WEC第7戦、富士スピードウェイを前に、ファンミーティングが行われた。WECにチャレンジし続ける9X8と、プジョー・トタルエナジーズの強さとは。
WEC (世界耐久選手権)は、スポーツカーレースの頂点に位置する国際自動車レースシリーズだ。その歴史は1953年にさかのぼり、現在の形式は2012年から始まった。今回、富士スピードウェイでのWEC第7戦を前に、プジョーチームのドライバー、ロイック デュバルとニコ ミューラーを囲んで、カスタマーイベントが開催された。
WECについて、簡単におさらいしておこう。複数のクラスが同時に走行する耐久レース形式で、2023年シーズンでは、ル・マン24時間レースを含む全7戦が開催された。主にヨーロッパを中心に開催され、日本の富士スピードウェイでも行われ、残りは11月2日のバーレーンを残すのみである。
2023年シーズンからは、以下の3クラスで競われている。ハイパーカー (LMH/LMDh)、LMP2、LMGTE Amで、プジョーはハイパーカークラスに参戦している。2007年から2011年まで、ディーゼルエンジン搭載の908 HDiで参戦し、2009年にル・マン24時間レースで優勝を果たした。2022年にWECに復帰し、新型マシン9X8(ナインエックスエイト)を投入している。2023年シーズンの成績は、モンツァ6時間で初の表彰台(3位)獲得、マニュファクチャラーズ選手権で5位となった。
WEC参戦3年目となる9X8 2024モデルは、よりエキサイティングなカラーリングを採用。プジョーのシンボル、ライオンの群れをモチーフとする大胆な4色のデザインにより、スピード、柔軟性、力強さが表現されている。またフロントとリアで異なる幅のタイヤセットアップが認められたことにより、エアロダイナミクスを大幅に改良。約90%のボディワークを再設計し、リアウイングが装着された。ライオンの3本鉤爪(かぎつめ)モチーフのLEDヘッドライトとLEDテールライトも健在だ。スペックは下記となる。
全長:4,995×全幅:2,000×全高:1,145mm / 車両重量:1,030kg
フロントドライブトレイン:200kW電動モータージェネレーターユニット(MGU)+1段変速/減速機
カテゴリー:ル・マン・ハイパーカー(LMH)
タイヤ:スペック31/31
リアドライブトレイン:480-500kW 2.6ℓ90度V型6気筒ツインターボガソリンエンジン+7速シーケンシャルトランスミッション
パワートレイン:プジョーハイブリッド4 500kW(AWD)
燃料タンク容量:90ℓ
バッテリー:高密度900Vバッテリー(Total Energies/Saftと共同開発)
昨年に続き、PEUGEOT TOTALENERGIES(プジョー・トタルエナジーズ)チームはゼッケンナンバー93、94の2台のPEUGEOT 9X8で参戦。ライオンのような不屈の精神と闘志を秘めた7名の精鋭ドライバーと共に、富士6時間耐久レースの勝利を目指している。WECプジョーチームの主要ドライバーであるロイック デュバルとニコ ミューラーが訪れるとあって、幸運な日本のプジョーオーナーは喜びもひとしおだった。
ロイック デュバルはフランス出身。SUPER GTでの活躍、ル・マン24時間レース優勝経験があるほか、WECでの豊富な経験を持っている。プジョー 9X8での強みを、ストレートスピードの高さ、優れたブレーキング性能、空力性能と減速性能の良さをあげている。デュバル選手は、ハイパーカーについて「LMP1の息子とも言えるような立ち位置」と評しており、テクノロジーが満載でありながら、重量が増加したことで動きがやや鈍くなったと分析している。
ニコ ミューラーは1992年2月25日生まれのスイス出身のレーシングドライバーだ。2009年: スイス フォーミュラ ルノー 2.0 チャンピオン、DTM: 最高順位2位 (2019年, 2020年)、WEC: 2022年後半からプジョーに加入し、バーレーンでの初出場で4位入賞。ミューラー選手は多彩なレース経験を持ち、フォーミュラカーからツーリングカー、耐久レースまで幅広いカテゴリーで活躍してきた。WECでの経験はまだ浅いものの、その適応力と速さで注目を集めている。
ファンミーティングでは、二人のトークショーが行われた。
