ディーラー探訪でブランドの今が見えてくる:MUTT大分

英国バーミンガム発祥の「MUTT」というバイクブランドを皆さんご存知だろうか。ベニー トーマス氏のアイデアで2016年に生まれたこの小排気量のレトロスクランブラータイプのバイクは、イギリスで瞬く間にヒットし、2019年に日本にも上陸を果たしている。一番大きな特徴はバランスの良い種類豊富なカスタムがすでに施されていることで、そのスタイルに一目惚れして購入する顧客も多い。パンクロック発祥の地で誕生したこのブランドは、バイクの楽しさをライダーにもたらすだけでなく、バーミンガムのちょっと荒々しくそしてアーティスティックな文化の香りも日本に運んできた。今回は、MUTT大分の「コイマール」こと小泉ゼネラルマネージャー(GM)を訪ね、MUTTの魅力や店舗の特徴をお聞きしてきた。

遊び心にあふれる秘密基地

今回訪れたMUTT大分は、宮崎県にほど近い大分市中戸次の幹線道路沿いに位置する。大分から熊本の大観峰や草千里ヶ浜へ向かうのには必ず通る道なので、ライダーたちの目を引く場所に違いない。真っ黒な店舗は外から見るとまるでお洒落なカフェのようであるが、実際に中に入るとさらに驚きの空間が広がる。

店内には5台から6台のMUTTがウッドのステージの上にキレイに並べられ、小さなカフェスペースも併設されている。そしてマットのアパレルを始め、ヘルメットや地元のジュエリーデザイナーが制作したシルバーアクセサリーなども数多く並び、まるで洋服のセレクトショップに迷い込んでしまったような感覚になるのだ。「大分にはいわゆるバイクの大型ショップが無かったので、アクセサリーを手に入れるのが難しかったのです」と小泉GMは語るが、MUTTに似合うスタイリッシュなファッションスタイルを提案していきたかったのが、ここまでアクセサリーを充実させた理由でもある。とにかく置いてあるモノの一つ一つがカッコいいので、それらを見ることだけを理由に店舗へ足を運んでみてもよいだろう。

そのほかにもショールームは「単なるバイク屋にはしたくなかった」という小泉GMのこだわりが至るところに反映されている。内装はイギリスのパブをイメージして、何百枚もの現地の写真を参考に自身でデザインした。ガラスや扉はかつて旅館で使われたものを再生して使用している。置かれているイスやテーブル、フィギュアなどの小物も自分で調達したというが、不思議とどれも空間に溶け込む絶妙なバランスを生み出している。この遊び心溢れる楽しい空間は、気さくで楽しい小泉GMそのものを表現しているように思える。

MUTT好きが高じて販売の世界に

小泉GMの経歴は異色である。19歳から様々なバイクを乗り継いできたが、小回りの効くカッコいいバイクを探している中でMUTTに出会った。MUTTの日本上陸直後に25台限定販売されたAKITAのブラックエディションを購入したことをきっかけに、MUTTにのめり込んでしまう。そして、YouTubeやSNSなどでMUTTの魅力を発信しているうちに販売店経営の話が舞い込み、現在のポジションに至っていたという。本業はまた別にある中で、YouTuber、MUTTディーラーの経営、そしてさらにはエフエム大分のパーソナリティとして活躍するなど実にマルチな顔をもつ人物である。

「楽しいことが大好きなんです」と本人は語るが、実は人を楽しませることが好きなのだろう。レゲエがゆったりと流れ、ホスピタリティマインド溢れるショールームは、MUTTのカジュアルかつオシャレで肩肘を張らないブランドイメージをスタッフの雰囲気も含めて反映しているように思える。

再来店ではマニアックなファンに変貌

MUTT大分も他店と同様に、ファーストバイクで選ばれる方からリターンライダーまで顧客の幅は広い。大抵はインスタグラムなどを見て興味を持ち来店するが、やはりデザインの良さが最終的な購入の決め手になるそうだ。

とくにMUTT初心者にとって、MUTTのバイクはともすれば全て同じスタイルに見えるようなこともあるが、モデルの特徴を説明するとお客様がさらに自分で調べ、再来店すると想像以上に知識が豊富になっていて驚くという。それほどまでにMUTTには人の「もっと知りたい」という知的好奇心に火を付ける魅力があるのであろう。

