スイスのジュネーブで発表されたグランドセイコーの新作2本。究極のチューニングエンジンを積むダイバーズと、匠の彫金が冴える1200万円超のマスターピース。我々の魂を揺さぶる日本の高度な技術に迫る。
腕元の「エンジン」に宿る、日本のマニュファクチュールの矜持
我々トップギアの読者にとって、優れたスポーツカーを評価する際の基準は明確だ。心臓部であるエンジンの素性とチューニングの精度、軽量かつ高剛性なシャシーがもたらすハンドリング、そして、それらを包み込むボディワークの空力性能と美しさである。世界の名だたるブランドがしのぎを削る中、独自の哲学と高度な技術力で勝負を挑むメーカーには、無条件で心惹かれるものがある。
それは、腕時計の世界においても全く同じだ。ジュネーブで開催される世界最高峰の時計見本市「Watches and Wonders Geneva 2026」は、さながら自動車界におけるジュネーブ・モーターショーである。そこへ、日本が世界に誇るマニュファクチュールである<グランドセイコー>から、我々の知的好奇心とエンジニアリングへの熱い思いを激しく刺激する、全く異なるアプローチの2つの新作モデルが発表された。
一つは、過酷な環境下での使用を想定し、極限まで精度と実用性を突き詰めたハイパフォーマンス・ダイバーズウオッチ「Ushio 300 Diver」。そしてもう一つは、卓越した職人技によって生み出される芸術的なコーチビルド・モデルとも言える、1200万円超の「Masterpiece Collection 手巻スプリングドライブ 彫金 限定モデル」である。
どちらも、機械式時計のゼンマイによる動力と、クオーツ時計の水晶振動子による正確な制御を融合させた、世界に類を見ない独自のハイブリッド・パワートレイン「スプリングドライブ」を搭載している。今回は、この対極にありながらもグランドセイコーの「THE NATURE OF TIME(時の本質に迫る匠の姿勢と、自然の移ろいからインスピレーションを受ける感性)」という共通の精神を宿した2つのタイムピースについて、じっくりと紐解いていこう。
第1章:高精度チューニングと徹底したパッケージング。「Ushio 300 Diver」
まず紹介するのは、<グランドセイコー>エボリューション9 コレクションから登場した「Ushio 300 Diver」だ。2026年6月5日(金)に発売予定で、希望小売価格は1,650,000円(税込)。
本作の最大のハイライトは、その心臓部にある。搭載されるのは、年差±20秒(平均月差±3秒相当)という、ぜんまい駆動式の腕時計としては驚異的な高精度を誇るスプリングドライブ U.F.A.(Ultra Fine Accuracy)の新型ムーブメント「キャリバー9RB1」である。これは、2025年に登場した「キャリバー9RB2」をベースに、日付表示を廃し、裏側にあったパワーリザーブ表示をダイヤル側に配置するようリファインされた最新のパワーユニットだ。
この高精度を実現するプロセスは、まさにレーシングエンジンの精密な組み上げを彷彿とさせる。セイコーエプソン塩尻事業所にある「信州 時の匠工房」で熟練の匠の技によって組み立てられるこのムーブメントは、3か月間にもわたるエージング(慣らし運転)を経て精度を安定させた水晶振動子を、ICとともに真空に密封。温度、湿度、静電気といった外部環境からの影響を最小限に抑え込んでいるのだ。さらに封入されたICは、個々の水晶振動子の周波数を複数の温度で測定したデータをもとに温度補正を行うという、緻密なECU(電子制御ユニット)マッピングのような処理を自ら行う。長年の使用に対する緩急スイッチも備えており、アフターサービスでの再チューニングも可能としている。
この堅牢かつ高精度なムーブメントを包み込む「シャシー」にも抜かりはない。小型化と薄型化を実現した新キャリバーの恩恵により、グランドセイコーのダイバーズウオッチとしては最もコンパクトなケース径40.8mm、厚さ12.9mmという理想的なパッケージングを獲得した。素材には、ステンレススチールよりも約30%も軽量な「ブライトチタン」を採用。スポーツカーのカーボンルーフやチタンマフラーのように、装着時の負担を大幅に軽減している。純チタンよりも明るいこの素材に対し、円形の定盤を回転させて面をならす「ザラツ研磨」を駆使することで、歪みのないシャープな稜線と美しい輝きを引き出している。
ダイヤルデザインは、島国である日本を取り巻く潮流の躍動感から名付けられた「Ushio」の名にふさわしく、潮の流れを型打ちパターンとカラーグラデーションで表現している。外側を暗くして視認性を高めつつ、中心を明るくしてパターンを際立たせる手法は秀逸だ。光がきらめきながら差し込む広大な海を表現したブルーダイヤル(SLGB023)と、澄んだ海の浅瀬の透明感を映し出すグリーンダイヤル(SLGB025)の2色がラインナップされる。傷に強いセラミックス製の回転ベゼルや、ダイビング時に最大24mmまで延長可能な微調整機構つきスライドロックエクステンダー方式のブレスレットなど、タフな「道具」としてのユーティリティも完璧に備わっている。
