アストンマーティン DBXのプロトタイプをオマーンで試乗

アストンマーティン初のSUV、DBX。このプロトタイプを、中東オマーンで試乗してきた。アストンマーティンの命運を握る一台の評価とは。DBXについてさらに詳しく知りたい人は、こちらの動画もどうぞ。

プロトタイプのアストンマーティン DBX

スポンサーデカールがペタペタ貼られているが、それは擬装というよりも、気晴らし程度と考えてほしい。アストンマーティンでは、完成品ではないと念押ししているのだから。

私はオマーンでDBXに試乗している。ここにはいいポイントが2点ある――むしろ、オマーンはアストンの新型SUVの試乗をするに適している。道路は舗装されていないし、道路すらないこともあるのだから。きれいに舗装されている場所もあるし、舗装前の砂利道がある河川敷は試乗の目的に適しているからだ。

通常、アストンマーティンにとって、オフロードとは道の果て。でも今は違う。これがDBXであり、このモデルの物語は、まだ始まったばかりなのだ。6つの走行モード、95mmの車高調サスペンションは5段階で調整できる。これで全てうまくいくのだ。

他の要素はどう

ダッシュボードはエラーランプが眩しい。同席したチーフエンジニアのマット ベッカーは「ステアリングの比率はあっているのだが、フィーリングや力加減は完璧じゃない。サスペンションは正しく調整できており、スプリング比とダンパーはほぼ調整が完了している。ドライブトレインは微調整が必要だが、エキゾーストは調整済み。僕は少し子供っぽいので、エグゾーストが火を噴けるようにプッシュしたんだよ」と言った。

みんなで一緒に乗り込むことができる。しかし彼の言葉で驚いたのは「ラピード[DB9ベースの窮屈な4ドア]の経験から、同乗者が最も重要な要素だとわかっていたので、まずコンセプトの段階から人にフィットするクルマであることを目指し、そしてそのようにデザインした」ということだった。これはとても興味深い。通常だと商品企画担当は、新車をどのポジションにおいて、どうしたいのか、どこと競うのかを分析し、デザイナーが最初に鞭を打っていくのだ。

しかし、これまでに実用的な家族向けのアストンマーティンはなかったから、方針を変更した。最初にパッケージを整えた結果、DBXの内部は本当に広々としている。文句を言うかもしれない唯一の乗員は、ワンちゃん。傾斜したテールゲートによってヘッドルームが制限され、皆が嫌がるリアの中央シートに追いやられるのではないだろうか。

大人4人で週末を過ごせるだろうか

一週間のお出かけ。スキー旅行。ゴルフトーナメント。もしかしたら、全部同時に計画されるかもしれない。4つ以上もの大きなバッグ。唯一直接比較できるのはランドクルーザーで、広々としている。しかしトランクの床面積は、ポルシェ カイエンやベントレー ベンテイガに匹敵する。つまり、これは確かに巧妙なデザインだということ。低いルーフ、短く曲がり落ちるボンネット、なのに見た目が大きくならないのは驚くべきだ。3,060mmのホイールベースはベンテイガよりも長い(先端から最後部まで5039mmだとしても、全長では80mmほど短い)。

しかし内部は広々としているだけでなく、後部座席に十分なフットスペースとヘッドスペースがあるだけでなく、前部座席が広すぎないので、後部座席は快適で区切り閉所感を感じない。トリムやルーフを使用すれば、格調高い雰囲気になるはずである。

ドライバーにとってはどうだろう

シートはカーブした背もたれがついていて、ほとんどのフレームをしっかりと支えることができている。ステアリングには豊富な調整機能があって、豊富な収納(センターコンソール下のハンドバッグサイズのエリアを含む)、丸いステアリングホイール(ありがとう、アストン)。デザインは間違いなくアストンマーティンである。ダッシュボード上のプッシュボタン式のギアチェンジ、美しいステッチとレザー、明快なメーター類、親しみやすく分かりやすいインフォテイメント。

それは、ドライブトレイン同様に、メルセデスからきている。プラットフォームはアストン独自のもので、独自の接着押し出しアルミシャシーを使用し、コーナー部分にはサスペンションを支えるためのがっしりとしたアルミ鋳造のノードが配置されている。

必要に応じて後輪がすべてのトルクを、前輪は最大47%のトルクを処理することができる。ベッカー氏は「もっと増やすこともできたんだけど、重量を分散するために、エンジンをさらに下に、そして後ろに移動させるために、小さなデフがフロントに欲しかったんだ」と述べた。センターデフはE63のものだが、ドリフトモードはない。このクルマの場合、必需品ではないしね。パワーはメルセデスの9速オートを介して、たくさんのメルセデス・ベンツやアストンマーティンのヴァンテージに見られるようなツインターボの4.0リッターV8エンジンが搭載されている。

速いのか

アストンによると0-100km/h加速は4.5秒で、最高速度は291km/h。これは非常に速いけれども、SUVの中では、最も高い位置にあるというわけではない。そして最高出力550psと最大トルク700Nmにもかかわらず、エンジンは、ヴァンテージやAMGにあるような、火を噴くようなものではない。パワーは徐々に中速域に達し、ノイズは軽くなり、ゴツゴツした音は小さくなっていく。とても速いが、洗練されているという印象だ。

しかし何よりも、ラリーの舞台になりそうな砂利道を思い切り駆け巡るDBXのフィーリングには、遊び心を感じられるだろう。自信に満ち、警戒心があり、意欲的。リアにさらにパワーとタフネスさがある。ロッククライミングができるオフロード車のようなアクスルアーティキュレーションはないが、実際にそのようなドライビングもできることを忘れないでおこう。そして、中東の砂丘でちょっとしたジャンプをした後に、ロードカーにもなり得る。このような大きくてゴージャスなSUVは新しいGTでもあり、人々が実際に長旅をするクルマだ。とはいえ、これは、SUV市場の縮小を正確に解釈したものなのではないかと、思うこともあった。

カイエンランボルギーニ ウルスと比較すると?

