「アナクロニズムの聖地」を仕掛けた重要人物たちを捕まえ、マイクを突きつけた。なぜ今、青山なのか? そして、誰にこの愛すべき不便な車を売りつけようとしているのか? その答えは、予想以上に情熱的で、そして少しばかりクレイジーだった。
なぜ今、「青山」に旗を立てたのか?
まず話を伺ったのは、インポーターであるエスシーアイ株式会社の広報、森田恭平氏だ。
彼は開口一番、この一等地に店を構えた理由をこう語った。
「最大の理由は、最新モデルを『いつでも見られる、乗れる』場所を東京都内に確保するためです。これまでは、都内で実車を見ようとしても、展示車や試乗車が常にあるとは限らない状況でした。ようやく安定的に車を輸入できるようになった今、お客様との重要なタッチポイントとして、この場所が必要だったのです」
なるほど。これまではカタログと睨めっこして、英国の工場から船が届くのを祈るしかなかったが、これからは仕事帰りにふらりと立ち寄り、「ああ、やはりドアがないのは最高だ」と確認できるわけだ。
森田氏によれば、現在モーガンのディーラーは全国9拠点。ケータハムもほぼ全ての拠点で併売されているという。しかし、気になるのはその顧客層だ。スパルタンなケータハムと、優雅なモーガン。水と油のように見えるが、実はそこには美しい「系譜」があるという。
「『軽量スポーツカー』という点では親和性があります。特にロータスのエリーゼやエキシージに乗っていた方が、よりプリミティブな刺激を求めてケータハムに興味を持つケース。そして、さらにその先の『人生最後の車(上がりの車)』として、雰囲気を楽しみつつオートマで快適に乗れるモーガンを選ばれる…という、理想的な乗り換えの流れもあります」
「上がりの車」としてのモーガン。なんと甘美な響きだろうか。
若いうちは路面のギャップで背骨をきしませながらケータハムで走り、歳を重ねたらモーガンのウッドフレームに包まれて余生を過ごす。これこそ、英国車好きが目指すべき「ゆりかごから墓場まで」の正しいあり方かもしれない。
ちなみに納期について尋ねると、森田氏は申し訳なさそうに、しかし誇らしげにこう答えた。
「モーガンは基本的にオーダーメイドで半年から8ヶ月。ケータハムのフルオーダーは約1年を見ていただいています。ただ、ディーラーの見込み発注車両と合致すれば、1ヶ月程度で納車できる場合もあります」
1年待つのも愛だが、1ヶ月で手に入るならそれに越したことはない。ここ青山には、即納可能な「運命の出会い」が転がっているかもしれないのだ。
若者よ、スマホを捨ててステアリングを握れ
次にマイクを向けたのは、このショールームの現場を預かる桑田晃二店長だ。
彼は以前、ロータス原宿の店長を務めていたという、筋金入りのブリティッシュ・ライトウェイトの伝道師である。青山という立地柄、さぞかし富裕層の老人たちを相手にするのだろうと思っていたが、桑田店長の野望はもっと若々しいものだった。
「価格が上がってしまった面はありますが、20代・30代の若いエンジニア層などにもターゲットを広げたいと考えています。渋谷に近いこの場所から、車に興味が薄いとされる若い世代にも『車の楽しさ』を情報発信していきたいですね」
20代のエンジニアにケータハム? 正気かと思うかもしれないが、よく考えてみてほしい。
現代の車はブラックボックス化し、ボンネットを開けてもプラスチックのカバーしか見えない。しかし、ケータハムはどうだ。サスペンションの動き、吸気音、排気の熱、すべてがむき出しだ。機械工学を愛する若きエンジニアにとって、これほど優れた「教材」であり「玩具」はないはずだ。
桑田店長は、両ブランドの魅力をこう定義する。
「ケータハムは『非日常』を味わえる唯一の車。持つことで人生観が変わり、『この車に乗るために仕事を頑張れる』と思わせてくれる存在です。一方、モーガンは『自分だけのセンスで作り上げるおしゃれな車』。まずはパソコンでコンフィギュレーターを開いて、理想の一台を作ってみてほしいですね」
店長の言葉には実感がこもっている。
確かに、「週末にセブンに乗る」という楽しみがあれば、平日の退屈な会議も、理不尽な上司の小言も、すべては週末のガソリン代のためだと思えば耐えられる気がしてくる。
英国の「ガレージメイト」としての提案
そして、このショールームにはもう一つ、見逃せない「同居人」がいる。
英国のバイクブランド、「MUTT Motorcycles(マット モーターサイクルズ)」だ。
四輪のショールームに二輪? と首をかしげるなかれ。これには明確な、そして我々のような人種には痛いほどわかる理由がある。
「ロータスのお客様を接客していて、『車とバイクの両方に乗る人』が非常に多いことに驚いた経験が背景にあります」と桑田店長は語る。なんと、桑田店長は、バイク乗りのお客様に触発されて、バイクの免許も取ってしまったそうだ。
「同じイギリス文化を背景に持ち、ガレージにケータハムとマットが並んでいる生活は非常に親和性が高いです。その日の天気や体調で乗り分けるような、人馬一体の楽しみ方を提案していきたいですね」
想像してほしい。ガレージの右には、ブリティッシュグリーンのケータハム。左には、マットブラックの無骨なDRK-01。
どちらも屋根はなく、雨が降れば濡れる。快適装備などない。しかし、そこには「操る喜び」だけが凝縮されている。
ケータハムで風になりたい日もあれば、MUTTで孤独に街を流したい夜もある。この2台は、最高の「ガレージメイト」になるに違いない。
結論:ここは「抵抗」の最前線である
取材を終え、ショールームを出ると、再び青山の洗練された、しかしどこか無機質な街並みが広がっていた。
だが、私の背後には、確実に「熱」があった。オートサロンで話題をさらったEVクーペ「プロジェクトV」の展示も素晴らしいが、やはりこのショールームの本質は、内燃機関への、そして「人間が機械を操る」という行為への、深くて重い愛だ。
エスシーアイと桑田店長が青山に作ったのは、単なる自動車販売店ではない。自動運転と電動化がすべてを覆い尽くそうとする時代に対する、レジスタンス(抵抗)の砦だ。
もしあなたが、車の運転を単なる「移動」だと思っているなら、ここに来る必要はない。近くの暖房の効いたカフェでラテでも飲んでいればいい。
だが、もしあなたが、ステアリングから伝わる路面の感触に生きている実感を得るタイプの人間なら、あるいは、人生最後の車を何にするか悩み始めているなら、今すぐ南青山7-1-7に向かうべきだ。
そこでは、頑固で、不便で、愛すべき英国の友人が、エンジンを温めてあなたを待っている。
ただし、くれぐれも注意してほしい。一度そのシートに座ってしまったら、あなたの銀行口座の残高と、週末の予定は、劇的に変わってしまうことになるだろうから。
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