第2章:熟練の匠が仕立てる最高峰のビスポーク。「手巻スプリングドライブ 彫金 限定モデル」
次なるモデルは、前者が最新鋭のハイパフォーマンスカーだとすれば、こちらは名門カロッツェリアの手によるワンオフの超高級クラシックカーのような趣を持つ。7月10日(金)に全世界50本(うち国内30本)限定で発売される「Masterpiece Collection 手巻スプリングドライブ 彫金 限定モデル(SBGZ011)」である。希望小売価格は実に12,100,000円(税込)だ。
このマスターピースのインスピレーションの源流は、スプリングドライブの製造地である信州の蓼科高原に広がる原生林と、そこを流れる蓼科大滝(飛泉)である。プラチナ950を採用したケースとダイヤルには、飛泉が生み出す幻想的な情景が、匠による精緻なハンド・エングレービング(手彫り)によって見事に写し取られている。ダイヤルからケースに向かって水が流れ落ち、水しぶきをあげるかのような無数の放射模様は、日本独自の美意識から生まれた光と陰のコントラストを見事に表現している。
インデックスと時分針には14Kホワイトゴールドを採用し、6時位置には貴金属インデックスの証である「SDマーク(Special Dial)」が輝く。さらに秒針には、鉄を熱して表面に酸化被膜を作る伝統的な「テンパー針」を採用。通常は青く仕上げられることが多いが、本作ではケースやダイヤルとの調和を極限まで図るため、特注のグレーカラーに仕上げられている。文字盤の上を滑るように進むスプリングドライブ特有のスイープ運針と相まって、静かに移ろいゆく時の流れをドラマチックに演出する。
この芸術的なボディの奥底に収められるのは、高級腕時計の専門工房「マイクロアーティスト工房」が手掛ける極薄の手巻スプリングドライブムーブメント「キャリバー9R02」だ。2000年に設立された同工房には、技能五輪金メダリストや黄綬褒章受章者といった「現代の名工」が名を連ねる。彼らの手によって組み上げられたこのエンジンは、厚さわずか4.0mmという驚異的なスリムさを誇り、ケース全体の厚さを初代44GSと同じ9.6mmに抑えることに大きく貢献している。
薄型でありながら、1つの香箱の中に薄く長い2つのぜんまいを並列に重ねた「デュアル・スプリング・バレル」と、限られたエネルギーを再利用してぜんまいを自ら巻き上げる「トルクリターンシステム」を融合。これにより、手巻きでありながら約84時間(約3.5日)というロング・パワーリザーブ(長距離航続能力)を実現した。ムーブメントの受には、卓越した職人の手作業による鏡面仕上げとヘアライン仕上げが施され、18Kイエローゴールドのプレートには「Micro Artist」の文字が彫刻されている(購入者の希望によりカスタマイズ可能)。
さらに、ストラップにも究極のこだわりが見られる。艶のあるグレージング加工を施した無双仕立てのクロコダイルストラップに加え、京友禅・西陣織の伝統工芸職人と姫路のタンナーによるコラボレーションから生まれた「KYOTO Leather(京都レザー)」製の牛皮革ストラップが付属する。躍動感のある水しぶきを手加工の箔押しで表現したこの特注ストラップは、最高級車のビスポーク・インテリアのような深い満足感をオーナーに約束するだろう。
日本のモノづくりが到達した、2つの究極の到達点
片や300mの深海という極限環境に挑むための、年差±20秒という圧倒的な精度と軽量・強靭なチタンボディを併せ持つ最先端のダイバーズ「Ushio 300 Diver」。片や、プラチナの塊に信州の大自然を手彫りで刻み込み、極薄のムーブメントと日本の伝統皮革を組み合わせた、全世界50本限定の究極の工芸品「手巻スプリングドライブ 彫金 限定モデル」。
一見すると全く異なるキャラクターを持つ2つのタイムピースだが、その根底には、グランドセイコーが60年以上にわたって追求し続けてきた「正確さ、見やすさ、美しさ」という腕時計の本質に対する、一切の妥協なきエンジニアリングが息づいている。
過酷なニュルブルクリンクを圧倒的なタイムで周回する最新鋭のスーパーカーと、職人が何千時間もかけて内装のウッドやレザーを仕立てる超高級グランドツアラー。アプローチは違えど、どちらもクルマ好きの心を強烈に揺さぶるのと同じように、グランドセイコーの新作2モデルは、本物の価値とメカニズムの奥深さを知るトップギア読者の完璧な相棒となるに違いない。ジュネーブの地で世界中から浴びたであろう熱狂の視線を、次はぜひあなた自身の腕元で確かめてみてほしい。
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