東京・三田の駐日イタリア大使公邸で開催された「メイド・イン・イタリー・デー」にトップギア・ジャパンが潜入。誕生60周年を迎えるランボルギーニ ミウラや希少なアバルト 750 ザガートなど、イタリアが誇る「モーターバレー」の至宝が集結した。ヴァッターニ大使が語る「美しさの裏にあるテクノロジー」と、日伊の職人魂を守るための知られざるストーリー。クルマ好きの心を揺さぶるプレスツアーをレポートする。
英国の自動車ジャーナリズムといういささか偏屈な視点から見ても、イタリアの「モーターバレー」が生み出す機械たちは常に猛烈な嫉妬の対象である。我々が雨漏りする薄暗いガレージでルーカスの電装品と格闘し、冷えた紅茶をすすっている間に、彼らはエミリア=ロマーニャの眩しい太陽の下で、官能的なV12エンジンと芸術的なボディワークを組み合わせる魔法を使い続けてきたからだ。
2026年4月15日、日伊外交関係樹立160周年という記念すべき年を祝う「メイド・イン・イタリー・デー」のプレスツアーに、我々トップギア・ジャパンは潜入した。東京・三田にある駐日イタリア大使公邸で開催されたこのイベントは、ファッション、高級家具、ジュエリーから、最新の航空宇宙技術、さらには食文化に至るまで、イタリアの粋をすべて持ち込んだ壮大なものだった。しかし、我々の目当ては当然ただ一つ。エントランスに集結した究極のクルマとバイクたちである。
現場に到着してまず圧倒されるのは、その舞台の特異性だ。この場所は、1600年代から続く松平家ゆかりの広大な日本庭園の上に、1960年代に日伊の建築家が共同で再建した「家のような美術館(Casa Museo)」である。館内にはルーチョ フォンタナやアルベルト ブッリといったイタリア抽象芸術の巨匠たちの作品が惜しげもなく並び、モルテーニの復刻家具やフロスのモダンな照明が、由緒正しき空間に完璧に溶け込んでいる。
しかし、そんな優雅な邸宅のエントランスに足を踏み入れた瞬間、我々の血圧は一気にレッドゾーンへと跳ね上がることになる。そこには、イタリアが世界に誇る「モーターバレー」の傑作たちが、獲物を狙う猛獣のように静かに、しかし圧倒的なオーラを放ちながら鎮座していたのだ。
まずは現代の傑作たちから見ていこう。フェラーリ ローマ アマルフィ。3,855ccの90度V8ターボエンジンは最高出力640cvを叩き出し、最高速度は320km/hに達する。0-100km/h加速わずか3.3秒という暴力的な数値を、これほどまでにエレガントなスーツで包み込む手腕はフェラーリの独壇場だ。
その隣には、マセラティ グランカブリオ トロフェオが並ぶ。心臓部には3リッターV6「Nettuno(ネットゥーノ)」ツインターボを宿し、550psを発揮する。価格は2,915万円。都内の気の利いたマンションの頭金どころか、地方なら家が丸ごと買える金額だが、この彫刻のような美しさと官能的なエキゾーストノートを手に入れられるなら、銀行口座を空にする価値があると錯覚してしまう。これがイタリアン・マジックである。
だが、真のエンスージアストの足を完全に止めさせたのは、さらに奥に控えていた2台の歴史的至宝であった。
1台目は、イタリアのレーシングチームであるアバルトが製作した軽量レースカー「アバルト 750 ザガート」だ。このクルマの成り立ちは、控えめに言っても狂気じみている。ベースとなっているのは、あろうことか非力な大衆車であるフィアット600のシャシーとエンジンなのだ。しかし、カルロ・アバルトの魔術的なチューニングと、名門コーチビルダー「ザガート」の手による徹底的な軽量化と空力設計(もちろんダブルバブル・ルーフ付きだ)を施されたこの小さな機械は、巨大なモンスターへと変貌した。
そして1956年と1957年の伝説的な公道レース「ミッレミリア」で見事にクラス優勝を果たしたのである。排気量の巨大なスポーツカーたちがコーナーでブレーキと重さに格闘している横を、この小柄なアバルトが軽やかに抜き去っていく情景を想像してみてほしい。これこそが、高度なエンジニアリングがもたらす痛快な下剋上だ。
さらに興味深いことに、今回特別協力によって日本人コレクターから持ち込まれた展示車両は、あの日本人デザイナー、ケン・オクヤマ(奥山清行)氏の署名が入った数年前の非常に希少なモデルであった。フェラーリ エンツォを手掛けた男が、かつてのライバルであるアバルトに敬意を表したというストーリーに胸が熱くなる。プレゼンターが「素晴らしいデザインと技術が融合した、インクレディブルな作品です」と興奮気味に語るのも当然だろう。
そして、我々はついにこの日の主役の前に立つ。ランボルギーニ ミウラ S。この車について語るとき、我々自動車愛好家は常に帽子を脱ぎ、姿勢を正す必要がある。
1966年、当時まだ20代だったマルチェロ ガンディーニがヌッチオ ベルトーネのために描き出したこの妖艶なボディワークは、自動車界に「スーパーカー」という概念そのものを創造した。だが、ミウラが歴史を変えたのはデザインだけではない。運転席のすぐ後ろ、ミッドシップという特等席に4リッターの巨大なV12エンジンを「横置き」で押し込むという、当時としては正気の沙汰とは思えないパッケージングを採用したのだ。
