【時計界のハイパーカー】H.モーザーが放つ「手首の上のV12」と、リーボックとの異端なる共鳴

内燃機関の咆哮や精密なギアの噛み合いに心躍らせるトップギア ジャパン読者にとって、機械式時計は単なる時間を示す計器ではない。それは手首に宿る極小のエンジンである。スイスの異端児「H.モーザー」が2026年のジュネーブで放った新作は、まさに時計界のハイパーカー。狂気と美学の結晶を紐解いていく。


手首に宿る、孤高のコンストラクター

自動車の世界において、真に我々の心を打つのは大量生産される優等生的なクルマではなく、異常なまでの情熱と独自の哲学で組み上げられたハイパーカーや、少量生産のスペシャリティカーである。我々トップギア ジャパンの読者なら、その感覚を痛いほど理解できるはずだ。時計界における「H.モーザー(H. Moser & Cie.)」は、まさにそうした孤高のコンストラクターである。

1828年に誕生したこのスイスの高級機械式時計ブランドは、年間生産本数がわずか4000本前後という圧倒的な希少性を誇る。彼らの狂気じみたこだわりは、ムーブメントの設計から、時計の心臓部にあたるヒゲゼンマイやテンプに至るまでを自社で一貫製造する「マニュファクチュール」である点に明確に現れている。クルマで言えば、エンジンブロックの鋳造からピストンリングの削り出しまでを自社工房で完結させているようなものだ。

さらに、彼らはブランドロゴさえも文字盤から排した究極のミニマリズムを追求し、一目でそれとわかる現代的で洗練されたスタイルを確立している。外観は極めてシンプルでありながら、ボンネットの裏には複雑怪奇な超絶技巧のエンジンが鎮座している「スリーパー」のような魅力。その真の芸術品といえる美しさと希少性こそが、彼らが自らを「Very Rare(極めて希少)」と称する所以である。

Watches & Wonders Geneva 2026が目撃した新章

そんなH.モーザーが、世界最大級の時計見本市『Watches & Wonders Geneva 2026』(4月14日〜20日開催)において、ブランドの歴史に新たな1ページを刻む新作群を発表した。過去9回出展していた独立系ブランドが集うエリア「Carré des Horlogers」を卒業し、今年からメインホールへと展示スペースを移行。約400平方メートルにも及ぶ広大なブースから、驚愕のメカニズムを備えたニューモデルを世界へ向けてお披露目したのだ。以下に、その注目すべきモデルの詳細を客観的にお届けする。


ストリームライナー・ポンプ(Streamliner Pump)
まず目を引くのが、アイコニックかつ型破りなスポーツカルチャーブランド「Reebok(リーボック)」とのコラボレーションモデルだ。1980年代に一世を風靡したスニーカー「ポンプシューズ」の象徴的な操作感から着想を得ており、H.モーザーは「押す」という行為を機械式時計の巻き上げ機構として再解釈してみせた。ケースサイドのプッシュボタンを1回押すことで、約1時間分のパワーリザーブを確保できるという。機構そのものを体験として楽しめる設計と、大胆かつ洗練されたデザインが融合している。
* Ref. 6103-2200 (ブラック) / Ref. 6103-2201 (ホワイト)
* ケース: フォージド クォーツ
* 直径: 40mm / ベルト: ラバー
* ムーブメント: 手巻き
* 予定価格: 6,732,000円
* 世界限定: 各250本
* 日本入荷予定: 2026年6月頃

ストリームライナー・トゥーハンズ(Streamliner Two-Hands)
流線型のボディワークを思わせる人気コレクション「ストリームライナー」からは、ブランド初となる小径モデルが登場した。コンパクトなサイズでありながら、自動巻き機械式ムーブメントを搭載している。サイズに関わらずマニュファクチュールとしての哲学と技術力を貫いており、あらゆる装飾を排したミニマルな美しさは、あらゆる手首に自然に溶け込む現代的なエレガンスを体現している。
* Ref. 6400-1200 (ケース径34mm) / Ref. 6410-1200 (ケース径28mm)
* ケース: ステンレススチール
* ムーブメント: 自動巻き
* 予定価格: 各4,697,000円(税込)
* 日本入荷予定: 2026年6月頃

エンデバー・パーペチュアルカレンダー コンセプト タンタル
H.モーザーのミニマリズムと高度な時計技術が結実したコンプリケーション(複雑機構)モデルである。極限までシンプルを追求した永久カレンダーだ。希少なタンタルをケースとダイアルに採用し、青みがかったグレーの光沢で静謐な知性を表現している。複雑さを極限まで削ぎ落としたシンプルなデザインに、ブランドの哲学が息づいている。
* Ref. 1800-2004
* ケース: タンタル
* 直径: 42mm / ベルト: アリゲーターレザー
* ムーブメント: 手巻き
* 予定価格: 16,093,000円(税込)
* 世界限定: 50本
* 日本入荷予定: 2026年6月頃

エンデバー・ミニッツリピーターシリンドリカル トゥールビヨン スケルトン
ミニッツリピーターと、シリンドリカル トゥールビヨンという2つの複雑機構を搭載している。視覚と聴覚の両面から堪能できる、音と機構美が響き合うマニュファクチュールならではのモデルとなっている。
* Ref. 1909-0500
* ケース: チタン
* 直径: 40mm / ベルト: アリゲーターレザー
* ムーブメント: 手巻き
* 予定価格: 70,785,000円(税込)
* 世界限定: 20本
* 日本入荷予定: 2026年6月頃

極小のメカニズムと対話する至福

スマートウォッチが普及し、正確な時間を知るだけならスマートフォンで事足りる現代において、我々がなぜ数百万円、あるいは数千万円もする機械式時計に惹かれるのか。それは、EV化が進み、ソフトウェアがクルマの挙動を支配する時代になろうとしている自動車業界において、それでもV12の自然吸気エンジンや、操作のたびに手首へダイレクトなフィードバックを伝えてくるマニュアルトランスミッションを愛してやまない理由と完全に一致する。

例えば「ストリームライナー・ポンプ」のプッシュボタンを押し込むたびに、指先からムーブメントへと物理的なエネルギーが送り込まれ、命が吹き込まれるアナログな感触。それは、ドライバーが重いクラッチペダルを踏み込み、クルマの心臓部と対話する至福の瞬間に似ている。さらに、チタンやタンタルといった難加工の特殊素材を用いたケース製造や、ヒゲゼンマイに至るまでの自社一貫製造という途方もない労力は、F1マシンや数億円のハイパーカーの開発現場とも見事に重なるだろう。

我々トップギア ジャパンの読者諸氏は、製品のスペックシートの裏にある「哲学」や「物語」、そして「エンジニアの狂気」を誰よりも高く評価できる審美眼を持っている。H.モーザーが今回のジュネーブで見せつけたのは、単なる時刻を知るための道具ではなく、身に着ける者の知的好奇心を刺激し続ける「手首の上のハイパーカー」そのものである。メインホールへの進出という新たなステージに立ったこの独立系ブランドが、今後どのような「Very Rare」な驚きで我々の心を打ち抜いてくれるのか。我々のガレージ(時計箱)を熱くする彼らの動向から、引き続き目が離せない。

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