小泉GMのベースはオートバイ業界人ではなく、熱烈な「MUTTファン」である。ゆえにお客様の好みを聞いて、その人のライフスタイルやイメージに合わせたモデルをオススメするという。お客様がMUTTとともにカッコよく、楽しく過ごしてほしいとの想いからである。これは販売スタッフとしての立場よりは、良い仲間の輪を広げていきたいという感覚なのかもしれない。

MUTT大分の一番人気は、SABBATHのブラックモデルである。自分のバイクをブラックにカスタムしたいという人は多いが、実際はスポークやマットガード、ブラケット類など細かいクロームパーツをすべて交換していくのは費用も時間もかかる。出来上がりが想像とはかけ離れることも多い中、このモデルはすでに目指す最終的なスタイルにバランスよくカスタムされており、買ったその日から理想のモデルに乗れることにお客様は魅力を感じているという。よく、自分の他ブランドのバイクのカスタムの参考にと、MUTT大分に来店するお客様がいると小泉GMは語っていたが、その理由にも頷けるものがある。

MUTT大分では、これらのモデルをベースにピンストライプを入れるイベントなども開催しており、さらに自分らしさを表現するモデルに仕上げることも可能だという。

小泉GMの個人的なオススメモデルを聞くと、「空冷モデルも水冷モデルもメチャクチャ楽しいのですが…」という前置きの後、「DKR-01」という答えが返ってきた。水冷エンジン+6速トランスミッションの組み合わせで乗りやすくなったことと、近未来的なクラシックデザインがユニークだとその理由を語ってくれた。

そして店舗には女性も多く来店するため、足つきの良いFSRは常に展示しているという。

「お客様と遊べる」イベントの拠点に

MUTT大分には「ライダーズステーション」が併設されている。しかしまだあまり認知されておらず、立ち寄る人もまだ少ない。これまでもピンストライパーやキッチンカーを呼んだ少数イベントやパーティ的なイベントは実施してきた。今後はライダーズステーションをさらに充実させてMUTT大分を拠点として「お客様と一緒に遊べる」イベントを継続していきたいと小泉GMは言う。

SNSでの積極的な発信も行っており、オフラインでのイベントも大事にしている。なによりも「やってみることが大事」だと語る小泉GMはこれまでのバイクディーラーとは違う視点のユニークな企画を今後繰り出してくることだろう。MUTT大分の情報発信基地としての今後の取り組みが楽しみである。

そして、大分を訪れる際にはぜひMUTT大分に立ち寄ってほしい。セレクトショップのような遊び心溢れた店内、親しみやすいスタッフ、そして小泉GMとの会話を通じてきっとあなたの人生を変える新しい発見に出会うに違いない。

MUTT 大分
879-7761 大分県大分市中戸次1261-69
TEL:097-565-0517
営業時間:11:00-18:00
定休日:日・月曜(日曜 応相談)
Instagram: https://www.instagram.com/koimaaru.garage/

【編集後記】
MUTT大分を訪れたとき、女性の春希店長がにこやかに迎えてくれたことが印象的だった。バイクディーラーで女性の店長という組み合わせを想像していなかったからだ。小泉GMは最初から女性店長にすることを決めていたという。同じ女性のお客様や同世代の若者が安心して入れる店にしたかったことと、女性らしい柔らかい接客を期待してのことだったという。事実ベテランライダーからの評判もよく、コミュニケーションもとてもスムーズだという。こうした固定観念を打ち破る発想はMUTT大分の大きな魅力を作り上げる源泉になる気がした。

小泉GMのソバージュヘアーと日に焼けた顔から見せる笑顔は人を惹き寄せる魅力に溢れている。そしてフォードのF100や光岡のロックスターに乗る姿は誰もが憧れる「カッコいい大人」の姿であり、それを見る若者には大きな刺激となることだろう。MUTTは遊び心を大事にしているブランドである。ちょっと道を逸れるくらいがちょうどいい。

小泉GMはMUTTのプロダクトだけではなく、そんなブランドのフィロソフィーを伝える重要な役割を果たしている人物なのだと強く感じた。
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