日本のレースファンについて、熱狂的で情熱的、ドライバーへのサポートが手厚いと感じている。長く応援してくれるファンが多く、顔見知りのファンと再会できることが嬉しい。ドライバーとの距離が近く、交流の機会がたくさんある、と話した。ニコは、プジョー 508を所有しており、9X8との共通点を感じ、愛着を持っている。
プジョー9X8ハイパーカーの魅力については、ユニークなデザインが挙げられた。リアウイングの位置や全体のシルエットなど、他のハイパーカーとは異なる特徴的なデザインが魅力。また、高いパフォーマンスを発揮し、ドライバーに大きな喜びを与えている。そして、プジョーブランドのアイデンティティを強く表現しており、ドライバーは誇りを持ってこのマシンをドライブしている。
さらに、ドライバーたちは、富士スピードウェイでのレースを非常に楽しみにしている。特に、日本の伝統的なサーキットでのレースは、彼らにとって特別な経験となる。チーム一丸となって良いレースをすることを目標としている。FSWを何度も走ったことがあるロイックはベテランなので、富士スピードウェイの経験を活かしてチームに貢献し、初めて走るニコは、ロイックから多くのことを学びたいと考えている。
イベント終了後、Q&Aセッションが行われた。
―FSWのレースについての見解
コタでのレースは厳しいものでしたが、富士ではもう少しパフォーマンスを引き出して、ポイントを獲得できるよう頑張りたいです。大きな飛躍は期待していませんが、現実的な目標として、ポイント圏内に入ることを目指しています。
―現行の9X8マシンの仕上がりについて。特にドライビングフィールに関しての評価
2024年型9X8に関しては、ダウンフォースと空気抵抗のバランスが改善され、トップスピードが向上しました。これにより、ドライバーがアクセルを踏むだけでラップタイムが改善されるのです。また、マシンはバンピーな路面でも対応力が増し、プラットフォームがより安定しています。加えて、メカニカルグリップ、特に低速コーナーでのグリップ向上が課題として残っています。タイヤの扱い方にも工夫が必要で、特にロングランでの性能維持が重要です。
―富士スピードウェイの特性について
富士は非常に滑らかな路面で、乾燥した条件ではマシンのポテンシャルを最大限に引き出せるコースです。特に高速コーナーと低速コーナーのバランスが良く、メカニカルグリップが重要な要素となります。タイヤの劣化を抑え、レース終盤で差をつけるためにも、低速セクターが鍵になります。
―最近の9X8マシンでメカニカルグリップは向上したか?また、空力とどのようにバランスを取っているか?
わずかながら改善されていますが、それは空力の進化によるもので、マシン全体がより柔軟になり、バンプやカーブの吸収力が増しています。大きな焦点は空力にあり、メカニカルグリップはその結果として向上しました。
―富士6時間レースで特に注目すべきポイントは?
レースのスタートは非常にエキサイティングです。特にハイパーカークラスは台数が多く、序盤のトラックポジションが非常に重要です。また、レースの最後の数時間はスプリントのような展開になり、最初から最後まで見逃せません。
―雨が降った場合の戦略
富士での雨は難しい条件になりますが、これまで雨天時のパフォーマンスは比較的良好でした。雨はチャレンジングですが、対応できる自信があります。ただし、晴天の方がドライバーとしては走りやすく、観客にとっても良いでしょう。
―プジョーのチームの雰囲気について
チームスピリットは非常に高く、全員が次の勝利に向けて強い意欲を持っています。他のチームでは、勝利が遠ざかると雰囲気が悪くなることがありますが、プジョーのチームはそのようなことがなく、一丸となって目標に向かっています。特に、メカニックやエンジニアとの連携が非常に良好で、これが今後の勝利につながると期待されています。
―ニコさんは初めて富士を走る予定ですが、どのような準備をたか?また、日本の印象について
去年、肩のケガで富士に来られなかったのですが、その際の準備が役に立つと思います。シミュレーターでの準備は限られていましたが、チームメイトからのアドバイスを受けて、実際の走行前に十分な準備ができています。また、日本の食文化が非常に気に入っていて、特に料理が楽しみです。
結果は、93号車が4位、94号車が8位だった。日本のファンからの応援、マシンの進化やチームの強い結束力が今後のレース結果にどう影響するのか、今後も期待を込めて見守っていきたい。
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