今年2026年は、この伝説の誕生からちょうど60周年にあたる記念すべき年だ。展示されていた「S」モデルは、1969年に登場した進化版であり、最高出力は初期型の350HPから370HPへと引き上げられ、最高速度は285km/hに達する。低いノーズ、まつ毛のようなヘッドライトの装飾、そしてリアのルーバー。このクルマは単なる工業製品ではなく、イタリアのエンジンモーター史における最も美しい歴史の一部、まさに「pezzo storico(歴史的な逸品)」である。驚くべきことに、館内にはこのミウラのためにランボルギーニ社から独占的に貸与された貴重なスケッチも展示されており、60年前の情熱がインクの跡から生々しく伝わってきた。
イタリアの「モーターバレー」は四輪だけにとどまらない。エントランスには二輪の傑作もひしめき合っている。
最高出力168hpを誇る1,158cc V4 Granturismoエンジンを積み、ピレリ製ディアブロ・ロッソ3タイヤとブレンボ製Stylemaキャリパーで武装した「ドゥカティ XDiavel V4」。コンパクトで極端に短いホイールベースのフレームに142PSのエンジンを押し込み、レーザーのような鋭いハンドリングを実現した「ビモータ KB4RC」。そして、イタリアのライフスタイルを象徴する「ベスパ GTV 300 オフィチーナ 8」から、若手レーサーの才能を育成するための純粋なレーシング・ミニバイク「オバーレ GP-0」まで、そのラインナップは隙がない。
さらに見逃せないのが、これらを根底から支えるコンポーネントだ。F1の足元を支配するピレリのタイヤや、世界中のスーパーカーの強大なパワーをねじ伏せるブレンボのブレーキシステムが誇らしげに展示されていた。これらはまさに、イタリアの産業力の高さを象徴する「インダストリアルピース(工業製品の傑作)」である。
この華やかな展示の熱気の中で、2月末に着任したばかりのマリオ アンドレア ヴァッターニ駐日イタリア大使は、我々トップギアの読者が最も聞きたかった核心を突く言葉を語ってくれた。
「イタリアのクルマが美しいのは、単なる見た目のデザインが良いからだけではありません。その背後には、マシーナリー、メカニクス、化学、そして新素材といった高度なテクノロジーが結集しているからです。我々は、イタリアを進んだ産業国としての真の姿を皆さんにお見せしたいのです」
情熱やデザインというロマンチックな言葉だけでイタリア車を語るのは、もはや時代遅れだ。そこには冷徹で高度なエンジニアリングが存在する。しかし、大使の言葉はさらに深い、グローバル経済におけるシビアな現実へと踏み込んでいった。
「日本とイタリアは、少子高齢化や、地方から都市部への人口流出といった非常によく似た課題を抱えています。我々は共に『製造業の国』であり、この問題は強みである職人文化に大きな影響を与えます。昨今、外国資本がノウハウだけを目的に中小企業を買収し、技術を吸収した後に会社を捨ててしまうようなリスクが高まっています。お互いの文化、デザイン、会社、そして経済を守るために、日本とイタリアはもっと協力しなければなりません」
イタリアと日本。ユーラシア大陸の両端にある遠く離れた二つの国は、共に「職人の魂(クラフトマンシップ)」を宿す国だ。美しい製品を生み出すノウハウが、数字だけを追い求める冷酷な資本に飲み込まれようとしている今、我々は相互の尊重に基づいたクリエイティブな協力によって、この防衛線を守り抜かなければならないのだ。
「この意味で、今日はメイド・イン・イタリー・デーであると同時に、『メイド・イン・ジャパン・デー』でもあるのです」と、大使は力強く締めくくった。
今後もイタリアの攻勢は続く。7月にはラグビー日伊親善試合が、10月には東京国際映画祭でのイタリア特集や「世界イタリア・スポーツ・デー」、そして11月にはユネスコ無形文化遺産に登録されたイタリア料理のウィークが控えているという。アルタガンマ財団の協力により、宇宙船に持ち込まれたヌテラから、世界に一つのビアレッティのモカエキスプレスまで、文化、スポーツ、エンジニアリングのあらゆる側面からイタリアは我々を魅了し続ける気らしい。
イタリア大使館のエントランスで、我々は単なる鉄とアルミの塊を見たのではない。そこにあったのは、160年にわたる日伊の歴史と、狂気じみたエンジニアリングへの情熱、そしてそれを未来へ繋ごうとする人々の強烈な意志であった。
イタリアの情熱と日本の精密さ。両者が手を組めば、自動車界の未来は決して退屈なものにはならないはずだ。少なくとも、ミウラのV12エンジンが奏でる官能的なエキゾーストノートの余韻を楽しみ、次世代に語り継ぐ時間は、我々にまだ残されているのだから。
トップギア・ジャパン 072:トヨタが放つV8スーパーカーの衝撃と、2026年を支配する18台
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