アストンマーティン・ラゴンダの新CEOがAMG出身のトビアス ムアースになった背景とは

アストンマーティンには、8月1日から新しいボスが誕生する。これまでメルセデスのAMG部門のチーフを務めていたトビアス ムアースだ。アストンマーティンのこれまでのCEOであるアンディ パーマーは退任する。パーマー氏は何台もの素晴らしい新車を発売したが、この1年はひどい損失を出し、株価は着実に破滅的な下落を続け、倒産に近い状態に陥っていた。8月1日までの暫定期間中は、現在、副社長兼最高製造業務責任者を務めているキース スタントンが暫定最高執行責任者に任命され、取締役会会長のローレンス ストロールをサポートする。
エンジニアであり、経済的な目を持つエンスージアストでもあるムアースなら、当然の選択のように見える。彼はメルセデスの社内チューナーとしてAMGを築き上げてきた実績のほか、単体のスーパーカーであるメルセデスAMG SLSを開発し、GTが発売されるまでにはAMGの責任者を務めた。3.3億円のハイパーカー、AMG ワンの監督もしていた。
ムアースとメルセデスは、アストンマーティンとは長年のつながりがある。アストンはヴァンテージやDB11 V8にAMGのV8エンジンを搭載し、メルセデスのエレクトロニクスを全車に採用している。AMGのネームプレートは、来年からアストンマーティン・フォーミュラ・ワンとなるレーシング・ポイント・フォーミュラ・ワンのパワートレインにも使用されている。そして、メルセデスの親会社であるダイムラーは、アストンマーティンに5%の出資をしているのだ。
ああ、そしてもう一つ。メルセデスF1のチーム代表であるトト ヴォルフは最近、個人的にアストンマーティン(レースチームではなく会社)に3,800万ポンド(50億円)を投資した。ウォルフは、純粋に金銭的な取引だと言っていたが、もしメルセデスがF1から撤退したとしたら(そして奇妙なことが起こったとしたら)、彼はアストンチームの運営を引き継ぐためにポールポジションにいるだろう。
ヴォルフ氏は、カナダのファッション億万長者でフェラーリのディーラーでもあるローレンス ストロールの親友だと言われている。今年初めのキャッシュの危機を回避するためにアストンマーティンに2億6,200万ポンド(35億円)を注入したコンソーシアムを率いている。この資金は、既存の株主からの3億1,800万ポンド(50億円)の追加出資によって補強された。ストロールが取締役会会長に就任したので、CEO交代の責任は彼にある。
ストロールはトビアスについて、こう述べている。「今回、トビアスをアストンマーティン・ラゴンダに迎えることができて、大変嬉しく思っています。彼は非常に才能のある自動車業界のプロフェッショナルであり、ダイムラーAGにおける長年の豊富な実績を備えたビジネスリーダーでもあります。アストンマーティンとダイムラーAGは、長期にわたって成功を収めている技術的および商業的なパートナーであり、私たちは、今後もこの関係を継続することを希望しています」
トビアスは次のようにコメントした。「ローレンスが取締役会会長に就任した後、彼が率いるYew Tree Consortiumによる巨額の投資が実施され、増資と調整が完了しました。これによって、弊社のビジネスの強みを活かし、計画どおりに製品ラインナップを拡大し、ブランド・バリューを高める貴重な機会が創出されたと確信しています」
2019年から2020年にかけて、アストンマーティンは最高技術責任者、最高マーケティング責任者、会長、最高財務責任者を失っている。しかし、ストロールが3月初旬に訪れたとき、彼はアンディ パーマーをCEOとして、パーマーが打ち出した将来の製品計画を広く信頼していることを表明した。
ストロールは彼を解雇する一方で、パーマーがヴァンテージ、DB11、スーパーレッジェーラという新しいスポーツカーシリーズを立ち上げ、DBX、ヴァルキリー、3台のミッドエンジン戦略を準備してきたことを称賛した。これは確かに驚くべき成果となった。だが、内部資金でこれを実現するのは常に困難なことでもあった。2004年から2017年までアストンのスポーツカーを支えてきたVHプラットフォームは、前オーナーのフォードが資金を出していた。
しかし、アストンマーティンが儲けることができたのは過去9年のうち1年だけ。パーマーは2014年に着任し、「2nd センチュリー・プラン」を打ち出していた。2017年には利益を上げており、彼は好転を歓迎する。その翌年、同社は証券取引所に上場したのである。彼は、このアストンマーティンという会社は単なる自動車業界の一メーカーではなく、高級ブランドであり、そのように評価されるに値する会社であると皆に話していた。しかし、その年には再び赤字を計上してしまう。
この株は2018年10月に、19ポンド(2,500円)で上場していた。2019年3月に、トップギアが約11ポンド(1,450円)に下落したという事実についてパーマーに尋ねた。そのとき、彼はこう言ったのだ。「私はエンスージアストの夢想家だが、また、考えることが好きなのです。(ロンドンの金融街である)シティが間違っていることを証明することができる、抜け目のないビジネスマンなのですよ。彼らは我々が一般的な自動車メーカーと同じではないということを、理解していません」今では40p(53円)以下の価値になってしまっているけれど。
上場企業は取締役に説明責任を負わせなければならない。その監視下にあるのは、悲惨な財務の物語である。昨年は、10億ポンド(1,315億円)の収入に対して、1億300万ポンド(135億円)の税引前損益であった。アストンマーティンは、ヴァンテージの需要を過大評価し、予想価格以下でそれらを販売しなければならなかった。一方で、新車だけでなく、あなたがまだ買うことができないレンジにも、あまりにも多くの投資をした。―ヴァルキリー、ヴァルハラ、ヴァンキッシュ、ラゴンダ、 DBX。さらに、DBXとラゴンダのためにウェールズに新工場を建設したが、ラゴンダは、現在は延期されている。これはすべて、DBXからの収益が届くまでの間、その結果を見通すために必要な資金のリザーブを弱体化させることになる。
はっきりさせておかないとならないのは、これらのミスステップと損失は、すべてコロナウイルスのパンデミックの前に発生したものだということだ。コロナウィルスはもちろん、他のすべての自動車会社と同様にショックを与えるものだったが、アストンマーティンの場合は、その苦境に追加される痛手になってしまった。だが、DBX の注文は、たくさん入ったままであると主張されている。
それにしても、パーマーのことをあまり気の毒に思わないでも大丈夫だ。フロートで彼は会社の株式の1.4パーセントを授与されたのだから。これは課税対象だったので、彼はその税金と保険を支払うのに十分な株を売って、それでも660万ポンド(8.7億円)を貯金できた。
きっと彼はまた、表舞台に登場してくるだろう。アストンマーティンのエピソードには多くの目立つスポットがあったし。パーマーが会社の人たちに向けて残した言葉は「皆さんを誇りに思います」や「皆さんと一緒に仕事ができて光栄でした」といったものだった。いずれにしても、彼は日産での上級職の経験を含む、業界での強力な記録を持っているのだ。
あるいは、彼が設立した慈善財団にもっと時間を割いて、貧困層や社会的に困窮している若者のための工学見習いを支援することもできる。
これでアストンマーティンの役員人事が終わったわけではない。理由の一つは、現在のところ同社が英国のコーポレート・ガバナンス・コードを実際に遵守していないことで、取締役の中には独立した立場の者が少なすぎるからだ。アストンマーティンによると、取締役会のメンバー構成は、最近、次期取締役会会長に就任したストロール氏にとって特に重要であり、彼の優先事項は「スキルと経験の適切なバランスを確保することである」とされている。

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