世界中が電動化へと突き進む中、長距離ツーリングを愛する本物のクルマ好きたちに最高の朗報が届いた。プジョーのCセグメント主力モデル「308 / 308 SW」に、待望の1.5Lクリーンディーゼルエンジン「BlueHDi」が復活したのだ。ユーザーの熱烈な声で再登板を果たしたこのエンジンは、極低回転域から300Nmの極太トルクを発生。グランドツーリングの真髄を味わい尽くせ。
電気自動車だ、プラグインハイブリッドだ、ソフトウェア・ディファインド・ビークルだと、世の中の自動車ニュースはまるでシリコンバレーのIT系スタートアップのプレスリリースのようになりつつある。確かに、静かでクリーンで、信号待ちからのゼロ発進でスーパーカーすら置き去りにするような凶悪な加速力を持つEVは魅力的だ。否定するつもりはない。だが、我々クルマ好きが心から愛してやまない「グランドツーリング(長距離旅行)」のロマンを語る時、最新の電動モデルたちにはどうしても拭いきれない一抹の不安がある。それは、常に頭の片隅につきまとう充電インフラの呪縛と、重すぎる巨大なバッテリーがもたらす物理的な慣性の法則だ。
「何百キロも離れた見知らぬ土地へ、給油や充電を気にすることなく、ただひたすらに走り続けたい」。そんな至極真っ当でロマンチックな欲求を満たしてくれる最良のパートナーは、結局のところ、よく出来たディーゼルエンジンを積んだCセグメントカーなのではないか?
2026年11月3日、富士スピードウェイを1,400台のクルマが埋め尽くした巨大フェス「STELLANTIS ALL BRANDS DAY -JAPAN 2026-」。V8エンジンを積んだ巨大なアメリカントラックやオフローダーが雄叫びを上げる中、プジョーのステージでは、ある意味でそれらよりも遥かに我々の現実世界に根ざした、痛快なニュースが発表された。Cセグメントの主力モデル「PEUGEOT 308」およびステーションワゴンの「PEUGEOT 308 SW」に、1.5L クリーンディーゼルエンジン「BlueHDi」搭載モデルが復活し、同日より全国の正規ディーラーで発売が開始されたのである。
時代に逆行してでも取り戻したかった「黄金のトルク」
プジョーのこの決断は、非常に興味深い。というのも、プジョーはパワートレインの電動化戦略を推し進める中で、2024年に一度、308シリーズからディーゼルモデルの設定を完全に終了させているのだ。以降は、モーターによる滑らかな発進や電動走行を特長とするハイブリッドモデルを主力として展開してきた。
これは昨今の欧州メーカーにおける極めて真っ当な「優等生ルート」である。しかし、ここで一つの誤算(あるいは嬉しい悲鳴)が生じた。実際にプジョーを足として使い倒している現場のユーザーたちから、「ハイブリッドもいいが、ディーゼルならではの豊かなトルクによる力強い走りや、高速道路を長距離移動する際の快適なドライブフィールを取り戻してほしい」という熱烈な声が数多く寄せられたのである。
そのユーザーの声に応える形で、一度はカタログから落としたクリーンディーゼルを再びラインナップの中心に据える。この見事なまでの「手のひら返し」こそ、机上の空論よりも現場のリアルな実用性を重んじる、フランスの自動車メーカーらしい粋な計らいではないか。
今回再導入された1.5Lの直列4気筒ディーゼルターボ「BlueHDi」は、最高出力130ps(96kW)を3,750rpmで発生させる。130馬力という数字だけを見れば、現代の基準では決して驚くような数値ではない。だが、このエンジンの真骨頂はそこではない。最大トルク300Nmを、わずか1,750rpmという極めて低い回転域から絞り出すことにある。
300Nmといえば、一昔前の3.0リッター自然吸気ガソリンエンジンに匹敵する極太のトルクだ。これがアイドリングに毛が生えたような1,750rpmから湧き上がってくるのだからたまらない。これに多段化された8速オートマチックトランスミッション(EAT8)が組み合わさることで、まるで黒衣の優秀な執事が背中を静かに推し進めてくれるような、力強く滑らかな加速が実現する。
新東名高速道路の120km/h区間での巡航や、前を走る大型トラックを追い越すような場面を想像してみてほしい。右足のつま先にほんの少し力を込めるだけで、トランスミッションは無駄なシフトダウン(キックダウン)を行わず、分厚いトルクの波に乗ってスルスルと車速を上げていく。エンジンをギャンギャンと高回転まで回す必要がないため、キャビンは極めて平穏だ。この「頻繁なシフトダウンに頼ることなく、ゆとりを感じられる加速性能」こそが、長距離移動におけるドライバーの疲労を劇的に軽減するディーゼルエンジン最大の魔法である。
バッテリーを積まない「軽さ」という至高の武器
そして、このBlueHDi復活がもたらすもう一つの絶大なメリットが、「車両重量の軽さ」だ。大容量の駆動用バッテリーや複雑なモーターシステムを搭載しないディーゼルモデルは、ハッチバックの「308 GT BlueHDi」で1,420kg、ステーションワゴンの「308 SW GT BlueHDi」でも1,460kgという、昨今のCセグメントカーとしては異例のシェイプアップされた体躯を誇る。
フロントの鼻先が軽く、フロアに重たいバッテリーを抱えていないプレーンな車体は、プジョー伝統の「猫足」と称されるしなやかなサスペンションセッティング(フロント:マクファーソンストラット、リア:トーションビーム)と相性抜群だ。