ベッカー氏は両車をチェックし、DBXがそれら(キャラクターではウルス、ダイナミックな挙動ではカイエン ターボ)だけでなく、BMW X5M、ベンテイガ、レンジローバー スポーツ SVRなどにもベンチマークされていたことを確認している。

しかし、カイエンやウルスが特に苦戦するとしたら、アストンマーティンがクルーザーのように使い勝手のよい点だ。カイエンは常にしっかりとハンドルを握っていなければならないので、運転に緊張感がある。一方で、ウルスは全力で物理学に戦いを挑んでいる。DBXはよりソフトなコアをもっており、0.2秒で1,400Nmのねじれをフロントとリアのロールバーに加えることができるような、市場で最もパワフルな48Vアクティブアンチロールを搭載しているにも拘らず、DBXはわずかなロールも怖くない。ステアリングは人為的な鋭さや、急激さもなく、反応はより慎重でありながら、忠実で正確だ。砂利道ではボディが硬く感じられ、サスペンションは穏やかだ。

舗道ではどうだろう

 ドアシールはまだ完成されていないため、ロードノイズや風切音はある。「GTよりもロードノイズに対してのパフォーマンスを飛躍的に向上させる必要がある」と、ベッカー氏は言う。「それについては、まだ研究中だ」彼は「独自のシャシーを使用してゼロから開発したことで、シャシー内のノイズパスや振動を非常に正確に管理することが可能になった」と続けた。乗り心地の良さは十分に評価されている。多くの場合で自動車は、お硬い委員会によって設計されているように感じられ、全ての関係者が満足できるように妥協しなければならない。DBSはより明確なビジョンの結果である。肘を休め、GTモードでリラックスしていると、負担をかけないクルマだということに気づいた。

その他のモードについて

スポーツとスポーツプラスのモードでは、エアサスをそれぞれ15mm、30mm下げて3連装のエアスプリングを強化したり、トルクをリアバイアスしたりしている。一方、テレインとテレインプラスは、標準から15mmと45mmリフトアップし、ロックホッピングに対応する。

他のオフローダーと同様に、適切なタイヤを装着し、車高をジャッキアップしたDBXは驚くべきものだが、急で凸凹のある上り下りを静かに登ったり降りたりできるが、極端に言えばレンジローバーのようなアクスルアーティキュレーションはない。最後に、個別モードが設定可能である。アクセスモードでは、DBXを50mm下げて乗降を補助できる。実際に降ろしてみると、DBXはまるでステーションワゴンのようになる。

ルックスは?

 昼間、ちょっと影になったところで見るのが良い。ボディーワークの繊細さ、キックアップされたテール、ボンネットの通気口、自信に満ちたフランクライン。ファンのブレードに巻き込まれたリボンのようなホイールは、あまりにも芸術的で装飾的だと思うが、よりシンプルなオプションもある。

余談だが、アストンは全体的に、ベントレーやロールス・ロイスよりもはるかにハンサムな高層ビルのような高さのクルマになっている。あるいは、ドイツのどのブランドよりも。ウルスは?存在感はあるよね、そういうものが好きな人にとっては。

運転は楽しかった?

高級SUVの中で、他にもっと運転していて楽しかったものはないかと考えてみたが、その日のうちに出てきた答えは…どれもなかった。しかし、私はそれをなんとなく予想していた。アストンマーティンはマット ベッカーの指導の下、DBXの開発に心血を注いでおり、比較的整然とした設計書一枚で、説得力のあるSUVを作ることができるだろうと思っていた。DBS スーパーレッジェーラのように、DBXは自然なアストンマーティンの姿をしている。

しかし、成功するのだろうか?

10億ドル、おそらく実際にはそれ以上の価値がある疑問だ。アストンは1,800以上の事前受注がある。だが、スタート地点として、顧客をディーラーに連れてくる必要がある。重要なのは、DBXを外側から見せるだけではなく、どれほど純粋に室内が広いのかを認識させることだ。しかし、とくにイギリス国民を、レンジローバーから脱却させるのは難しいだろう。彼らは固執しすぎているから。そして、他社との競争は熾烈で変化に富んでおり、アストンは遅れて参入した。

ビジュアル的には他より悪くない。2,245kgのV8ガソリンSUVの現実としては、燃費が7km/L前後であるにも関わらず、口うるさい環境コンシャスな人々のエコセンサーを簡単にパスしてしまう。しかし当分の間そのV8エンジンのまま進行されるだろうし、ハイブリッドや電気でのバージョンはまだ発表されていない。そしてその前に真にこだわっているのは、製造品質にほかならない。メルセデスとの提携により、状況は大幅に改善されたが、DBXが全く新しい生産ライン、新しい労働力、新しい工場(ウェールズのセントアサン)で製造されるという課題は、過小評価できない。彼らはその問題を正しく理解する必要がある。そうすれば、DBXはうまくいくに違いない。

 

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