Watches & Wonders Geneva (ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ)という、スイスのジュネーブで行われる超高級時計の展示会について、ご存知だろうか?以前、この展示会はジュネーブサロンと呼ばれ、バーゼルワールドに参加をしないカルティエを中心とするリシュモングループが独立して活動していたが、今年はロレックス、モンブラン、ジャガー・ルクルト、ロジェ・デュブイなどのラグジュアリーブランドがズラリ勢ぞろいした。2022年は、3月30日から4月5日
の日程で、ジュネーブ モーターショーの会場としても有名な「パレクスポ(Palexpo)」の会場で行われたが、その中で、日本の時計ブランドとしてグランドセイコーが初参加したのである。この快挙について、詳しく見てみよう。
それでは、グランドセイコーの展示内容から紹介したい。今回展示されたものは、3種類で合計7モデルとなる。
まずは新たなデザイン哲学を体現する「エボリューション9 コレクション」より、スプリングドライブ GMT、クロノグラフ GMT および 5 Days の3 種類のムーブメントを搭載した本格スポーツウオッチ計5 モデル。こちらは、6 月上旬以降、順次発売する。価格は968,000 円~1,430,000 円。
「エボリューション9 コレクション」は、1967 年に確立したデザイン手法を継承し、視認性と装着性を一層進化させると共に、日本の美意識に基づく光と影を表現する、新たなデザイン文法「エボリューション9スタイル」により開発されている。当デザインの代表格、荘厳な白樺林 を モ チ ー フ と し た SLGH005 が、2021 年 度 ジ ュ ネ ー ブ 時 計 グ ラ ン プ リ(Grand Prix d’Horlogerie de Genève)において「メンズウオッチ」部門賞(Men’s Watch Prize)を受賞し、より一層国内外から注目を集めている。
今回新たに登場する 5 モデルは、世界に評価されたデザイン文法を基に、グランドセイコーならでのスポーツウオッチとして、「瞬時の判読性、直感的に分かる操作性、頼れる堅牢性」を追求して開発された。
各モデルのケースとブレスレットには、重量がステンレススチールより約 30%軽く、通常のチタンよりも色が明るく、更に傷つきにくいブライトチタンを採用。ルミブライトが塗布された力強い時分針とインデックスが昼夜を問わず高い視認性を確保し、アラビア数字には、当コレクション専用に開発された識別性の高いフォントを採用している。また、ケースとブレスレットを繋ぐかん幅を広くし、重心を低くすることで、手首に心地良くフィットし、ユーザーの活動的な動作の中でも安定した装着性を実現した。りゅうずガードは、カン足からスムースに繋がる一体形状にまとめられ、コンパクトかつ実用的に仕上げられている。
Evolution 9 Collection スプリングドライブ GMT
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/sbge283
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/sbge285
Evolution 9 Collection スプリングドライブ クロノグラフ GMT
グランドセイコークロノグラフ 15 周年記念限定モデル(SBGC249のみ)
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/sbgc249
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/sbgc251
Evolution 9 Collection スプリングドライブ 5Days Diver’s 200m
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/slga015
二番目はこちら。「マスターピースコレクション」より、ブランドの意匠を凝らしたジュエリーウオッチを5 月27 日(金)から発売する。価格は29,700,000 円、全世界で5 本の数量限定だ。
高級腕時計工房「マイクロアーティスト工房」で精鋭たちが生み出す独創的なムーブメントを搭載した「マスターピースコレクション」から登場するジュエリーウオッチ。本作は、精度・視認性・耐久性といった腕時計の実用性と、ジュエリーウオッチならではの装飾性を高い次元で両立させたモデルとなる。
1960年の初代グランドセイコーの誕生以来、「獅子」をブランドのシンボルとして用いてきた。百獣の王の力や威厳、王の象徴とされてきた「獅子」には最高峰の腕時計を目指す意志が込められている。その精神に基づき、圧倒的な存在感を放つ「White Lion」を題材に、独創的なジュエリーウオッチへと昇華させた。
ダイヤモンドをブラックスピネルと隣り合わせることで、輝きを一層引き立たせ、グランドセイコーが提唱する「光と影」のコンセプトを大胆に表現。ブラックスピネルは、熱処理や染色などを一切施していない天然の黒い貴石だ。
ダイヤルを囲むダイヤモンドとブラックスピネルは分目盛りとして機能している。熟練した職人の技巧によって 18K ホワイトゴールド製のダイヤルベース上に円周状に隙間なく水平にレール留めされることで流れるように美しい輝きを放ち、焼き入れを施したグレーの秒針がその上を滑らかに移動する。12 時位置のブラックスピネルは 3 石に、3 時・6 時・9 時位置は他よりもわずかに幅が広いものを採用することで時刻の判読性を高め、「実用性」と「華やかさ」が共存するグランドセイコーならではのジュエリーウオッチを実現している。