ドライバーの目の前には、ステアリングホイールの上からメーターパネルを見下ろすプジョー独自の「PEUGEOT i-Cockpit®」が広がる。まるでレーシングカートのように小径の革巻きスポーツステアリング(ヒーター付き)をスッと切り込めば、1.4トン台の軽い車体はドライバーの意図した通りにノーズの向きをスッと変える。電動化で重戦車のように鈍重になりつつある現代のクルマの中で、この内燃機関ならではのピュアで軽快なハンドリング感覚は、週末のワインディングロードで思わず顔がほころぶほどの楽しさをもたらしてくれるはずだ。
デジタルとアナログが交差する極上のフレンチ・ラウンジ
もちろん、長距離を快適に移動するための「GT(グランドツアラー)」としての装備に抜かりはない。エクステリアは、最新のプジョーデザイン言語が反映された精悍なフロントフェイスへと刷新されている。フロントグリルの中央には新しいライオンエンブレム(イルミネーテッドエンブレム)が鎮座し、その両脇からはプジョーのシグネチャーであるライオンの牙をモチーフにしたマトリクスLEDヘッドライトが鋭い視線を放つ。
ドアを開けてキャビンに足を踏み入れれば、そこは最新のデジタルデバイスとフランス流の職人技が交差する極上のラウンジ空間だ。アルカンタラとテップレザーを用いた上質なシートに身を沈めれば、フロントシートにはヒーターだけでなくマルチポイントランバーサポート(マッサージ機能)まで備わっている。
ダッシュボード中央の10インチタッチスクリーン(Peugeot i-Connect Advanced)には、コネクテッドナビゲーションやApple CarPlay / Android Auto対応のミラースクリーンが完備され、さらに音声アシスタントとして「ChatGPT」まで組み込まれている。退屈な高速道路の単調な道のりでも、AIと無駄話を楽しんだり、周辺の美味しいレストランを調べさせたりと、インフォテインメントの進化は目覚ましい。さらに、花粉や微粒子をシャットアウトするクリーンキャビンシステムや、インテリアアンビエンスランプが、夜間のドライブをより一層ドラマチックに演出してくれる。
215年の金属加工の歴史に捧ぐ限定車「Titanium Edition」
さて、この日のイベントのプジョーステージでは、もう一つ、ブランドの根幹に関わる興味深い発表があった。特別限定車「PEUGEOT 3008 GT Hybrid Titanium Edition」および「PEUGEOT 5008 GT Hybrid Titanium Edition」の披露である。
プジョーというブランドの歴史をご存知だろうか。彼らは最初から自動車を作っていたわけではない。1810年、フランス東部の町で製鉄業・金属加工業からその歴史をスタートさせているのだ。ノコギリの刃、工具、そして有名なペッパーミル(胡椒挽き)やコーヒーミル。彼らが作る鋼(はがね)は「強靭で、切れ味が鋭く、しなやか」と評判を呼び、その品質の証として最高峰の捕食者である「ライオン」のマークを刻印したのが、現在のエンブレムのルーツである。
今回の特別限定車「Titanium Edition」は、そんなプジョーの創業215年にわたる金属加工の歴史と、高い強度と軽さ、耐久性を備えた先進素材である「チタン」のイメージを重ね合わせたモデルだ。クーペの美しさとSUVの力強さを融合させたファストバックフォルムの「3008 GT Hybrid」と、3列7シートのゆとりある空間を備えたラージSUV「5008 GT Hybrid」のアルカンターラパッケージをベースに、専用のボディカラー「チタニウムグレー」が与えられている。
この「チタニウムグレー」は、光の加減や見る角度によって繊細に表情を変える特長を持つ。3008のシャープな造形にはより引き締まった精悍さをもたらし、5008の伸びやかなボディには上質な存在感を与え、それぞれの車の立体的なフォルムを金属を思わせる質感で際立たせている。共に1.2Lガソリンターボエンジンに電動モーターを組み合わせたハイブリッドシステムと、圧倒的な視認性を誇る21インチの「PEUGEOT Panoramic i-Cockpit®」を搭載。価格は3008が6,046,000円、5008が6,306,000円(いずれも税込)で、各100台限定となっている。
歴史ある金属加工のプライドと、最新のモビリティデザインが見事に融合したこの限定車もまた、プジョーというブランドが持つ「ただの工業製品ではない、血の通った歴史」を感じさせる素晴らしい一台だ。
価格以上の価値を持つ、真のグランドツアラー
話を308に戻そう。この素晴らしい1.5Lクリーンディーゼルを搭載した「308 GT BlueHDi」のメーカー希望小売価格(税込)は4,890,000円。ステーションワゴンの「308 SW GT BlueHDi」は4,990,000円である。
500万円を切る価格で、極太のトルクによる余裕の加速、軽量な車体がもたらすフレンチ・ハンドリング、そして給油を忘れるほどの航続距離と、マッサージシートまで備えた最新のデジタルコクピットが手に入るのだ。
我々は今、自動車の歴史の大きな転換点に立っている。世界中が電動化へ向けてヒステリックに突き進む中で、プジョーがユーザーのリアルな声に耳を傾け、再びディーゼルエンジンをラインナップに呼び戻した意味は極めて大きい。長距離を走れば走るほどにドライバーと一体になり、疲労よりも走る歓びを教えてくれる。308 BlueHDiは、現代において最も賢明で、最もロマンに満ちた「真のグランドツアラー」の姿である。




