グラム単位の軽量化を競うMotoGPマシンの祭典に、300kg超の巨大なクルーザーが乗り込んでくる? ハーレーダビッドソンが10月のもてぎ日本グランプリにブースを出展。物理法則を無視した狂気の「バガーレース」を体感できるシミュレーターから、免許不要のエンジン体験「ジャンプスタート」まで、最高峰の精密モータースポーツ会場に現れた「巨大な鉄の塊」のシュールな魅力と、その背後にある熱狂をトップギア流に解説する。
モーターサイクル・レースの最高峰であるMotoGP。それは、人類が到達した最も異常で、最も美しく、そして最も神経質な二輪の祭典である。カーボンファイバーとチタンで構成された車体はグラム単位で削り落とされ、ダウンフォースを稼ぐための奇妙なウイングレットが所狭しと生え揃い、タイヤの温度は1度単位で管理される。ライダーたちは外科医のような精密さで時速350kmの世界をコントロールし、ほんの数ミリのラインの狂いが勝敗を分ける。それはまさに、二輪のF-22ラプターが繰り広げる空中戦のようなものだ。
そんな、極限までシェイプアップされた神経質な精密機械たちが集うパドックの裏側に、突如として「巨大な鉄の金庫」のような代物が現れるとしたら、あなたはどう思うだろうか。
そう、来る2026年10月2日(金)から4日(日)にかけて、栃木県のモビリティリゾートもてぎで開催される「2026 FIM MotoGP 世界選手権シリーズ第16戦 MOTUL 日本グランプリ」において、あのハーレーダビッドソンが堂々たるブースを出展するというのだ。
ちょっと待ってほしい。ハーレーダビッドソンとMotoGP? それはまるで、ミシュラン三ツ星のフレンチレストランの厨房に、巨大なBBQグリルとステーキ肉を持ち込むようなものではないか。あるいは、英国ロイヤル・バレエ団の白鳥の湖のステージに、プロレスラーが乱入してくるようなものだ。大排気量のVツインエンジンを轟かせ、大陸横断を目的とした超重量級のクルーザーが、なぜ1000分の1秒を争うスプリントレースの聖地にやってくるのか。
その答えは、彼らが近年熱狂している、ある「狂気の沙汰」にある。それが「バガーレース」だ。
ご存じない方のために説明しよう。バガー(Bagger)とは、長距離ツーリングを快適にするための巨大なフロントフェアリング(風防)と、車体後部の両サイドにハードケース(サドルバッグ)を備えた、ハーレーダビッドソンの代名詞とも言える超弩級クルーザーのスタイルである。総重量は軽く300kgを超え、ホイールベースはリムジンほどもある。どう考えても、サーキットのエイペックスをかすめて膝を擦るような乗り物ではない。
しかし、アメリカ人特有の「とりあえずデカくて重いものを、パワーに任せて速く走らせれば面白いんじゃないか」という、物理法則への反逆とも言える素晴らしい発想により、このバガーを本気でサーキットで走らせるレースが誕生してしまったのである。それが、2026年から新たにスタートした世界選手権「ハーレーダビッドソン バガーワールドカップ」だ。
この頭のネジが数本吹き飛んだかのようなレース選手権は、なんと欧米各国のMotoGPと併催されているというから驚きだ。精密機械たちがチリチリと神経をすり減らすレースの合間に、巨大なカウルとサイドバッグをつけた怒り狂うサイのような鉄の塊が、凄まじい地響きを立てながらコーナーに突っ込み、ステップボードから火花を散らして駆け抜けていくのである。エンターテインメントとしては、これ以上ないほど最高ではないか。ちょうど今週末(9月18日~20日)にはオーストリアでチャンピオンシップラウンドが開催されるというから、彼らの本気度は計り知れない。
そして今回、モビリティリゾートもてぎのメインスタンド前中央エリアに設けられるハーレーダビッドソンのブースでは、我々日本のファンもその狂気の一端を味わうことができる。
目玉となるのは、この「ハーレーダビッドソン バガーワールドカップ」のレース車両を模した「ロードグライド」に跨り、バガーレーサー気分を体験できるというレーシングシミュレーターだ。巨大なシャークノーズ・フェアリング越しにサーキットの景色を眺めながら、信じられないほどの重量物を振り回す感覚を、安全なテントの下で(しかも転倒して何百万円もの修理費を請求される恐怖なしに)楽しむことができるのである。これは絶対に体験しておくべきだろう。
さらにブースでは、シミュレーターだけでなく、現実世界のハーレーダビッドソン 2026年モデルの展示も行われる。MotoGPマシンのペラペラのカーボンシートを見た後に、ハーレーの豪華なソファのようなシートに触れれば、モーターサイクルという乗り物の懐の深さを改めて実感できるはずだ。また、実際の車両を固定した状態でエンジンを始動し、ギアを入れてスロットルを回すことができる「ジャンプスタート」というライディング体験も用意されている。大型自動二輪免許を持っていなくても、あるいは二輪の免許自体がなくても、Vツインエンジンの暴力的な鼓動とトルクの片鱗を合法的に味わうことができる素晴らしいシステムだ。
もちろん、彼らは我々の財布の紐を緩めることにも余念がない。「ハーレーダビッドソン ファクトリー レーシング」の熱気を纏ったレーシングギアから、日常的に着こなせるカジュアルなアパレルまで、最新のコレクションがブース内で展示販売される。サーキットの熱狂にあてられて、ついクレジットカードを差し出してしまう危険性が極めて高いエリアと言えるだろう。
そして最後に、非常に重要なお知らせがある。この日本グランプリのハーレーダビッドソンブースに足を運び、アンケートに回答すると、もれなく「限定トートバッグ」がプレゼントされるのだ。MotoGPの観戦チケットは決して安い買い物ではない。パドックパスやグランドスタンドの指定席を購入した熱心なファンであればなおさらだ。ならば、もらえるものは全て貰って帰るのが賢明な大人の対応というものである。
日本グランプリの観戦券さえ持っていれば、このハーレーダビッドソンブースへの来場は無料だ。1000ccのプロトタイプマシンが発する甲高いエキゾーストノートに少し耳が疲れたら、メインスタンド裏の中央エリアに足を運んでみてほしい。そこには、グラム単位の軽量化などクソ食らえと言わんばかりの、巨大で重くて最高にクールなアメリカン・マッスルの世界が広がっているはずだ。
最高峰の精密機械と、物理法則をねじ伏せる巨大な鉄の塊。一見すると水と油のように思える両者だが、内燃機関への狂気的な情熱という点において、MotoGPとハーレーダビッドソンの間に違いはない。もてぎの空の下で、ぜひその両極端なコントラストを楽しんでいただきたい。
=海外の反応=
「パガーニ。キッチュ(悪趣味スレスレの派手な芸術)の王様だな」
「動画も音声もないのがちょっと悲しいよ…(しくしく)」