大きく張り出したケースのかん足にもダイヤモンドをセッティングし、美しい獅子の研ぎ澄まされた爪の輝きを表現している。ダイヤルの中心部には、ライオンのたてがみを彷彿とさせる有機的な型打ち模様をあしらった。
搭載したキャリバー 9R01 は、「マイクロアーティスト工房」が手がけるスプリングドライブムーブメントである。機械式時計やスプリングドライブは、香箱(こうばこ)に納められた「ぜんまい」が動力源となる。一般的な時計に搭載される香箱は一つのみだが、本モデルでは、三つの香箱を直列に配置することにより、最大約 8 日間(約 192 時間)の連続駆動を可能にした。
受けの形状は富士山、ローターは太陽、ルビーは諏訪の街の灯り、そしてパワーリザーブ表示は諏訪湖がイメージされており、裏ぶたを通してスプリングドライブの誕生の地から霊峰富士を望んでいるかのような情景が楽しめる。
Masterpiece Collection
スプリングドライブ 8 Days ジュエリーウオッチ 限定モデル
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/sbgd209
最後は、安定した高精度を実現する世界初の新機構を搭載した「グランドセイコー Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」だ。10 月21 日(金)から発売する。価格は44,000,000 円、全世界で20 本の数量限定だ。
こちらは、グランドセイコー初のコンプリケーションウオッチとなり、この機械式複雑時計は独創的な機構が生み出す音色と表情から、心臓の鼓動を意味する「Kodo」と名付けられ、グランドセイコーの新たな領域を切り開くとともに、時計史に新たな 1 ページを刻む渾身の作だ。搭載される新キャリバー 9ST1 は、世界で初めて二つの複雑機構「コンスタントフォース」(動力ぜんまいの巻き上げ量にかかわらず、機械式時計の精度を司る「てんぷ」に、一定したエネルギーを届ける機構)と、「トゥールビヨン」(「てんぷ」と周辺の部品を一定の速度で回転させることで、重力によって生じる精度誤差を取り消す機構)を同軸に一体化して組み合わせることで、新次元の安定した高精度を実現している。
2020 年、グランドセイコーは機械式腕時計のさらなる高精度化を目指し、既成概念にとらわれない自由な発想で生まれたコンセプトムーブメント「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」を発表した。その後、このコンセプトムーブメントを複雑時計として実現するため、340 を超えるパーツを全面的に見直し、2022年「キャリバー 9ST1」の開発に成功した。「T0」から想定されるサイズを大幅に下回り、良い意味で、メディアを驚かせた。43.8mmにまでサイズダウンに成功し、違和感のない装着性を実現するため、開発チームは試行錯誤を繰り返し、結果的にT0の図面から9割以上を修正することになった。その努力が実を結び、厚さも12.9mmまで追い込むことに成功。コンプリケーションウオッチとしてはコンパクトなサイズ感を実現している。
新ムーブメントは小型化を達成しただけでなく、より美しく、より心地良い音色を奏でる事に成功し、従来のグランドセイコーよりはるかに優れた精度安定性も実現している。なんと、プロジェクトの開始から 10 年の歳月を経て、「グランドセイコー Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」として世に誕生したというわけだ。
伸びやかなアーチを描く造形は、「プラチナ 950」とグランドセイコー独自の外装素材「ブリリアントハードチタン」の組み合わせにより、大胆にスタイリングされている。熟練の職人によるザラツ研磨に基づく鏡面仕上げと筋目仕上げが施され、独創的な造形をシャープに際立たせつつ、美しい調和を生み出し、日本が大事にしてきた「心地良い間」を表現して
いる。
ストラップには日本古来の伝統技法である『なめしの技術』と『漆塗りの技術』を融合させた、「姫路 黒桟革(くろざんがわ)」を採用。審美性と耐久性の高さから、かつて武将の甲冑に用いられた伝統素材は、職人が手作業で牛革に漆を何度も塗布し、時間をかけて光沢のある表情に仕上げていく。更に付け替え用として、表面も裏面も上質なクロコダイルを用いたストラップを付属している。両バンドとも国内の熟練の職人が 1 本ずつ手縫いで仕上げるという、気の遠くなるような工程が含まれている。
Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン
www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/slgt003
今回、なぜ、グランドセイコーがこのWatches & Wonders Geneva 2022に日本のブランドとして初めて出展することができたのだろうか。その疑問について、セイコーウオッチ株式会社のマーケティング統括室より答えをいただくことができた。
Watches & Wonders Geneva 2022に出展することになったきっかけを教えてください。出展を希望すれば出られるものなのでしょうか?それとも、主催者側から推薦されないと出展できないのでしょうか?
「以前より主催者側から出展要請をいただいておりました。Watches & Wonders Genevaは、ブランド、小売店、メディアなど、高級時計業界の関係者が一堂に会し、その成果を祝う場であり、弊社はグランドセイコーでしか実現できない「日本発信の高級時計ブランド」を表現し、今までのWatches & Wonders Genevaには無かった新たな魅力を提供できると確信し、2022年からの出展を決意いたしました」
今回出展商品のうち、上で紹介した「Kodo」については、どのような狙いがあったのでしょうか?
「グランドセイコーは日本の伝統に深く根ざし、それを時計に表現しています。日本の感性に基づく、終わりなき探求心とも言えるでしょう。グランドセイコーは自然を慈しみ、その美しさをデザインに反映すると共に、匠たちが常に改善と研鑽を重ね、本質を追求してまいりました。
今回のWatches & Wonders Geneva 2022にて発表した、グランドセイコー初の機械式コンプリケーションウォッチ「グランドセイコーKodo」は、他社にない日本の感性とモノ作りの精神性により誕生した代表例です。
コンスタントフォースとトゥールビヨンを時計史上初めて同一軸上に配置し、安定した高精度を実現した革新性、また、そのデザインには、光と影の調和を重んじた、日本の美意識に基づく、グランドセイコーの理想が具現化されています。
また、2つの機構が織りなす独特の動きと奏でるビートから、この時計に「Kodo/鼓動」という名前を与えました。てんぷから生まれる1秒に8回の刻音と、コンスタントフォースから発生する1秒に一回のリズムにより、音楽でいう16ビートを奏でます。高精度を追求する中でたどり着いた複雑機構が、独創的な動きと音色を併せ持つ、世界に類を見ない時計を生み出す事となりました。
グランドセイコー初のコンプリケーションウオッチは、より美しく、より心地良い音色を奏でる事に成功し、従来のグランドセイコーよりはるかに優れた精度安定性も実現しています。実用機能に加え、エモーショナルな魅力を世界に向けて発信する、グランドセイコーのメッセージとも言えるでしょう」
今後のグランドセイコーの世界戦略を教えてください。併せて、初出展となったWatches & Wonders Geneva 2022で感じた手ごたえについてもお聞かせください
「2010年に海外市場に向けて参入したグランドセイコーにとって最初の挑戦は、アメリカ市場でした。新しいものを受け入れる柔軟性を持っているアメリカ市場で過去5年間にグランドセイコーは売上を10倍以上に伸ばすことができ、ブランド認知度が進みました。その効果はヨーロッパにも波及しましたが、コロナ禍という市場環境で、売上の伸びはアメリカに比べるとやや遅れておりました。また、そもそもアメリカとは異なる独自のラグジュアリーブランドの伝統のあるヨーロッパでは新しいブランド価値を浸透させることはアメリカよりも難しいという現実もあります。
Watches & Wonders Geneva 2022への参加は、これまでヨーロッパブランドだけに注目していた時計ファンの意識を変革する大きなきっかけとなると考えています。独自性が強く求められるヨーロッパ市場において、グランドセイコーは「グランドセイコーらしさ」を大切にしたブランド体験を強化していきます。そして高級時計の中心地であるヨーロッパでグランドセイコーが真のラグジュアリーブランドとして認知されることは、グローバルな市場に波及効果をもたらすものであると考えています」
日本の高級時計ブランドの代表としてWatches & Wonders Geneva 2022への参加を果たしたグランドセイコー。4,400万円という価格と世界限定20本という希少性で注目を集めたKodoをきっかけに、これからの世界戦略がさらに期待できそうだ。超高級ブランドにとっては、レピュテーションを高めることこそが、最も大切かつ効率的なことだと思う。その手段の一つとして、今回の出展は実りが多いものとなったのではないだろうか。